軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プリンセス強襲 ⑳ ※ベルーサー面

「嫌です」

程なくして、領主執務室へとメイドに案内されて来た王女殿下に再考を願ったところ、

ご当人から返った意思は端的な拒否だった。

しかも、ツーンと顔を逸らされてしまった。

言い募るべルーサーの後ろで、殿下の傍仕えのレーテも、うんうんと激しく頷いている。

ソファーから王女殿下に冷ややかな目で見上げられているベルーサーとしては、ここで引き下がるわけに行かない。

ソファーの対面で難しい顔をしているバルトロイが説得側に付いているのだから撤回を勝ち取ることは不可能では無いはずだ。

「しかし、殿下! ほんの入り口とはいえ、“魔の森”へ入るなど危険すぎます!」

「エゼリアたちが直接の護衛に就いてくださいますから、問題ありません」

「その、エゼリアという人物は何者ですか?」

「私です」

「えっ?」

テーブルを挟んで殿下と対面しているバルトロイの問いに答えたのは、殿下ではなく、殿下の後ろに控えているウォーレス家のメイドだった。

なぜ、殿下の傍仕えがべルーサーの後ろに居て、ウォーレス家のメイドが殿下の後ろに控えているのか、非常に疑問だが、今はそれを問うている場合ではない。

ウォーレス家のメイドは変わっていて、彼女も腰に剣を佩いている。

彼女は、カーテシーではなく、固めた右拳を胸に当てる騎士団式の敬礼を取った。

カツンと踵が鳴り、右拳が当たった豊かな胸が、ぽよんと揺れる。

余計な力が入っていない自然体で在りながら、一部の隙も無い見事な敬礼だった。

「申し遅れました。ピーシス家現当主 麾下(きか) 、ピーシス騎士団所属のエゼリアと申します」

べルーサーは目を剥いた。

ピーシス家は本家筋であるウォーレス家と一心同体なので、ピーシス家の者がウォーレス家に居ることに不思議は無い。

だが、現当主側近の誇り高い正騎士が、ピーシス家ではメイドをするのか。

そこにきて、べルーサーは、彼女の立ち位置にも隙が見当たらないことに気が付いた。

近すぎず、遠すぎず、王女殿下へ手を伸ばして退避させるにも、腰の剣を抜くにも最適な距離で、王女殿下を害そうと試みる不埒者は、剣を抜こうと動いた瞬間に一撃を食らわされている可能性が高い。

どこから彼女の身のこなしを見ても、相当な腕を持っていることは間違いない。

ただでさえ、女性の衣服は胸元やスカートの中などに暗器を忍ばせ易いのだ。要人警護に就くメイドが暗器を仕込んでいないわけが無い。

今の今までメイドに注意を払っていなかった自分の油断にべルーサーは背筋が寒くなる。

「エゼリアたちは、フレイアが成人する前から戦場を連れ回していた直属だ」

「はい。散々、連れ回されておりました」

ハロルドの補足にエゼリアが頷く。

確認するようにバルトロイがハロルドを見る。

「フレイアの直属と言うと?」

「真っ先に敵陣へ飛び込んで行く精鋭中の精鋭―――、いや、猛者中の猛者だな」

「御当主様ぁ?」

つい、と視線を逸らしたハロルドが、メイドと目を合わせないようにしながら口を開く。

「それで、随伴の編成と計画の概要は?」

「フィオレ様が罠を仕掛ける様子の見学と教導が目的ですので、我ら女性騎士8名に加え、罠の技術を教わりたいと殺到したウォーレス家騎士団の中から選抜した13名。王都の騎士団からも選抜して20名以下の増員を予定しております。増強1個小隊規模で決行は明朝。3の鐘に出立して、6の鐘までにはレティアへ帰還いたします」

「フレイアは?」

「レティアで御当主様の出陣準備を補佐すると申されています」

「それは助かる」

ハロルドが一つ頷く。

エゼリアがこうして報告に来たからには、フレイアが承認済みであることは明らかだ。

「移動手段は?」

「ルナリア様の強い希望により、乗馬術の訓練を兼ねて全員が騎馬を使用します」

「そうか。もう乗馬の練習を始めるのだな」

ハロルドの目が柔らかくなる。

「殿下もですか?」

「当然です」

バルトロイに視線を向けられた王女殿下が澄まし顔で頷いて返す。

殿下の傍仕えであるレーテが反対している理由の一つは、この部分だ。

傍仕えを務めるレーテは男爵令嬢で、一般的なご令嬢の例に漏れず、馬に乗れない。

馬車で付いて行くことも、歩いて付いて行くことも出来ないのだから、レーテは自分の職務を果たせない。

レーテの事情を横に置くとしても、“魔の森”へ踏み込むのに、殿下の護衛が僅か40名ほどとは、少なすぎるだろう。

頭を抱えたい衝動を堪え、助けを求めるべルーサーはハロルドを見た。

「護衛が少ないように思うが、ウォーレス卿は、如何、考えられる?」

「過剰戦力だな」

「はあっ!?」

ハロルドなら殿下を諫めるだろうと考えたのに、ハロルドの評価は真逆だった。

「30名の騎士が防御を固めた上に、いくらか調子の悪いフレイアが8人付いていると考えて見ろ。1個大隊規模の襲撃を受けたとしても、無傷で帰ってくると思うが?」

「えっ!? ピーシス卿並み!?」

「お疑いでしたら、ご自分で手合わせされてみますか? 今から」

「あ、いや。決して疑っているわけでは・・・」

「今から」の一言だけ低い声で言うのは止めて欲しい。

言い表しようのない圧力を加えられて、べルーサーは守勢に追い込まれた。

「副長。発言しても?」

見るに見かねてか、王女殿下の護衛に就いていたべルーサーの部下が挙手する。

助けが入ったのなら、乗らない手はない。

べルーサーが頷いたのを見て取った護衛騎士が、遠い目をする。

「先ほど、ウォーレス家騎士団の随伴希望者の選抜を見学しましたが、エゼリア殿たちに500名ほどの騎士が、コテンパンに 伸(の) されていました」

「な!?」

「ほんの1時間ほどの間で」

ごくりと空唾を呑む。

メイド8人で500人を伸すのに1時間と言うことは、1人あたり60人以上を60分間で倒したということだ。

訓練用の武器を用いた模擬戦で、1人に1分間しか掛けずに倒しきるなど可能なのか?

目を剥いてエゼリアを見ると、にっこりと笑顔を返された。

何それ、怖い。

美人のはずなのに、すっごく怖い。

ウォーレス家領主館は魔境か?

フレイア並みの化け物が、常時、何人も館内を徘徊しているらしい。

しかも、エゼリアたちが足音を立てないことは、騎士団の中でも大いに噂されている。

真後ろに立たれても気配が無くて、飛び上がるほど驚かされた覚えがべルーサーも有る。

認め辛いことだが、騎士としての実力はエゼリアたちの方が上なのだろう。

何とも言えない脱力感に見舞われたべルーサーは、溜息を吐きたい気持ちをぐっと堪えて、殿下の斜め後ろに控えるメイドを見上げた。

「我々の随伴者の抽出は、どう基準すればいい?」

「お願いしたいのは、万が一の際に、殿下の周囲を固めていただくことですから、防御を得意とされる方を選抜していただければ。脅威は全て、我らが排除いたします」

「承知した・・・」

美しい笑みで物騒な台詞を吐くメイドを前に、べルーサーは、そう答えるしか無かった。