軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

血のチカラ ①

翌朝は雲一つない快晴だった。

秋晴れってやつだよね。

暑くも寒くも無い気温で、地平線まで澄んだ青空が広がっている。

昨夜もルナリアとテレサが眠った後で文字の書き取り練習をしていたから、少しだけ寝不足気味で欠伸が出そうなんだけど、良いお天気で頭の中はスッキリとしている。

昼過ぎには夏の名残を感じさせる気温まで上がるのだろうけれど、その頃の私たちは森の中だから、心地よい涼しさで暑さを感じることは無いだろう。

私たちは馬の背に載せられた鞍に跨っていて、ヒョイと持ち上げられて鞍に腰を下ろしたときには、鐙が有ると無いとでは安定感が雲泥の差なのだと実感した。

私たちに宛がわれた馬は、比較的、年老いた軍馬で、過酷な戦争に用いるには体力の衰えが現れてきているので向かないが、軍馬として働くために仔の頃から馴致されており多少の音やハプニングに動じることも無く、老いにより気性が穏やかになっているので子供の乗馬練習には最適なのだそうだ。

こうやってウォーレスの軍馬は前線を離れても仕事が無くなることもなく、老衰で亡くなる日まで大切に扱われ続ける。

背中に乗せられる前に引き合わされたときには足元から見上げる格好だったから、デカいなあ、と思ったけれど、すごく優しい目をしていて、鞍に乗せられてから首筋を撫でてあげたら気持ち良さそうにしているので、すごく可愛い動物なのだと気付かされた。

日本の地元で牧場の馬を見掛けたときは、あの馬1頭でどれだけのお肉が取れそうか、としか見ていなかったので、新鮮な驚きだった。

まあ、食べられる機会が有ったら食べるんだけどね。

私が軽く涎を呑み込んでいても動じないこの馬は、結構、大物なのかも知れない。

道案内も兼ねて、アンリカさんが隣に並んで轡を取った私の馬を先頭にして、40数騎の馬列が木々の間を進む。

崖から一定の距離を維持したまま崖下に沿って進むだけだから、道を間違えようが無いんだけれどね。

明るい時間帯だからか、順調に進んだ馬列はスローペースだったのに2時間ちょっとの時間で松の大木に到着し、馬たちを休ませるために少し行き過ぎて小川まで足を伸ばした。

この季節に小川の河岸には強い毒性を持つ草は生えていないと伝えたから、見張りの騎士様を数人付けて、馬たちは放牧されるようだ。

小川の水を飲んでいる馬も居れば、早速、河岸の草を食んでいる馬も居る。

馬って結構な量の水を飲むし、草に至っては1頭で十数キログラムを食べるらしい。

だから、騎馬隊の行軍には大量の飼葉を積んだ馬車も随行するのだと教えて貰った。

飲み水は魔法使いが出せても、どこにでも大量の草が生えているわけじゃないからね。

勝手知りたる小川からの道のりを元気に先導するルナリアの後ろに付いて歩き、興味津々なテレサや王都からの騎士様たちは、驚いたり感心したり顔色を青くしたりと様々な反応を示しているようだ。

