軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プリンセス強襲 ⑲ ※ベルーサー面

ベルーサーもバルトロイも殿下を護衛する立場でウォーレス領へ赴いている。

それでもなお、殿下のお側を離れて尋問を続けているのは、バルトロイとベルーサーの自発的な行動に過ぎない。

まあ、要するに、今のベルーサーたちは、大事な責務を横に置いて余計な仕事をしているわけだ。

万が一にもフレイアとバルトロイの遠慮ない応酬が仲違いに発展すれば、ベルーサーにも飛び火することだろう。

いたたまれない気分になったべルーサーは、とばっちりを食らいたくない一心で話題を変えようと試みた。

「と、特務殿は、殿下に基礎訓練を施して居られたとか?」

「ついでに過ぎん。同年代の子供と一緒であれば、楽しんで学べることも有ろう」

「楽しんで・・・、殿下がですか?」

フレイアから返ってきた意外な言葉に、べルーサーは目を瞬いた。

べルーサーの反応に、フレイアが怪訝な顔をする。

「今、卿に殿下以外の話をするわけが無かろう」

意外に感じたのは、べルーサーだけではなかったようだ。

バルトロイも驚きを隠せない様子だ。

「フレイア。お前、どんな魔法を使った?」

「魔法? 何の話だ」

二人ともから意外そうな顔を向けられて、フレイアの声が一段低くなる。

「どういうことか、分かるように説明しろ」

「あ。いえ、殿下はご学友と座学を学ばれるときも、魔法術式の練習をされるときも、・・・何というか、つまらなそうにされておられますので」

「つまらない?」

「てっきり、殿下は勉学を嫌っておられるのだとばかり」

「私も王宮貴族から、殿下は勉学嫌いだと聞いていた」

フレイアは思い当たる原因があるのか、納得顔で頷いた。

「ああ、そうか。それは、王宮の学友選びが間違っているのだろうさ」

「間違い、ですか?」

「殿下は賢い子だぞ。その辺の同年代と一緒に学ばせたところで面白くなかろうよ。そう指摘されれば、お前も身に覚えが有るんじゃないか?」

矛先を振られたバルトロイも何かを思い出したのか、納得したように頷く。

「ふむ。そうか・・・、道理だな」

「クローゼリス卿も、原因が分かるのですか?」

「知識の差。精神年齢の差。関心の方向性の差、と言ったところか。私にも覚えが有る」

「政治力や家柄だけでなく、学友を選ぶにも、もう少し殿下自身を見てやれ」

「殿下ご自身、ですか・・・」

「陛下に奏上しておこう」

「そうしてやれ。殿下が可哀そうだ」

なんだろう? すごくフレイアがまともに見える。

しんみりとした空気を明るくしようと、ベルーサーは声を少し高めに再び話題を変えようと試みる。

「ぴ、ピーシス卿とクローゼリス卿は仲がよろしいのですね」

「アホ言え」

フレイアにギロリと睨まれて、べルーサーの背筋が伸びる。

慣れないお調子を言ってみたら、藪を突っ突いて蛇を出してしまったらしい。

つまらなそうに、フレイアはバルトロイを顎で指して鼻で笑う。

「アカデミーへ入ったときに、同年代がコイツしか居なかっただけだ」

「子供だと侮られるか、生意気だと敵視されるか、家柄に媚びるか、どれかだったな」

「屁理屈ばかりのアホしか居なくてな。まともに話せるのもコイツしか居なかった」

「学者など、そんなものだろうさ」

そんなものか、と、べルーサーは思った。

公爵家嫡男のバルトロイは、フレイアほどでは無くとも天才魔法術師として成人前から名を馳せ、家柄、人柄、実力、すべてを兼ね備えた人物である。

そんなバルトロイでさえ、随分と嫌な思いをしてきたことが察せられる。

女性らしくも貴族らしくもない破天荒な言動が多く、当代随一の天才魔法術師と評されるフレイアもまた、天才ならではの苦労をしていたようだ。

互いに言葉を飾らず、本音をぶつけ合っている姿は、親しみによるものではなく、単に同じ 不遇(ふぐう) を 託(かこ) った者の共感だったらしい。

それとも、偏狭な先達と戦った者同士の戦友と言った方がいいのか。

「だから、余りにもバカバカしくて、私はさっさとアカデミーを辞めた」

あっけらかんと両手を広げる。

フレイアの表情に一瞬前までの重苦しさは無い。

「こういうヤツなのさ。そのアカデミーを辞めたせいで陛下に捕まったのだがな」

「やかましい。どのみち、誰かが務めねばならんのだ」

「お前には感謝しているさ。お前が短気を起こさなければ、私とお前は逆の立場になっていたかも知れんのだからな」

