軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ㉝

「・・・どうするかなぁ」

うーん・・・。

そこはかとなく不安を覚えてしまう光景だよね。

これって、このままでは水に勢いが付いて栄養豊かな腐葉土ごと流出してしまうのでは?

地表を洗った水が腐葉土ごと小川に流れ込んだら、水質汚染になるんじゃないだろうか。

日本でも農業用水の排水から流れ込んだゴミや土壌流出による濁りが河川を汚したり、溶け出した肥料が農地から流出することで流域に藻が大量発生する環境破壊も起こっていた。

小川の水質を悪化させたり生態系に影響を及ぼすのは私の本意じゃない。

化学肥料を使うわけじゃないけど、土壌の流出には注意する必要が有るよね。

ベターなのは、 滾々(こんこん) と静かに湧き出るような水源なんだけどなぁ。

私の目が崖面の穿孔から吐き出されて堆積している砂礫に留まった。

「・・・コレ、使えないかな」

湧水って水底に溜まった砂地の下からポコポコと湧き出していたりするよね。

河川の源流を遡った湧出泉では、よく見掛ける光景だよ。

水の通り道から吐き出された砂が溜まっているのか、土の下から沸き出した水に洗われて砂だけが沈殿して残っているのか、あの状況が出来上がるまでのメカニズムは知らないけど、溜まった砂が障害物になって噴き出す水の勢いを殺しているんじゃないかと想像できる。

そんなものは、あくまで私の想像で、事実かどうかは分からない。

でも、少なくとも、ほぼ水平に崖から噴き出す水が地面を削り取るよりも、マシなんじゃないだろうか。

この水、下から湧き出す形に出来ないかな?

水底から―――、んん? 待てよ?

「・・・いや。別に下からじゃなくても良いのか」

障害物として置いた砂礫で水の勢いだけ殺せれば良いのだし、折角、抜き出した地下水が農地を潤す前に地下へ戻ってしまっては意味がないから、滝壺状の器を作って、その中に水を噴出させれば良い?

それなら、噴出口の位置を変えるだけで済むよね。

魔力の手を地面に突っ込み、魔力を浸透させて地下水の噴出口付近の崖面と周囲の地面を掌握する。

崖の足元に溜まった砂礫ごと地面をベコッと凹ませれば、小山を成していた砂礫が地表と高さが合ってフラットになる。

これで、地下1メートルぐらいの深さまでは砂礫の層になったはず。

砂礫と腐葉土の境界をギュッと固めて水の浸透を防ぐ。

地中に埋まった器の中に砂礫が詰まった格好だね。

崖の中の“水道管”を維持したまま噴出口の位置をグググと押し下げれば、砂礫層の横っ面から地下水が流れ込む形になった。

「・・・おお。良い感じかも」

しばらく観察していると、砂礫を吹き飛ばすこともなく透過した地下水は器を満たして溢れ出す。

水源は完成したと判断して良いんじゃない?

急いで用水路を作らなきゃ。

後ろを振り返れば、伐採と切り株撤去が終わった腐葉土の土地が広がっている。

この土地が試験農園。

すでに農地の広さは草野球場がスッポリと収まるほどだ。

この広さに用水路を張り巡らせて、散水作業を省ければ良いんだけど、どう水路を引けば良い?

「・・・碁盤目状・・・? いや。つづら折り?」

降水量が少ない王国の気候では、雨水が水路に流れ込む心配はしなくて良い。

水量が変化しないなら、流水速度も変化しないだろう。

自然の川や日本の用水路と違って氾濫を起こす心配が無いわけだ。

だったら、出来るだけ効率的に農地全体を潤せるように用水路を曲げても良いよね?

最終的に小川へ排水するとして、スタート地点の噴出口からゴール地点の小川まで勾配が取れていれば水は勝手に流れてくれる。

理屈上はクネクネとヘンな形に用水路を曲げても問題はないはずだ。

碁盤目状の用水路を私1人で引くのは大変だけど、つづら折りに連続した水路なら1人でも引ける。

太くした魔力の手を用水路予定ルートの形にクネクネと伸ばしていく。

ぶっちゃけ、測量機器もないのに水路の勾配がちゃんと取れているかなんて分からない。

コレでいけるんじゃないか、という感性に任せて、防御術式を発動させた魔力の手をフカフカの地面にズンと置けば、ヘビのように曲がりくねった溝―――、用水路が一瞬で出来上がった。

用水路の形状は、横向きに寝かせた円柱を押し付けて半円状の跡を地面に刻んだ簡単なもの。

日本で木造家屋の 庇(ひさし) に付いていた 雨樋(あまどい) を、地表に埋め込んだような感じだね。

「・・・これでどうよ?」

滝壺状の器に溝を接続すれば、器から溢れ出していた湧水が用水路に流れ込んでいく。

最初は地面に吸われてしまっていた水も、浸透した用水路の底が飽和すれば、その先へと流れていく。

多少、水路の底が凸凹していても、水流に流された土が低い部分に溜まってそのうち平均的に均されてくれるんじゃないかな。

「・・・一先ずはコレでヨシ」

用水路の底も滝壺の器と同じように防水処理しようかと、チラッと頭の端に思い浮かんだけど止めておいた。

農地の隅々まで水が届かないとか、水が多すぎて水田みたいになるとか、具体的な問題が表面化するまでは経過観察で良いんじゃないかな。

用水路の下流方面へ進出していく水を視線で追っていたレヴィアさんが、私へ視線を戻してくる。

「これって、レティアの町に作った水路のようなものですか?」

「・・・そうそう。農業用水路だよ」

「いちいち地面を掘らなくても一瞬で水路が出来上がるんですね」

痛いところを的確に突かれて苦笑を返す。

「・・・ある意味、手抜きだから、ちゃんと機能してくれれば良いんだけどね」

「具合の良くない部分が有れば、その都度、農夫に手直しさせれば良いでしょう」

私を擁護してくれるマーシュさんとは違った切り口で、ミセラさんも私を擁護してくれる。

「それよりも、これなら農地に散水する手間が省けそうですね?」

「・・・そうなってくれれば、とは考えたのだけど、実際にどうなるかは様子見するしかないかな」

試験農園は試験場であって、利益を生むかどうかは未知数だからね。

出来るだけ手間が掛からない形にしたい。

農家さんたちは日々の労力が農作物の出来で報われるのだから、失敗する可能性が高いうちから労力を使わせるのは心苦しかったりするんだよ。

試験栽培に携わる人間の数が少ないほど情報管理もしやすいしね。

足元の水路からジワジワと周囲の土を湿らせつつある水と、用水路の先を何度か見比べたレヴィアさんが首を傾げた。