作品タイトル不明
盟約 ㉖
「迷宮との付き合い方というのは?」
「黒龍山脈の旧通商路の近くには迷宮が有ったそうだよ。その迷宮で獲れた魔石を利用することで発展したのが旧エルヴィン王国でね」
レイクスさんの答えは1国の成長エンジンに関するものだった。
それっぽいことは授業で聞いたことが有ったけど、明確に当事者から聞くと、その信憑性は別格なものとなる。
伝聞形式の知識じゃなく生の声だからね。
いわば、ネット掲示板で「ソース出せ」と詰められる“1次ソース”だよ。
当時まだ生まれていなかったレイクスさんも伝聞だけど、レイクスさんの場合はお爺様という確たる情報源を持っている。
同じ情報を得ても、お母様が感心したのは別の部分だった。
「ほう。王は迷宮に対する知見をお持ちなのだな」
「僕よりは深いだろうね。失ったものに恋々としても仕方がないから、僕の方から迷宮の話を訊いたことはなかったけれど」
魔法道具オタクらしいレイクスさんよりも詳しいとか、ぜひともお爺様の見解を聞かせて欲しい!
採掘場だけでなく、渡河地点のダンジョンも開発して採算ベースに乗せるつもりだけど、ダンジョンは分からないことだらけで少しでも多くの情報が欲しい。
具体的には、産業化に成功している採掘場を永続的な資源回収の場にしたい。
岩塩採掘が出来なくなるのはウォーレス領にとって痛手になるから、何としても現状を維持したい。
お母様の考え中モードが深くなる。
「そんな場所に迷宮が有ったとは聞いたことがなかったな」
「迷宮って“金のなる木”だからね。他国の欲望を煽ることが分かっていたのなら、秘匿していたと思うよ。僕なら、そうする」
なるほどなぁ。レイクスさんの答えに考えさせられる。
神教会や西方諸国が魔法道具技術を奪って独占状態を作り上げている現状を思えば、当時から欲の皮は突っ張っていたはず。
そんな連中に情報を与えて欲望を煽れば、リスクが増えると言いたいのだろうね。
レイクスさんの推察は納得のできるものだった。
片や、私はといえば、ダンジョンの存在が敵の欲望を煽るのを分かっていながら、存在を公表しろと主張して、実際にカリーク公王国の侵攻を早めてしまっている。
その結果が南部国境と西部国境の二正面作戦だった。
全ては私の考えの浅さが招いた結果か。
採掘場の件がなくてもカリーク公王国の挙兵徴候は有ったから、情報を隠蔽しても挙兵は時間の問題だったのだろう。
だからと言って、隠蔽しない判断が正解だったのかと問われれば、そうとも言い切れない。
あのときは隠蔽工作に労力を割いても無駄だと割り切った結果では有ったけど、レイクスさんのような考え方も有るよね。
渡河地点のダンジョンも存在を隠していないしなぁ。
あっちも敵国の欲望を刺激するに決まっている。
反省しなきゃな。
次はもっと慎重にやろう。
具体的には、塩湖の情報は隠蔽する。
考え中モードのまま、お母様が首を傾げた。
「ふむ・・・。しかし、旧通商路の迷宮で魔石が獲れるのなら、なぜ、西方諸国の奴らは東方の魔石に執着するのだろうな?」
「対魔族大戦で通商路を封鎖するしかなかったからじゃないかな。黒龍山脈を緩衝地帯にして戦争を終えたと聞いたから、今でも状況が変わっていないのだとすれば、迷宮も封鎖されたままだろうし」
へぇ・・・。黒龍山脈を貫いて魔族領域と人類棲息域を繋ぐ旧通商路って、封鎖されてるんだ?
レイクスさんの予測にお母様の目が鋭くなる。
「先の内戦を機に王国は魔石の輸出を止めている。魔石の調達に困れば奴らは旧通商路の迷宮に手を出し兼ねんな」
「そうなると、魔族領域との軋轢になるだろうね」
ええ・・・。勇王国や神教会だけでなく、西方諸国とも戦わなきゃならない可能性が有るのに、第2次対魔族大戦なんて勘弁して欲しい。
「面倒な連中だ。とっとと滅べば良いものを」
「そうだね」
忌々しそうに吐き捨てるお母様にレイクスさんも同意を返す。
もちろん、私も同意―――、んん? いや、待てよ?
神教会と西方諸国が欲を出して魔族との戦争を再開させたとして、王国に影響が波及するのって、すぐじゃないよね?
神教会や西方諸国が消耗して、劣勢になってからじゃない?
想定される状況を考えてみるか。
業腹だけど、例えば、「人類存亡のために~」とか、無視しにくい大義名分を持ち出されたとしよう。
「やかましいわ!」と援軍要請を無視したとして、当然、王国を悪者にして非難してくるよね。
上手く滅んでくれれば手間が省けるけど、生き残られたときが厄介なことにならない?
万が一にも神教会側が魔族に勝って、王国は人類の敵だとレッテル貼りをされると、”人類VS王国”なんて事態になり兼ねない。
いくら何でも、それは拙いよね・・・。
王様や宰相さんにも叱られそう。
正直、援軍を求められたとしても、王国は侵略戦争のターゲットにされて迷惑を被っている側なんだから、ホイホイと力を貸してやる必要なんてない、とは思う。
でも、何だかんだと理屈を付けて協力を遅らせれば遅らせるほど、神教会も西方諸国も勇王国も弱体化するはず。
そんな状況に労せず追い込めるチャンスを逃すのは惜しいもの。
まだまだ情報が少ないから性急には判断できないけど、シミュレーションしてみるべきだよね。
何なら援軍を装って背後から勇王国や神教会を―――、いやいやいや。焦っちゃダメだ。
私1人のことなら何と罵られようが平気だし躊躇わないけど、あんまり汚い手を使うと王国が正当性を失うことになっちゃう。
有り得そうな状況だけど、さすがに聞こえが悪すぎるだろう。
「戦争の作法から外れすぎるな」と、お父様から釘を刺されたばかりだしね。
案の1つとして温めるだけに留めておこう。
レイクスさんとの認識を摺り合わせ終えたお母様が実務へと話題を戻す。