バルトロイの言葉にべルーサーはギョッとした。

「アホウ。手緩いお前に特務が務まるか」

「そうかも知れんな」

フレイアとバルトロイが軽く笑い飛ばす。

驚きの経緯だった。

一歩違えば、魔法術師団がフレイアみたいなイカレた魔法術師だらけになっていたかもしれないのか。

騎士と一緒に先頭で斬り込んで来る魔法術師の集団なんて怖すぎる。

今朝も、殿下たちに見せるためだと護衛に就いていた騎士団員が訓練場で模擬戦を挑まれて、けちょんけちょんに打ち負かされたと聞いている。

何度かフレイアの「実戦」を目にしたことがあるべルーサーも、フレイアとの模擬戦に勝てる気がしない。

本気で致死レベルの魔法術式を至近距離からバンバン撃ち込んでくる戦場ともなれば、なおのことだ。

そんな魔法術師ばかりの戦闘集団が、もしも存在したら―――、いや、もう存在したな。

ウォーレス家領軍の一部にカウントされているが、ピーシス家領軍が、それだ。

ウォーレス家領軍に攻め込まれたコーニッツ・ムーアの絶望感は、如何ほどだったか。

殿下の移動ルートを選定する際に先行した斥候が持ち帰った情報によると、コーニッツ・ムーア両領都は城門が跡形もなく消し飛ばされ、丸裸にされて攻め込まれたらしい。

当然のように、侵攻の急先鋒を務めたのはピーシス家領軍の騎馬部隊だ。

非常に強力な魔法術式を湯水のように用い、機動力にも突破力にも制圧力にも優れるのがピーシス家。

ピーシス家領軍の進路に城壁を築いて防御を試みようが、無意味ということだ。

事件に絡んで西部国境地域から南部国境地域まで繋がる「商品移動」ルート全ての貴族家の名前をコーニッツ・ムーアの両名が未だに吐かないので、“融和派”だけでなく中立の貴族家も関与している可能性が疑われて、どうしたものかとバルトロイと相談していたところだったのだが、これは使えるかもしれない。

西部国境地域の領主貴族は、宰相閣下に近い“融和派”が殆どだ。

国境地帯から離れれば離れるほど軍備は薄くなり王都周辺地域ともなれば治安維持に必要最低限の戦力しか持っていない貴族家ばかりになる。

そんな貴族家はピーシス家の前では為す術も無い。

宰相閣下を裏切ったら、“融和派”に生き残る術はないのだから、怖いだろう。

しかし、ピーシス家当主のフレイアほど宰相閣下が怖いか?

「黒」と言い切れない「グレー」でもフレイアなら平気で攻め込むだろう。

“融和派”と“保守派”のどちらにも付かず中立と嘯いている貴族家が”保守派“に傾けば、”融和派“は立場を無くし、宰相閣下も当然怒る。

ヨシ。“融和派”だけでなく関係が近い全ての貴族家を蹂躙するようフレイアを 嗾(けしか) けるぞ、と脅してみるか。

連中がどんな関係で繋がっているのかは分からないが―――。

べルーサーが思考を横道に逸らしていると、そのフレイアから重大案件が投下された。

「おう、騎士団副長殿。そういえば、殿下が森での猟に同行するそうだ。殿下から相談が来るから協力してやってくれ」

「へっ・・・? はあっ!? 殿下が“魔の森”に入るだと!? いや、ですか!?」

「いちいち言い直さなくて良い。殿下の成長のためだから、頼んだぞ」

「い、いや! しかし!」

王都へ帰還するまで王女殿下の安全を確保するのは、べルーサーたち随伴部隊に課せられた最優先の使命だ。

ただでさえ、看過できない犯罪捜査事案が持ち上がっている上に、ウォーレス領に着いてからの殿下は今までになく活発で、今朝の基礎訓練に参加すると聞いただけでも大慌てしたべルーサーたちの負担は増えている。

「何だ? 騎士団は、自ら進んで学ぼうとする殿下の足を引っ張るのか?」

「そ、そういうわけでは・・・!」

騎士団が属する“保守派”全体にとって、王女殿下の成長は手放しで歓迎すべきことだ。

しかし、殿下の身を危険に晒すなど、以ての外。万が一にも、事故や暗殺で殿下が命を落とすことが有れば、王国の未来は真っ暗になる。

なのに、フレイアは、どうということが無いと言わんばかりだ。

「心配いらん。ウォーレスのメイドどもが護衛に就くから、適当に手伝ってやればいい」

「メイド!? ちょっ! ピーシス卿!?」

呼び止めるべルーサーに、ひらひらと手を振りながら、フレイアは行ってしまった。

「な・・・! なななな!」

「振り回される私の苦労が、卿にもよく分かっただろう」

絶句するべルーサーの肩に、バルトロイの手が優しく置かれた。