松の大木と小川の周辺でルナリアがテレサたちの相手をしてくれている間に、私は以前使っていたククリ罠を見て回る。

しばらく放置されて乾燥した蔓は固くなっていて、交換しないと駄目だと判断した。

アンリカさんに付いてきてもらって蔓を採りに馬車の場所へと来たら、アンリカさんが黙祷を始めたので、崖までの道中に摘んできた雑草のお花を供えて私も一緒に黙祷する。

私が目を開けたら、アンリカさんが優しい目で私を見ていたので、どう反応すれば良いのかちょっと困った。

アンリカさんが採掘場の建設予定地を下見しておきたいと言うので、採掘場を見て回ってから戻る。

周辺の木を伐採して拓き、魔獣や領外からの招かれざる人間の侵入を防ぐ木製の砦のような建築物で採掘場を丸ごと囲う形になるらしい。

「崖上から侵入できそう」と呟いたら、崖上と行き来できる櫓を組んで崖上にも防衛・監視拠点を建設するように提案してくれると言ってくれた。

安全に行き来できるなら崖上にもワナを仕掛けられようになるね。

マーサさんたちが亡くなった事件現場にもお花を供えてあげたかったし、開拓作業で私にお手伝いできることが有れば、是非とも協力させて欲しいものだ。

岩塩の採掘そのものに付いては、近いうちにウォーレス領内にある鉄鉱石鉱山から極秘に採掘技師が呼ばれて、岩塩鉱床の埋蔵量についての試掘調査が行われるらしい。

たくさん採れると良いなあ。

十数本の蔓を採った私たちが松の大木へと戻ってきたら、お昼を摂るには随分と早い時間なのに、洞を開いたルナリアが焚火を熾して、松の実を焼いて振る舞っている。

ルナリアもすっかりアウトドア少女だね。

非常用備蓄の松の実のはずだけど、季節は秋で、今年の松ぼっくりが落ち始めているから、新しい備蓄の確保は何の問題も無いだろう。

護衛に附いてきてくれた騎士様たちも、わいわいと騒ぎながら松の実を摘まんでいる。

テレサにまで焼き松の実なんて食べさせて良いの?

別に毒があるわけじゃ無いけど。

テレサも楽しんでいるみたいだから良いのか。

インドア派のレーテさんは居ないし。

ルナリアって元気で勢いが有るから、何だかんだ言われても周りに人が集まるのかもね。

みんなと一緒に私も焚火を囲んで、松の実をいくつか貰う。

切れ目を入れた熱々の殻にフウフウと息を吹きかけて冷まし、殻を割って中身を食べる。

久しぶりに食べた気がする松の実は、コリコリとした食感が良くて美味しいよ。

膝の上に、ぽたぽたと雫が落ちる。

「どどどどうしたの!? フィオレ様!!」

「フィオレ!?」

「・・・へっ?」

動揺するアンリカさんとルナリアの声に、自分の目からぽろぽろと涙が落ちていることに気付いた。

焚火を囲んでいるみんなが目を丸くして私に注目している。

「・・・あ、あれ?」

「どこか怪我でも!? もしかして火傷!?」

心配顔のアンリカさんが私の顔を覗き込んで来る。

ぐしぐしと袖口で涙を拭いながら首を振る。

私の手のひらの中にある、まだ暖かい、焦げた松の実を見せる。

「・・・この実が私の命を繋いでくれたんだと思ったら、勝手に―――、ちょっ!?」

ハッとした顔になったアンリカさんに、いきなり抱きすくめられた。

力が強いアンリカさんに捕まえられたら、私の力では抵抗する術はない。

「・・・ぐえっ!」

アンリカさんの上から、ルナリアまで体当たりする勢いで力一杯に抱き着いてきた。

「・・・くっ、くるしい・・・!」

何とか自由に動く手で、アンリカさんとルナリアの背中をバンバン叩く。

私が窒息し掛けているのに気付いて抱きしめる力を緩めてくれたけれど、しばらく解放してもらえなかった。

私の身の上はみんなに共有されているから、ルナリアが落ち着くまで、テレサや騎士様たちを巻き込んで大慌てになった。

ホールドされて身動きが取れないまま、洟を啜りながら松の大木を見上げる。

ほんの数日、ここから離れていただけなのに、私の環境は随分と変わったものだと思う。

何としてでも一人で生き抜いていくつもりだったのに、私を心配してくれる人たちが、今ではこんなに大勢居る。

ルナリアのお陰で、お師様のお陰で、あなたのお陰なんだよ、と、心の中で松の大木に話しかける。

ありがとう、と、感謝の気持ちを念じたら、松の大木が笑い返してくれた気がした。

きっと、私にとって、この場所は生涯大切な場所で在り続けるのだろうね。