作品タイトル不明
盟約 ㉗
「ともあれ、街へ入れるように手配しておかねばなるまい。王の到着はいつ頃だ?」
「この町までの道程は私たちが目印を付けてきましたから、何ごとも無ければ、この数日中には」
ケイナちゃんたちのお爺様って500歳を超えているはずだよね。
色んな歴史書にも名前が乗っているほどのご高齢者だけど、意外とアクティブな人だった。
森の中に目印か・・・。
当然、知らない人は気付かないような偽装が施された符丁なのだろうけど、どんな偽装方法を使うのかちょっと気になるね。
教えて欲しいなー、なんて私が暢気に考えていると、サーレーンさんの答えにお母様が難しい顔をした。
「もしものことが有ってはいかん。本来なら迎えを出したいところだが」
「有り難いけど、それはまだ避けた方が良いね」
「集落へ近付けば他のエルフ族を刺激するか・・・」
お母様に目を向けられたレイクスさんが言下に首を振り、お母様も納得を示す。
ははぁ。テツさんも警戒されたと言っていたものね。
ケイナちゃんは追放される羽目になりかけたとか。
安全のためとはいえ、集落の場所を教えたら今度はレイクスさんたちまで追放されそう。
追放の危機に直面しているレイクスさんが苦笑する。
「当然だけど、5人や10人の護衛は付くよ。テツのお陰で僕らの戦士も多少は強くなったし、心配は要らない」
「そうか」
レイクスさんの辞退に納得は示したものの、お母様はサーレーンさんへ目を向けて首を傾げた。
「レティアの町へ着く前に連絡を取ることは可能なのか?」
「と、仰いますと?」
お母様の思惑に理解が及ばなかったらしいサーレーンさんが問い返す。
「城門の検問所でレイクス殿なり私なりの名を出せば領主館へ伝令は来るが、レティアの町へ直接いらっしゃるよりは採掘場の方が人目に付かん。採掘場で領軍の保護下に入れば、すんなり町に入れる」
「なるほど。確かに」
意図を説明されたサーレーンさんが頷く。
私もお母様の気遣いをようやく理解した。
お爺様はお忍びだったのか。
ケイナちゃんたちのお爺様は目立ちたくなかったんだね。
お母様がどこで気付いたのかは分からないけど、誰が見ているか分からない検問所でエルフ族の存在が不特定多数にバレるのは、まだ良くないだろう。
その点、採掘場だと大幅に人目が限られて情報を制御しやすい。
お母様の提案にレイクスさんも頷く。
「それは良いかもね」
「ここ数日中のことなら、事情を知る者の“誰か”は採掘場へ行くだろうしな」
「事情を知る・・・? フィオレ嬢のことかな?」
お母様の示唆にレイクスさんたちが私に目を向けてきた。
ん? 私?
行くか行かないかと問われれば答えは決まってる。
なぜなら、私にはお婆様たちから与えられたミッションが有るんだし。
「・・・行きますよ。エライワーの畑を作りますから」
「そう言ってたね。検問所を通らず町へ侵入するわけにも行かないだろうし、町へ入る前に合流した方が無難だろう。採掘場なら泊まり込んで到着を待つことも出来るよね?」
おや? 意外なことを言い出したね。
お母様も小さく首を傾げたけど、レイクスさんの提案に頷き返した。
「泊まり込むならそれでも構わんぞ。フィオレはほぼ毎日森へ行くしな。よく知る相手が居れば不安は少なかろう」
「・・・この数日のことなら確実に行きますね」
「わたしも!」
お母様に乗っかれば、ルナリアも乗っかってくる。
お母様はエルフ族保護の意志を固めているけど過保護に干渉するつもりも無いんだろう。
ケイナちゃんはテツさんと行動を共にするだろうし、短期的にはレイクスさんたちもそうじゃないかな。
お母様がレイクスさんたちを見回す。
「フィティオス殿たちも、術式の訓練がしたいならフィオレたちに同行すると良い」
「そうさせて貰おうか。僕もまだ魔獣の観察をしたいし」
レイクスさんの決断にサーレーンさんとタレースさんが頷く。
「では、目印の変更と“置き文”を仕込んで参ります。その後は採掘場で待機を」
「手間だけど頼むよ」
「「はい」」
レイクスさんの承認を得たサーレーンさんたちが身を翻して行動に移そうとしたところへ、ミセラさんがスッと前へ出た。
「お待ちを。直ぐに出発されるのでしょうか?」
「そのつもりです」
タレースさんの返事にミセラさんが困ったような表情を作る。
「食事の用意を、と考えたのですが、お急ぎのようでしたら携行食ぐらいはお持ちになってください」
「有り難く頂戴します」
タレースさんの返事に、サーシャさんたちが音も無く身を翻して、急ぎ足で領主館へ戻って行った。
サーシャさんたちも馴染んできたなぁ。
ミセラさんたちは上手くサーシャさんたちを取り込んでくれたみたいだ。
ともあれ、これで方針は決まったよね?
だったら、私はレイクスさんたちが動きやすいように環境整備するのが良いか。
「・・・採掘場の守備部隊にも伝えておくね」
「おう。任せたぞ」
お母様の承認が得られたところへルナリアが首を傾げる。
「お母様は行かないの?」
「私はハロルドの手伝いだな。色々とすることが増えたから助けてやる必要が有るだろう」
納得した。
エゼリアさんたちの婚約が正式に決まって嫁入りの準備も忙しいし、ドネルクさんとバルトロイさんが帰って落ち着くどころか、エルフ族の件が増えた。
また次の戦争準備で忙しくしているし、お父様とお爺様たちは執務室に籠もりっきりの状況が続いていて、お手伝い、兼、お目付役のお婆様たちも忙しい。