軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ㊴

「・・・そこまで難しいものでもないですよ?」

「又兵衛殿でも、そこまででは有りませなんだが、さすがは勇者ですな」

私の答えに驚いて見せたお爺様は懐かしそうな目をした。

「・・・勇者? 私は勇者では有りませんよ? んん? またべえさん?」

「失礼。我が友、勇者“朽木”のことです」

「・・・ハッ。クツキさん! 下のお名前はマタベエさんと仰るのですね」

お爺様が「友」と呼ぶってことは、レティア様と交流が有ったっていう500年前の勇者さんのことでしょ?

フルネームは「くつきまたべえ」さん。

沓木か朽木か。

一般的な漢字を当てるなら“朽木又兵衛”さんだろうね。

うん。確かに昔の日本人らしい名前だね。

「“下の名前”・・・。こちらの世界では、そうは言わないのですよ」

「・・・ああ。なるほど?」

こっちの世界の人名は、地球でいうと欧米型で、名が前で姓が後に来る。

私が言った「下の名前」というのは、“縦書き”の漢字表記の姓名になるものね。

「縦書き=日本人」だ。

お爺様の認識だと、“日本人=勇者”なのかな。

「彼の国では家名と名の順序が違うとか。又兵衛殿から初めて聞いたときには、そんな国も有るのかと驚いたものです」

「・・・まあ、そうですね。又兵衛さんは、とてもお強い方だったとか」

500年経った今でも“最強の勇者”と伝わっているぐらいだしね。

「そうですな。彼の御仁は、とにかく心の強い方でした」

「・・・心の?」

「強い」って、武力のことじゃなく?

当人を知る人ならではの人物評だよね。

当時を懐かしむように、お爺様は遠くを見るような目をした。

「何者にも屈さず、鍛錬を怠らず、決して諦めず、知恵を巡らし、戦に勝つためならば手段を選ばぬ方でしたな。尤も、そのせいで、あの者どもとの折り合いが悪かったのですが」

「・・・“あの者ども”? もしや、神教会や西方諸国ですか?」

お爺様はクスリと笑う。

「ええ。”主君でもない者どもに媚びられるか”と」

「・・・あ~。何か、分かります」

聞いた限りでは、封建制時代の武士だった人だものね。

今現在の騎士と似た考え方を持っていたのだろうし、「主君」ってところに日本の武士っぽさを感じる。

理解を示した私にお爺様はとんでもないことを言い出す。

「やはり貴女も勇者のようだ」

「・・・違いますよ? 中身は兎も角、私はこっちの世界の人間です」

現代日本の価値観で育った私に主君がどうとかなんて忠義心はないし、私はフレーリアの体を引き継いだだけの“死に損ない”だもの。

実際、「死体に取り憑く」と言われるゾンビやスケルトンと私に違いは有るのか? と不安に思ってしまう部分も有るぐらいだよ。

ゾンビやスケルトンにシンパシーなんて感じないけどね。

死霊無線機の幽霊にも親近感は抱かなかった。

私の心臓は鼓動を刻んでいるし、お腹も空くし、事実、私は生きている。

こっちの世界の現地人であるフレーリアの体は、今も生きているんだよ。

言下に否定した私にお爺様は首を振った。

「又兵衛殿、然り。テツ殿、然り。儂が思うに、勇者が勇者たる理由は、心の―――、魂の在りようでは有りませんかな」

「・・・血肉の体は問題ではないと?」

「魂の在りよう」ってことは、「地球人だからといって誰もが勇者ではない」ってこと?

「そうかも知れませんな。現在の勇王が勇者たり得るかといえば、儂には疑問に思えます。過去の勇者たちも、誰もが勇者たり得たのかといえば、決してそうでは有りませんでした」

「・・・勇者らしくない人の方が多かったのですか?」

私の解釈を肯定する答えがお爺様から返って、投下されたさらなる情報に疑問を抱く。

「儂が相見えたのは、又兵衛殿、伊一朗殿に続いてテツ殿で3人目ですが、話に聞いた限り、多くの勇者は長生きせぬのですよ」

「・・・長生きしない? ―――んん? いいちろうさん?」

聞き覚えの有る名前が疑問を上回って意識を持って行かれる。

「どうかされましたかな?」

「・・・“いいちろう”さんって、どこかで聞いたお名前だなと」

どこだっけ? どう聞いても日本人の名前だし、あんまり聞かない特徴のある名前だし、聞いたのはまだ最近だった気がする。

「最近」といっても、私がこっちの世界で目覚めて10ヶ月間ほど。

こっちの世界で日本人名を聞く機会なんてそんなには―――。

私が“いいちろう“さんの名前に引っ掛かりを覚えたことで、お爺様が再び懐かしそうにする。

「あの方は少しばかり変わったお方でしてな。儂が出会ったのも、討伐隊として送られて来た伊一朗殿がお一人で隠れ里を訪われたときなのです」

「・・・討伐隊というのは? まさか―――」

「ええ。儂らエルフ族の討伐、あわよくば捕獲です」

嫌悪感に眉間を険しくしたお爺様の答えに、私も強烈な嫌悪感を覚える。

召喚魔法で拉致した勇者にエルフ族を殺させたの?

いや。逆か。エルフ族だけじゃないね。

エルフ族と同じようにエクラーダ王国だって勇王の侵略を受けたんだから。

なんて奴ら。

襲われた側は必死で抵抗するに決まってるのだから、捕縛なんて無理だろう。

あくまでも“あわよくば捕縛”で、殺すことが前提なわけだ。

自分たちの手を汚さずに、「勇者」だとか祭り上げた異世界人に殺戮を押し付ける。

そして自分たちは“死後の天国”なんて救いを信じてうつつを抜かす。

この時点で神教会勢力が異世界人を召喚する目的が、魔族の侵攻から人類を守るための防衛ではないことが分かる。

何が天国だ。

連中が欲しいのは、自分たちの代わりに戦う奴隷のようなものなんだろう。

そういえば、勇王も”最も人間を殺した勇者”と呼ばれているんだっけ?

そんなことのために、今も無関係な人たちを拉致し続けてるんだ。

人間として腐りきってる。

吐き気を催すような醜悪さだ。

よくも、そんなことが出来るな。

まあ良い。それよりもだ。