作品タイトル不明
盟約 ⑲
「・・・ちょっ! ルナリア!?」
「ん? なぁに?」
オジ専の自覚が有るかどうかも怪しい反応がルナリアから返ってきた。
いやまあ、ルナリアは普段から”自分よりも強くて賢い相手じゃないと許婚は要らない”と言い切ってるからね。
あれ? “フィオレよりも強くて賢い”だっけ?
どっちでも良っか。
ルナリアの言葉通りに受け止めれば、オジ専とは少し違うのかも知れない。
私も“何でお前は男じゃないんだ”的な言われ方をすることが有るしね。
でも、強くて賢いからといって、どんな相手でも良いのかといえば、そうじゃない。
だってルナリアが嫌うのって、身勝手で無責任なタイプだからね。
どれだけ強かろうと頭が良かろうと、中身が幼くて己の欲望を自制できないガキに、真っ直ぐで責任感と正義感が強いルナリアの相手は務まらないだろう。
貴族階級最上位の公爵であるルナリアに肩書きなんて通用しない。
唯一、ルナリアよりも上位の王族でも、王子様がアレだしね。
チャラ男なんて論外だろうし、ルナリアが居るのに浮気をするような男は私が許さない。
去勢してシカの囲いに放り込むよ。
なぁに。物的証拠はシカたちのお腹の中へ消えて無くなるだろう。
逆説的にルナリアが好意を示すのは、それなりの人生経験を持つ中身が成熟した男性になるんじゃないかと予想する。
つまりは年上のオジサマだよ。
現にパパ大好きっ子だし。
そこで落ち着いた男声が私の思考に割り込んできた。
「テツ殿。私とも模擬戦をしようじゃないか」
「・・・お父様まで!?」
声は落ち着いてるけど落ち着いてなかった!
ルナリア大好きなお父様の額にはクッキリと血管が浮いている!
「そりゃあ構わねえんだが・・・。なんか怒ってね?」
「私がか? 婿になる可能性の有る者を潰して―――、いや。力量を確かめておかねばならんだけだ」
隠せてない! お父様もヤキモチを隠せてないよ!
本音が駄々漏れになってるじゃん!
「は? 婿?」
「何でもない。さあ、始めようか」
「お、おう」
結構強引に誘われたテツさんがお父様と一緒に訓練場の空いた空間へと向かう。
お父様は模擬戦に参加する予定ではなかったのか、早朝にも拘わらず日頃と同じくキッチリと身なりを整えている。
具体的には、大航海時代の貴族っぽい少しレトロな軍服に首元のスカーフまで巻いていた。
剣帯から鞘ごと愛剣を抜き出したお父様が声を上げる。
「誰か訓練用の剣を」
「はっ。こちらを」
自分も訓練しに出てきていたのであろう鎧下姿の騎士様が、手にしていた剣をお父様へ届けに走る。
訓練用の剣に代わってお父様の愛剣を押し付けられた騎士様が観衆の中へ戻る。
片手半剣と呼ばれる片手剣よりも少し長めの剣を1回2回と振って具合を確かめたお父様が、諦め顔で待つテツさんの正面に立った。
「君に恨みはないが悪く思わないでくれ」
「亡き者にする気マンマンじゃねえか!」
「気のせいだ。―――行くぞ!」
ぜんぜん気のせいじゃない感じで、初手からフルスロットルの身体強化魔法を使っているらしいお父様の姿が掻き消えたと思えば、テツさんに斬り掛かっていた。
「うおっと!?」
十分長身なお父様よりもテツさんの方が少し背が高いんだけど、体格的な劣勢を活かすように小さく纏めた剣の振り方は、見るからにパワーでゴリ押しするハインズお爺様とは対照的に見える。
「ルナリアが欲しくば、私の屍を乗り越えていけ―――ッ!!」
「いやいやいや! 欲しいなんて言ってねえから!」
「問答無用―――ッ!!」
鋭く強いだけじゃなくコンパクトに効率化されたような剣は、実にお父様らしいと感じさせるものだけど、発言はぜんぜんいつものお父様らしくない―――、いいや。やっぱりルナリア大好きでお父様らしいものだった。
途切れることなく連続して振り下ろし、払い、突き込まれるお父様の剣を、大きな体のテツさんが器用にヒョイヒョイと避ける。
そう。避けてるんだよ。
もちろん、隙を見付けてはテツさんも拳を振るって反撃していて、小さく纏めたスタイルの剣術だからこそ、剣を盾にしたお父様も確実にテツさんの拳を防いでいる。
お父様の剣とテツさんの拳が接触する度に、ガツン! ゴツン! と人間の拳から聞こえちゃいけない感じの音が訓練場の空気を震わせる。
テツさんに意識を向ければ、テツさん自身が魔力の塊みたいに強い反応が感じ取れる。
お父様の剣へ意識を向ければ、剣身にはしっかりと魔力が纏わり付いているのが感じ取れる。
“クツキ”という剣技を使う騎士様は多いと聞いていた通り、お父様も使える側の人だったみたいだね。
つまり、刃が付いていない訓練用の剣でも“斬れる”ということだ。
ハインズお爺様との模擬戦でも、テツさんは基本的に避けていたしね。
それを思えば、相手の攻撃を避けるのがテツさんの基本スタイルなのかな? と思わなくも無い。
でも、納得がいかないな。
「・・・うーん」
テツさんなら“クツキ”で斬られても斬れないんじゃ? と思うんだけど、なんで避けてるんだろう?
熊のパンチでも笑って殴られていたぐらいだから、剣が当たっても斬られるどころか飛び上がるほど痛くもないんだろうしなぁ。
右へ左へステップしたり下がったりして避けているうちに、模擬戦中の2人は観衆の人垣へと近付いていて、チラリと背後の空間に余裕が無くなったことを確かめたテツさんが足を止めた。
逃げ道を塞ぐようにお父様がテツさんの回避行動をコントロールして追い詰めたのだろうし、テツさんも追い込まれたのを分かってるっぽい。
いよいよ逃げ場かなくなったのだから、勝負所になるのかな?