軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ⑱

「どうする?」

「驚いた。儂の負けだな」

左袖を取ったまま中腰で見下ろすテツさんに、左腕を高く釣られたまま寝そべっているお爺様が潔く答えた。

完全に引き倒されて相手は立って自分の腕を取ったままだ。

武器も失っていては反撃のしようがない。

袖口から手首へ持ち換えたテツさんに引き起こされてハインズお爺様が立ち上がる。

良かった。どこかを痛めたり大きな怪我は無さそうだね。

観衆の動揺は収まらず大騒ぎになっている。

大騒ぎになっているのは観衆だけじゃないね。

「ええええええ――――っ!! お爺様が負けた!?」

「・・・そうだねえ」

目を剥いて驚いているルナリアに相槌を打つ。

私も驚いてはいるけど、私の目はお爺様に投げ棄てられた長剣だったものに向いていた。

アレ、どうなっていたんだろう?

剣を折られたんだよね?

腿上げみたいに蹴り上げた膝の上に肘を打ち下ろして剣をへし折った?

身体強化魔法まで使ったフルスイングの剣を?

すごいね! そんなこと出来るんだ!

“真剣白羽取り”どころの騒ぎじゃないんじゃないかな。

驚きに満ちた訓練場の中で冷静を保っている数少ない1人―――、ロブウッドさんが歩み出して折れた剣へと向かっていく。

鍛冶師って、こんなときにも壊れた武器の方へ意識が向くんだ?

短くなった剣とへし折られた剣先の破片を拾い上げて、真剣な目で断面を検め始めた。

「なあ。御大さんよ」

「む? 何だ」

周りの騒ぎも完全に無視して、しばらく断面と睨めっこしていたロブウッドさんが、ハインズお爺様に声を掛ける。

「この剣、打ち直すか?」

「打ち直してくれるのか?」

目を丸くしたハインズお爺様がオウム返しに訊き返す。

「こりゃあ良い鉄を使ってる。このまま棄てちまうのも勿体ねえよ」

「ほう。ドワーフ族が打つ剣か」

ハッキリと言葉にしたわけじゃないけど、打ち直してくれるって意味だろうね。

ロブウッドさんの申し出にお爺様も心底驚いている様子で、感嘆の息を吐いている。

神教会のせいでドワーフ族も数を減らしているんじゃないかと予測されているしね。

詳しい情報は入ってきていないけど、このままだとエルフ族のようにレッドブックに載せられかねない。

それはまた新たなロストテクノロジーが生まれるということだよ。

感動の表情さえ浮かべているお爺様の目を、故郷では工房を営んでいたと聞く熟練の鍛冶師が真っ直ぐに見上げた。

50センチメートル以上もの身長差を感じさせない堂々とした態度で鍛冶師が口を開く。

「剣には打った鍛冶師の魂が宿る。こいつを打った鍛冶師に頼まねえんなら、だがな」

「当時の鍛冶師はとうに隠居しておる。頼めるものなら打ち直しを頼みたい」

「ヨシ。そういうことなら預かろう」

残念そうに首を振ったハインズお爺様に、ロブウッドさんが力強く頷き返した。

パッと表情を明るくしたのは剣をへし折った犯人だ。

「おお~。ロブウッドが直してくれるのか。どう見ても特注品だし、勢いで折っちまったから、どうしようかと思ってたんだ」

「直すんじゃなく打ち直しだ。折れちまった剣を繋いでも 鈍(なまくら) にしかならねえよ」

金属加工のプロにジロリと目を向けられたテツさんは、バツが悪そうに苦笑している。

「へぇ~。そういうもんか。でもどうすんだ?」

「近く王都へ帰るんだろ? 拠点の炉で打ち直す」

ロブウッドさんの答えを聞いたテツさんが宙へ視線を飛ばして首を傾げた。

「アレかぁ。使える設備なのか?」

「使えるように作り直すに決まってんだろ」

ええ? そこまでするの?

私も驚いたけど、キッパリと言い返したロブウッドさんにテツさんも呆れた目を向けている。

「炉から作り直すのかよ」

「久しぶりに良い鉄を見て血が騒いじまってな」

フイッと目を逸らしたロブウッドさんが照れくさそうにする。

ヒト族の権力者に難癖を付けられて娘のリットちゃんを奪われそうになったから、ロブウッドさんたちは工房も故郷も棄てて逃げ出して来たのだと聞いた。

それがどのぐらい前のことかは知らないけど、仕事も何もかも奪われたんだものね。

私だって美味しそうな動物を見掛けたらワナを仕掛けたくてウズウズするもの。

お眼鏡に適う材料を目にしてウズウズするロブウッドさんの気持ちは分かってしまう。

テツさんにもロブウッドさんの気持ちが分かってしまったのか、目を細めて笑う。

「分かった分かった。必要な材料は言えよ?」

「おうよ」

興味津々なリットちゃんと2人で剣の残骸を検める作業に戻ったロブウッドさんに代わって、驚愕で盛り上がったテンションそのままで、うちの元気娘が絡みに行った。

「テツさんテツさん! さっきの、どうやって剣を折ったの!?」

「ん? 膝蹴りと肘打ちだよ。止めるつもりだったんだが、咄嗟のことだから加減できなくてなぁ」

「ほお―――っ! 膝と肘で!? すごいわ!!」

「・・・・・・」

鳩尾ほども身長がないハイテンション幼女に纏わり付かれて、テツさんが苦笑している。

他方、私の傍ではテツさん大好き娘が難しい顔で黙り込んでしまっている。

拙い! ヤキモチが発動しちゃってるよ!

意外と独占欲が強いらしいケイナちゃんを宥めに掛かる。

「・・・大丈夫大丈夫。自分に出来ないことが出来る人を見て興奮してるだけだから」

「そ、そうなので―――」

ホッとした表情でケイナちゃんが気持ちを立て直そうとしているところへ、興奮して周囲が目に入らなくなっている元気娘が特大の爆弾を投下してきた。

「テツさんみたいに強い人が許婚だったら良いのに!」

「「「―――っ!?」」」

目を剥いたのは、懐柔工作を破綻させられた私とライバル出現に直面したケイナちゃんとルナリア大好きなお父様だ。

「・・・・・・」

ほらぁ! ケイナちゃんがまた黙り込んじゃったじゃん!

娘離れできていないお父様は兎も角、オジ専の気配があるルナリアとオジ専を隠せていないケイナちゃん。

2人には仲良くして欲しいし、ぶつかられるのは困る!