軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ㊲

「・・・エルフ族の人たち―――、ケイナちゃんとレイクスさんのお爺様、ですよね?」

飛んでいるように見える技術を私が使うことをサーレーンさんたちから聞いているのかいないのか、全員が目を剥いて驚いている。

これ以上刺激しないように、ゆっくりと着地する。

着地した途端に、精霊たちが私の胸にスポポポポポポっと戻って来た。

ちょっとだけビックリしたけど、ありがとうね。

数え直してみれば、新たに現れたエルフ族の数は全部で11人だった。

足を止めた1人―――、きっとこの人がそうだと確信を持って私は訊いた。

年月を示すシワが顔に刻まれていて山羊のように長い立派な顎ヒゲを蓄えた男性は、確かに老人に見えるんだけど、想像していたよりも若い。

良いところハインズお爺様たちと同じぐらいの年齢に見えるね。

とてもじゃないけど500年以上も生きている“歩く歴史書”のような人には見えない。

それでも、風雨に晒される長い年月を耐え抜いてきた巨木のような貫禄は感じ取れる。

「覗き見をするような真似をして申し訳なかったですな。如何にも、儂がケイナとレイクスの祖父です」

ドンピシャ。

この人がエルフ族の国、最後の王様、ケルレイオス・アダレーさん。

“伝説の国王”か。

苦笑を浮かべての柔らかな物腰に驚く。

偉い人なのに偉ぶったところがなくて、どこか、話し方にも直孫のレイクスさんを連想させる雰囲気が有るね。

さすが王様。

レイクスさんたちと同じように質素な衣服に身を包んでいるけど、隠しきれない上品さが有る。

「・・・無事に到着されて良かったです。ケイナちゃんたちも、このすぐ近くに―――、採掘場に居ますよ」

「そうですか。孫たちがご迷惑をお掛けして申しわけありませぬな」

偉人と呼んでも良いほどの人に頭を下げられて、私の方が慌ててしまう。

「・・・迷惑だなんて、とんでも有りません。ケイナちゃんには精霊魔法のコツを教わっていますし、レイクスさんは迷宮の調査をしてくださっています」

「迷宮ですか・・・。やはり、この気配は迷宮のものだったのですな」

スッと森を見渡したケイナちゃんたちのお爺様―――、面倒くさいから、もう「お爺様」で良いや。

お爺様の返事に私の頭が傾ぐ。

魔力が視覚的に見えるレイクスさんも似たようなことは言っていたけど、初めて聞く感想だね。

「・・・迷宮の気配、ですか?」

「迷宮というものは自然の魔素を集めるものでしてな。溜まって澱んだ魔素の気配には独特のものが有るのですよ」

へぇー。「自然の魔力を集める」は分かるし、「魔力が溜まる」というのはレイクスさんからも聞いた。

でも、「澱んだ魔力」という表現は初めて聞いたし、感覚として掴めないな。

この人は間違いなく私たちよりも“迷宮というもの”の知識を持っていそうだ。

レイクスさんに続いてお爺様も採掘場近くの森を目にして「迷宮の気配」と言ったのだから、お墨付きが出たと考えて良いだろう。

採掘場が渡河地点のダンジョンと同じように干渉を受け付けなくなって採掘できなくなると困るから、ダンジョンに関する知識は喉の奥から手が出るほど欲しい。

不敬な言い方だけど、何が何でも協力を得たい相手だ。

「・・・レイクスさんから伺っていましたが、お爺様は迷宮に対する見識をお持ちなのですね」

「随分と迷宮というものから遠ざかっておりましたので、見識と呼べるようなものが有るかどうか、怪しいものですよ」

期待感一杯な私に、お爺様は再び苦笑して首を振る。

またまたぁ。ご謙遜を。

「・・・いえいえ。私たちは無知に等しい程度の見識しか持っていませんので、お爺様のお知恵をお貸しいただけると助かるのですが」

「儂程度の知恵で良ければ、いくらでも」

嘘偽りのない事実なんだけど、私の言い草が面白かったのか目を細めるお爺様は快く了承してくれた。

ヨシ。有識者、ゲットだぜ!

心の中でガッツポーズをキメていると、澄まし顔のミセラさんが指摘をくれる。

「フィオレ様。このような場所でいつまでも立ち話はいかがなものかと。一先ずは採掘場へご足労いただいては?」

「・・・ハッ。そうだね」

確かにその通りだ。

もう癖になっちゃっているから索敵はサボっていないけど、どこまで行っても“魔の森”だからね。

大事なお客様を危険に晒し続けている現状は、よろしくない。

レイクスさんからヒト族への警戒心が強い人たちが居ることは聞いているのだし、心証は良いに越したことはないよね。

今さらだけど、居住まいを正してお爺様たちに向き直る。

「・・・お爺様。みなさんも、ご来訪を歓迎いたします。父母や祖父母も、みなさんのご来訪を心待ちにしておりますので、追ってレティアの町までご案内いたしますが、一先ずは安全な場所へ移動しましょう」

私の招待にお爺様が頷いて、他の人たちを返り見て声を掛ける。

「皆、お言葉に甘えさせていただくとしよう」

「はっ」

声に出したのは傍に居る1人だけだったけど、全員がお爺様に小さく一礼を返した。

私が半歩前に出る形で、私とお爺様が先頭を歩き、ミセラさんたちと他のエルフ族たちが後に続く。

何が凄いってね。やっぱり精霊魔法だよ。

さっき私は魔力の“足”で小川を越えたし、1人で突撃した私の後を追ってきたミセラさんたちは小川を跳び越えてきたと思うんだよね。

で、だ。

お爺様たちを案内するに当たって、“足”を使って小川を渡るわけにも行かないだろうし、魔力の手で引っ摑んで渡らせるわけにも行かないし、どうしたものかと悩んでいると、お爺様は足を止めないまま小川へ向かっていって、小川の方がお爺様を避けたんだよ。

何を言っているのか分からないだろうけど、私も何をしているのか一瞬分からなかった。

落ち着いて考えてみると、水の精霊が小川の水を止めて、お爺様たちは小川なんて存在しないかのように川底を歩いて渡ったのだと気付いた。

こんなこと出来るんだ。

精霊魔法って―――、いいや。“エルフ族は”、かな? 根本的なところの発想が違うんじゃないだろうか。