作品タイトル不明
盟約 ㉛
「・・・戻っておいで~」
心の中で言っても伝わるのかも知れないけど、言葉に出して精霊たちを呼び戻す。
部分的に景色が歪んで見える程度に薄らとしか見えないけど、崖から飛びだして来た精霊たちが私の周りでピョコピョコノソノソと跳ね回る。
「・・・ヨーシヨシヨシ。ありがとうね~」
撫で繰り回したいところなんだけど手で触れられないから、感謝の気持ちだけは、しっかりと伝えておく。
今回は探しに行って貰っただけで魔法を使っていないせいか、魔力を持って行かれなかったね・・・。
どういう基準なんだろう?
魔力を持っていくルールや持って行かれる量が分からないから、機会が有ればどんどん使って統計的に魔力消費量を把握していくしかないね。
アクティブソナーで探知したり魔力の手で手探りすれば自力でも探せたのだけれど、索敵と平行しつつ目的物を探して貰えるのは、私のリソース的にエコだし、何より早いのがとても助かる。
これは便利だよ。
後ろに控えて見守ってくれているミセラさんが、ついつい精霊たちを受け止めようと胸元に上げてしまう私の両手を覗き込んでくる。
何も受け止めていない私の手のひらを確認したミセラさんが首を傾げた。
「精霊様ですか?」
「・・・うん」
「目に見えないのが残念ですね」
肯定するとミセラさんは本当に残念そうに言う。
分かる分かる。
薄らとでも見えている私でも、もっとハッキリと見えないものかと残念に思うのだから、全く見えていなければ見てみたいと考えてしまうのは自然なことだろう。
「・・・そうだね。私もぼんやりとしか見えないし、お母様も苦戦しているみたいだよ」
「たまに何もされていないのに唸っていらっしゃるのが苦戦中なのですかね?」
「・・・たぶんね」
不思議そうにいうミセラさんの仕草にクスリと笑いが漏れる。
私やルナリアが居る場所では、あんまり試行錯誤中の姿を見せてくれないのだけれど、お母様は魔石使用法のときも、お父様の執務室で魔石を手にソファーセットで唸っていたと聞いている。
きっと今も執務室でお手伝いの合間に唸っているのだろう。
「私にも精霊様が付いていないか、ケイナ様に見ていただいてもよろしいでしょうか」
「・・・お願いすれば視てくれると思うよ。私からもお願いしてあげる」
ミセラさんの申し出を快諾する。
自分の理解が及ばない他人の努力なんてものは、「この人、何やってるんだろう?」ってなものだよね。
他人がプレイしているゲームの画面を横から覗いているようなもので、見ていても楽しくはならないだろう。
“見える子ちゃん”なケイナちゃんは意識を向けるだけで精霊の姿が見えるみたいだから、頻繁に邪魔をするのでなければ引き受けてくれると思うし。
目を細めたミセラさんがフワリと笑う。
「ありがとうございます。少しでもフィオレ様のお力になれるよう、頑張りますね」
「・・・ありがと」
私と一緒に居ようとしてくれているミセラさんたちの気持ちに嬉しくなる。
いつか、みんなで力を合わせて一緒に作業できるようになれば、成果も達成感も喜びも分かち合えるだろう。
それはきっと嬉しいことなんだろう。
ルナリアやお母様やピーシーズに教えて貰った、そんな嬉しい気持ちを、ミセラさんたちとも分かち合えれば、私はまた嬉しい気持ちになるはずだ。
それはきっと幸せなことだよ。
おっと。また伐り倒された大木が地面を揺らす音が聞こえてきたね。
50メートル以上も離れているのに、足の裏にもビリビリと振動が伝わってきた。
いつまでもグズグズしていられない。
「・・・さてと。やるかな」
気を引き締め直して崖面に向かい、精霊たちに見付けて貰った水源に意識を向け直す。
アレをどう取り出すか。
“水の子”にお願いして、水の出口を私が居るこの場所に作って貰う?
それでも良いんだけど、出てくる水量をコントロール出来る?
今までの実績からどんな結果になるかを想像すれば、あちこちで大穴を空けたように遣りすぎる可能性が高くない?
川底から地下へ浸透する水の量には限りが有るだろうし、地下の溜まり水の量にも限りは有るだろう。
何も考えずに取り出してしまうと、すぐに水源が枯れてしまう恐れが有る。
もしも地下へ水が浸透しやすい地質だったりすれば、小川の水量が減ってしまって川の流れが変わってしまう危険が有るかも知れない。
私はオリーブの試験栽培用に畑を潤す水が欲しいだけで有って、小川の流れを変えたいわけじゃないんだよ。
小川を流れる水の、ほんの一部を分けて欲しいだけだ。
そんなに水量は必要ない。
精々、水道の蛇口をジャーっと開けっぱなしにする程度で良いんじゃないかな。
最初は少なすぎるように見えるかも知れない。
でも、家庭用の蛇口を全開にしておけば、10~15分間ほどで浴槽一杯分ぐらいの水は貯まるもんだよ。
それだけの水を用水路に流せば、最初は地面に染み込んでなくなってしまう水も土が湿って飽和すればその先の地面を潤していってくれるはず。
やっぱり私が自力で水の通り道を作った方が良いな。
作業は繊細さを必要とする。
「・・・ふむ?」
家庭用の水道管って、どのぐらいの太さだったっけ?
普通に家で生活しているだけだと、水道管なんてそうそう目にするものじゃないからね。
水道屋さんだって、水道管が目に入らないように隠してスッキリと仕上げるのだろうから、目にしなくて当然だ。
それでも、水道配管がどんな材料で作り上げられているかぐらいは私も知ってる。
ホームセンターなんかの建材コーナーで目にする塩化ビニールパイプを組み合わせて、配管工が配管するんだよね?