軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ㉜

問題は、その太さだ。

配管工といえばワールドワイドな口ヒゲが頭の中へ湧いてくるけど、ええい! 邪魔だ! 湧いてくんな!

配管工のイメージに引き摺られて崖面の壁の中に配管工が出来上がっても困る。

私は水源からの水道管を引きたいだけで、「壁の中にいる」とかバッドエンドを作りたいわけじゃない。

ゲームオーバーになりたいのなら、私の知らないどこかでカメとの衝突実験をするなり断崖から転落するなりしておけば良い。

巡り合わせが良ければ、断崖から転落する前に謎解きサスペンス俳優が「あなたしか居ないんですよ!」と断罪してくれるかも知れないよ?

プルプルと振った頭の中から配管工を抹殺し終えて記憶を探る。

確か、水道料金って水道管の太さで基本料が違っていて、最低値は直径10ミリメートルだとか水道料の請求書か何かに説明書きが書いてなかったっけ?

その場合の「直径」は水道管の内径だよね。

どうだったかな・・・。

うーん。頑張れ私の記憶力。

10ミリメートルの次は15ミリメートルで20ミリメートルじゃなかったかな。いや。13ミリメートルだっけ?

何で、ここだけ中途半端な数値なんだ? と疑問に感じた覚えが有る。

それで、私が住んでいたマンションの水道は20ミリメートルの料金が徴収されていて、もっと安くて良いんじゃないの? と不満に思ったんじゃなかったっけ?

まあ良っか。

一般家庭用の水道管が20ミリメートルだったのなら、その数値に合わせてみよう。

私が知る水道管のイメージに近い方が失敗の可能性を引き下げられるのだから、そのイメージに従うべきだ。

崖面の奥、200メートル先に有る帯水層に向けて、魔力の手を―――、いや。待った待った。

魔力の手のイメージは“私の手の延長線”だから、腕全体を模した形状になっている。

そんなに太くなくて良いと考えたばかりじゃん。

魔力の“人差し指”を崖にブスッと突き刺す。

私のイメージに従って“人差し指”がスルスルと地中を突き進む。

ほどなく“指先”が帯水層へ到達したことを感じ取る。

無駄なく地下水を抜き取るのなら、排水口を空けるのは帯水層の底だよね。

一番深い場所に有る水を探して“指先”をグリグリと動かす。

「・・・ん!? 間違ったかな?」

いや。間違えてないけど。

人差し指の先で水源の“秘孔を突く実験”と考えて、ネット掲示板に貼られていた定番の画像を思い出しちゃっただけだよ。

「何か問題が有りましたか?」

「・・・いえ。何でもないです」

ほら。心配して見守ってくれているレヴィアさんに心配されちゃったじゃん。

くだらないことをして遊んでいないで真面目に取り組もう。

「・・・んん~? この辺かな?」

たぶん、ここが一番低い場所じゃない?

端と端を摘まんだ糸をピンと張るように“指”を真っ直ぐ伸ばし、出口は私の目の前にある崖面の足元、地上から1メートルの高さに位置を決める。

高さ5メートルから1メートル引いて高低差は4メートル。

距離200メートルで4メートル下がるのだから、100メートル当たり2メートル標高が低くなる計算だ。

勾配(こうばい) 2%だよね。

営業先の建設会社の社長さんから、道路というものは雨水の排水で1%以上の勾配を付けられているものだと教わったことが有る。

お昼ご飯に誘われて、カレーライスをグビグビ飲みながら社長さんは教えてくれたものだ。

タダ飯、最高!

そのぐらいの傾斜角が有れば、自然の重力で雨水は排水口へ勝手に流れて行ってくれるんだって。

“水は高きから低きへ流れる”ってヤツだよ。

だったら、水道管も同じ程度の勾配を付けておけば勝手に流れ出てくれるはず。

“指の内側”に有る岩石や堆積土にグッと力を掛けて破砕し、砂礫に変える。

後は崖が崩れ落ちないように注意して、慎重に“指”を引き抜くだけだ。

「・・・むむっ」

焦らない焦らない。ゆっくりで良いんだから。

おかしな引っ張り力が崖に掛からないよう、真っ直ぐ砂礫ごと“指”を引っこ抜く。

“指”と一緒にズルズルと引き出された砂礫が、絞ったチューブから押し出される歯磨き粉のように崖面からニュルニュルと吐き出されて、“指”から解放されると崖の足元に堆積する。

粒の粗い砂のようだった砂礫が、しばらくすると湿り気を帯びてきたことが色の違いで判別できる。

「・・・もうすぐかな?」

“ 試錐(ボーリング) ”、いや。“ 穿孔(コアぬき) ”になるんだろうか。

ザラザラから、しっとりへ。しっとりから、べっちょりに。べっちょりから、シャバシャバに。

吐き出される建設残土に水が加わって質感がユルく変わっていく。

ここまで来ると引っ張り出す必要はぜんぜんないみたいで、むしろ、圧力が掛かって“指”が押し出されているように感じる。

「・・・ああ、コレ。拙いかも?」

「「「―――ッ!!」」」

私の呟きを聞き漏らさなかったミセラさんたちが一足に跳び退る。

うんうん。ミセラさんたちは学習力が高いね。

私は他の魔力の手で防御だ。

決して失敗したわけじゃないと思うけど、何度もこの手のパターンに遭遇していれば、さすがの私も学習するよ。

ブバッと砂礫混じりの泡立った汚水が吐き出されたのは一瞬のことだった。

眠りを覚まされたことに抗議するように、防御壁となった魔力の手に泥水がブッ掛けられ、噴き出した水が段々と色をなくして澄んでいく。

どうだ。誰も濡れ鼠にはならなかったよ。

「出ましたね」

「・・・うん。でも、ちょっと勢いが強い?」

退避していたミセラさんたちが警戒も顕わに戻ってくる。

穿ち抜かれた“水道管”が僅かに下を向いていることで、そんなに飛距離は出ていないみたいだけど、このままでは周囲の地面がビショビショの泥沼になっちゃうね。