軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ㊵

「・・・いいちろう・・・。日本人ですよね?」

「ニホン国の軍人だと仰っていましたよ」

「・・・あっ! 軍人手帳の人だ!」

思い出した!

上嶋さん! 王城の宝物庫に軍人手帳が有った人だよ!

テレサは“預かり物”だといっていたけど、何で西方の神教会に召喚された人の持ち物を王国で預かっているのかと思えば、ここで繋がった。

お爺様が目を丸くする。

「伊一朗殿をご存じでしたか」

「・・・王国の王城で、上嶋さん―――、伊一朗さんの忘れ物を預かっているんです。私はもちろん、今現在の王族も伊一朗さんと直接の面識が有るわけではないのですが」

私の現状説明に、お爺様が納得顔で頷く。

「そうでしたか・・・。あの方は、神教会のやり方に疑問を持たれていたようで、我らエルフ族の行方を探されて、お一人だけで当時の郷を訪れられたのです」

「・・・でも、討伐隊なんですよね?」

何か思うところが有って、仲間から離れて単独行動を取っていたってことかな?

どういう状況なのか、どんな立場で来たのかが理解できないな。

お爺様は私の問いに首を振る。

「ご自身が所属する討伐隊を“監視”と申されて・・・。郷を訪われたのも、どうやら、他の討伐隊の面々を討ち果たされた上でのことだったようです」

えっ!? 仲間―――、じゃないな。神教会に付けられた監視を殺してから来たの!?

“変わった方”って、そういう意味!?

「・・・私は“西方へ帰らずに放浪した人”と聞いていたのですけれど、帰らなかった理由は、そういうことだったのですね」

「“あのような奴らの仲間だと思われたくない”と申されましてな。 勇者と呼ぶに相応しい、誇り高い方だと感じたものです」

なるほどなあ。

自分を拉致した犯人から民間人を殺せと命令されて、日本の軍人さんが簡単に従うとは思わない。

事実、上嶋さんは犯人の一味を手に掛けている。

お爺様の言うように高潔な人だったんだろう。

「・・・明治時代―――、近代化が進み始めた時代の軍人さんですから、当時の日本でも高度な教育を受けた知識層だったのだと思います。上嶋さんが軍隊に所属していた頃の日本という国は、もっと強大な他国の侵略に抵抗しようと強国を目指していた時代ですから、侵略者である神教会や西方諸国に対する反発心が有ったのかも」

「そうですか。帰ることができない祖国と重ねられたのやも知れませんな」

お爺様もまた上嶋さんの心情を想像してエルフ族の境遇と重ねてしまったのか、木々の隙間に覗く青空を見上げて寂しそうに溜息を吐いた。

でも、私は昔の勇者さんに興味が湧いてきちゃったな。

「・・・又兵衛さんは、どういう方だったのですか?」

「あの方は、ご自身を“つわもの”と仰っておられましたよ」

古き友人の言動を語るお爺様は表情を緩める。

「・・・“つわもの”・・・。“ 強者(つわもの) ”? いや。“ 兵(つわもの) ”かな?」

「ほう? 意味がお分かりですか」

そりゃまあ、日本の義務教育を受けていれば、その程度はね。

正確には“強い兵士”って意味だっけ。

「・・・戦国時代―――、戦乱期の頃の方ですから、“兵士”という意味で仰ったのかと」

「なるほど。兵士ですか。あの方は戦の最中に召喚されたそうで、召喚されたその場で神官どもを数人、斬り殺されたのですよ。言葉が通じず、相当に荒れ狂った後で、扱いに困った神教会から護送されてこられて、私が言葉の術式を掛けさせていただいたのです」

おおう。いきなり大暴れしたの?

斬り殺された神教会の中の人たちはザマァだけど、今の話はテツさんが言っていた翻訳魔法のことかな。

確か、テツさんに翻訳魔法を掛けたのもお爺さんだと言ってたよね。

でも、ちょっとだけ腑に落ちないな。

「・・・自分たちの仲間を何人も殺されたのに、神教会は又兵衛さんを殺さなかったのですか?」

利己的で人を人とも思わない神教会や西方諸国なら、“支配もコントロールも出来ないなら殺してしまえ”とか言い出してもおかしくない気がする。

嫌悪感を隠さずお爺様は首を振る。

「強い勇者だからこそ、魔族と戦わせる必要が有ったのです。まるで、捕らえた魔獣のような扱いで送られてこられました。戦い方を教えて鍛えるまでもなく戦える勇者なのですから、あの者どもにとっても希有では有ったのでしょう」

「・・・そっか。対魔族大戦」

即戦力? まるで“勇者刑”だ。

「護送」って、そういうことか。

お母様が捕らえたコーニッツ子爵とムーア男爵を檻の馬車に押し込んで王都へ運んで行ったときの光景を思い出した。

きっと、あんな感じだったんだろう。

手に負えないから厄介払いも兼ねて、さっさと戦場へ送ってしまえって感じかな。

自分勝手な都合で無関係な人を拉致しておいて、どこまでも身勝手な連中だ。

「話してみれば、神教会の神官どもよりも教養が高く、死を自然の理の1つと考えておられる方でしてな」

「・・・“死ぬことも自然の理”・・・。もしかして、“何者にも屈さず”というのは?」

何となく分かる気がして確認してみれば、お爺様は優しい目で肯定する。

「己の死すら受け入れ、恐れていないからこそ、屈することがなかったのでしょう。とはいえ、“簡単にくたばって堪るか”とも仰っておられましたよ」

「・・・“魂の在りよう”・・・か。強い人ですね」

すごいな・・・。しぶとい人でも有ったんだろう。

死生観が戦国時代の武将みたいな印象を受ける。

ああ、いや。戦国時代の人だったね。

知識人で、戦いを恐れず、諦めずに知恵を絞って、全力で殺しに来る人?

敵に回すとメチャクチャ恐い人だ。

そんな人には、絶対に戦場で会いたくないよ。

ん? 何? ニマニマしているミセラさんたちに気付いて目を向けると、サッと目を逸らされた。

たくさんのお話を聞かせていただいているうちに視界が開け、拓いたばかりの試験農地に出る。