軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ㉑

「あっ! お母様が構えたわ!」

「・・・そうだねえ」

ルナリアの声にお母様の姿を目で追えば、愛用のサーベルに代えて手にした訓練用の剣の剣先を対峙するテツさんに向けている。

「始まりましたね」

「・・・初手は“火弾”かな」

ケイナちゃんの呟きに頷き返す。お母様の周囲には、お母様を守るように10個近い火球が浮いている。

ただし、火球の形状は人魂のように燃え上がって揺らめく炎ではなく、火で出来たソフトボールのような球形なんだよ。

その見た目の違いから、あれが“火弾”と呼ばれる魔法だと判別できる。

「でも、避けられてるわよ?」

「・・・“危ないのは分かる”って本当だったんだね」

眉を顰めるルナリアが言うように、ポンポンと放り込まれる炎の弾をテツさんは危なげのない様子でヒョイヒョイと避けまくっている。

しかも、僅かにだけど先読みして避けているようにも見えることから、本当にテツさんには“危ないモノ”の危険範囲が分かっているのだろうと思わずにいられない。

ルナリアと私だけでなく、ケイナちゃんの目もテツさんの姿を追っている。

私の感想をケイナちゃんが肯定する。

「そうみたいですよ。逃げる気がないとき以外で攻撃に当たるのを、私も見たことがありませんから」

「・・・へぇー」

一番近くでテツさんの戦い方を見てきたケイナちゃんが言うのだから、本当にそうなのだろう。

“火弾”という術式は何かに接触すると”皮膜”のようなものが破れて、圧力が掛かった炎が破裂するんだよ。

直接は当たらないと判断したのか、お母様はテツさんの動きを見越して避けた先の足元へ撃ち込んでいるようで、地面に接触した“火弾”がバンバンと音を立てて弾けている。

それでもテツさんには当たらない。

私は避け続けるテツさんのそれを“勘”じゃないのかと推察したけど、アレはもう“勘”の範疇を超えているように思う。

お母様の方もどこまで当たらずに避けられるのかテツさんを試しているみたいだね。

たぶん、模擬戦というよりも、テツさんという被験体で実験しているんじゃないかな。

テツさんも「試し斬りしようとしてる」って気付いていたけど、直接戦ったことがない“勇者というもの”にお母様は興味津々だったからね。

まあ、実際には、私たちに魔法術師の戦い方を見せようとしているのがお母様の主たる目的だろう。

ジーッと模擬戦を観ていたルナリアがコテッと首を傾げる。

「ねえ。“ひだん”って、どんなのだっけ?」

「・・・“紅蓮”の練習で、先に覚えろって言われたでしょ」

“火弾”はお母様から出題された課題の1つでも有ったものだ。

基本的にお母様の教え方は、お手本を見せて、魔法の理論を教え、後は試行錯誤で理解を深めろってスタンスだからね。

“紅蓮”を教えて貰う約束はルナリアが私よりも先にしていたんだけど、ルナリアには取っ掛かりが掴めなくて苦労していたんだよ。

「あー。“火球”を強くしたヤツだっけ」

「・・・強くっていうか、圧力を高めた術式だね」

“火球”と“火弾”の違いは端的に“爆発するかしないか”で、私が“紅蓮”の練習で四苦八苦したように、理論としては教わっていても、爆発させるのは容易ではない。

地球で科学知識や物理法則を学んでいた私でもだよ。

魔法技術の方が発達していて科学知識や物理法則が一部にしか広まっていないこっちの世界では、その難易度は隔絶したものとなるはずだ。

未だ、ただ燃えるだけの“火球”を爆発する“火弾”に進化させられていないルナリアの表情もまた、難しいものとなる。

「上がらないのよね。圧力」

「・・・アレねぇ。―――ふっふっふ。私、分かったよ?」

「えっ!? ホント!?」

私の含み笑いにルナリアが大きく反応する。

かくいう私も“仕組み”に気付いたのは、つい先日なんだけどね。

「・・・“紅蓮”の練習をしていたときには分からなかったけど、住居建設を手伝っていたときにね。今なら出来ると思う」

ヒントは土魔法に有ったんだよ。

土魔法といっても、単に土を生み出したり操作したりだけでは気付けなかっただろうし、“火”だけじゃなく他の属性も上達していけばそのうち気付けるものだったのだろうね。

幅広く、コツコツ努力して上達しないと気付けない教え方が、実にお母様らしい。

“紅蓮”の習得だけが目的化して火魔法しか練習しない人に壁を乗り越えるのは大変だろうし、迂遠に思えても正しい学びの道だと私も思う。

事実、火魔法しか練習しなくて壁を越えられずに居たルナリアが首を傾げる。

「なんで住居建設?」

「・・・後でね。今は模擬戦に集中しておかないと、お母様に叱られるよ?」

「ハッ! そうだった!」

私の指摘にルナリアが模擬戦の様子へと注意を戻す。

ルナリアに代わってケイナちゃんが首を傾げた。

「何の話ですか?」

「・・・“火”術式の練習だよ。“紅蓮”って術式を習得するのに苦労していてね」

少し前に森から出てきたばかりのケイナちゃんは、ルナリアと私が直面していた課題の経緯を知らないものね。

当然のことながら、ピーシス家の次期当主に課せられていた条件についても知るはずがない。

ケイナちゃんにも“紅蓮”を教えた方が良いのかな? などと頭の端で考えつつ事情を教えると、模擬戦に意識を戻したはずのルナリアが戻って来た。

「フィオレってすごいのよ! “紅蓮”を練習していて“蒼焔”を作っちゃったんだから!」

「“そうえん”という名前は聞いたことが有るような? たぶん王都でだったと思いますが」

忙しく“火弾”を避けまくっているテツさんの姿に目を向けたまま、ケイナちゃんが記憶を探るような仕草をする。

なるほど。王都でか。

そりゃまあ、例の襲撃事件が起こった王都では、センセーショナルな話題の一部として“蒼焔”の名前が出てもおかしくないだろうね。

なお、私たちが視線を向けている模擬戦では、お母様の実験が次の段階に進んでいた。

テツさんが“火弾”の爆発を避けた先に土魔法の“棘”を地面から生やしたり、風魔法の“気弾”を破裂させたりと攻撃のバリエーションを増やしている。

最初は余裕を持って避けていたテツさんも、あれだけバリエーションが増えれば本気で避ける必要が有るようで、結構、際どいタイミングで何とか躱している状況に見えるね。

“必死に”とまでは言わないけど、かなりマジで避けてると思う。

私も模擬戦から目を離さずにケイナちゃんに答える。