作品タイトル不明
盟約 ㉚
「・・・先ずは水源を確認しないとね」
ネイアさんたちへ目を向ければ、次に伐る木の倒す方向を相談し合っている。
今なら少しぐらい地下水の探索にかまけたって大丈夫だね。
地中へ薄く広く広げているアクティブソナーとは別に、4本の“手”を足元の地面にズボッと突っ込む。
アクティブソナーは魔獣の存在を探すために、とても浅い深度に広げているけど、今探そうとしているのは、もっと深い場所に有る水の存在。
前後左右の斜め下方向へ深く“手”を潜り込ませていく。
水はどこかな~、なんて考えていると、胸の中でモゾッと魔力が動いた。
「・・・およ? 手伝ってくれるの?」
キュピーン! と私の脳裏に閃きが走る。
この感じ・・・。“水の子”と“土の子”かな?
ヒョコヒョコと元気な感じとノシッと落ち着いた感じは、たぶん、そうだろう。
「・・・お願いできる?」
お願いすると、魔力の塊が胸の中から飛び出したのを感じた。
地中に潜っていったっぽい?
私の中から出て行ったはずなのに、私を呼んでいるのが分かる。
呼ばれた方向へと“手”を伸ばす。
手探りで地中を探っていくと、すぐに柔らかいものに“手”が触れた。
「・・・おお。有った有った」
言葉を交わしているわけでもないのに、“それそれ。水だよ”と報せてくれているのが分かる。
すごいね。自分で探すよりも早いよ。
さすが”水の子”。
目隠しして手探りで探すよりも、“ここだよ”と在処を教えて貰えると、こんなに早いものなのか。
また別の場所で呼んでいるから“手”を伸ばす。
こっちは“土の子”か。
「・・・こっちにも有ったけど、水脈としては同じものかな?」
深さは15メートルぐらいで同じだから、繋がっているんだと思う。
地下水脈が有ったのは良いけど、ちょっと深いね。
井戸を掘って水を汲み上げるにも、深い場所だと労力が増える。
1回2回なら我慢して頑張れば良いけど、畑に水を撒く作業は日常的なもので、継続するとなれば労力は少ない方が良い。
もっと浅い場所の帯水層を探すべきか、それとも労力に目を瞑るべきか。
さあ、どうしよう? と視線を彷徨わせれば、崖が目に入った。
「・・・小川を遡上したら滝が有ったよね」
小川の上流だから水量は大したものではなく、滝の落差は崖と同じ20メートル。
崖上に上っても小川は続いていて、森の奥から流れてきていた。
水源地はもっと森の奥地なんだけど、崖上の森も崖下と同じでフカフカの腐葉土が堆積した地面で、岩山みたいに固い地面ではないんだよね。
私は地質学に詳しいわけじゃないけど、ギアナ高地みたいなテーブルマウンテン状の地形ではないはず。
ド素人の想像だけど、あの崖の落差は隆起で出来上がった断層なんじゃないかな。
断層って言うのは堆積した地層がズルッとずれたものだよね?
崖上の地層も崖下の地層も同じ堆積層が積み重なったもので、高低差だけがズレたもの。
崖下の地下15メートルに帯水層が有るってことは、理屈上、崖上の地下15メートルにも帯水層が有るってことにならない?
崖の高さが20メートルなんだから、差し引きで、崖下の地表から5メートル付近の高さに帯水層が有るはず。
「・・・ちょっと手伝って」
地中に向かって呼び掛けると、精霊たちの気配が近付いてくるのが感じ取れる。
戻って来た、戻って来た。
失礼だけど、飼い主に名前を呼ばれたペットが帰ってくる感じかな?
ヨーシヨシヨシヨシ。良い子だね~。
私の手の上に乗って精霊たちがピョンコピョンコ跳ねてるけど、残念なことに撫でることは出来ないんだよ。
だから、イメージの中でだけ精霊たちを撫で撫でしておく。
「フィオレ様。どちらへ?」
城壁の外側を回って崖に向かおうとしたら声が掛かった。
しまった。精霊たちに気を取られて、ミセラさんたちが居ることを忘れてた。
「・・・地下水を探しに、ちょっとね」
「地下水ですか」
私が指さしたのは崖で、キョトンとしたミセラさんが首を傾げる。
まあ、分かんないよね。
上手く地下水を見付けられたら理解してくれるだろう。
ミセラさんたちを引き連れて崖面の真下に到着する。
「・・・もう1度水を探してくれる? こっちの方向で」
水平方向に崖面を指すと、精霊たちが崖面に突入していった。
ヨーシ。良い子だ。
魔力というものが物質的性質を持っていないと、よく分かる光景だね。
いや。“物質的性質を持たない”とは言えないのかな?
ニュートリノだってヒッグス粒子だってタキオンだって物質を透過したはず。
硬い岩石で出来た崖を透過したって何の不思議もない。
物質的な性質を持たないということは、物質的な体を持たないということでも有って、目も鼻も耳もないということだ。
どうやって物質の差違を判別しているのかは分からないけど、「水を探して」とお願いすれば、ちゃんと水を判別して教えてくれる。
どう教えてくれるのか?
“有ったー”って気持ちって言えば良いのかな?
精霊たちの感情が離れていても伝わってくるんだよ。
「・・・ほら。やっぱり有った」
精霊が呼んでいる場所に向けて“手”を差し込む。
200メートルぐらい奥だけど、崖下の地表よりも高い場所に水の存在を確認した。
結構な量が有るように感じるし、位置関係的に小川の川底から地中へ浸透した水が貯まっているんじゃないかな。
だとすれば、地下水を抜いても小川から補充されるはず。
水源が確保できたのなら、どう使うかを考えなきゃ。
用水路を作って流すかな?
植えた苗木の傍を農業用水が通っていれば、地中に浸透した水を吸ってくれるだろうから散水しなくても済むはず。
農地を潤し終わった水を小川へ戻せば、樹木が吸収した分と蒸発した分しか水量は減らない。
下流域に及ぼす影響も少なくて済むんじゃないかな。