軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ⑰

「本当に武器も防具も要らぬのか?」

「ああ。要らねえ」

興味深そうに訊くハインズお爺様に、気負いのない声でテツさんが答える。

「刃を付けていない訓練用とはいえ、剣は剣だ。当たれば怪我で済まぬことも有るのだぞ?」

「俺にはコイツが有るからな」

テツさんがグッと握って見せる大きな握り拳に、お爺様が唸る。

「拳が武器、か」

「遠慮は要らねえぜ?」

ニヤリと笑ったテツさんにお爺様も獰猛に笑う。

「良かろう。行くぞ」

「おう」

5メートルほどの距離で向かい合ったハインズお爺様とテツさんが、それぞれに構えを取る。

お爺様は左足を前に肩の高さで剣を立てたバッターみたいな構えで、テツさんは左足を前に斜め45度を向いて、左腕をダラリと下げて右手は拳を握って腰溜めにしている。

肩幅に開いた両足の膝を柔らかくしているのは分かるけど、長大な両手剣を両腕で構えるお爺様に対してテツさんの間合い―――、攻撃範囲は圧倒的に狭い。

2人とも右利きだから左足が前へ出るんだろうね。

2人が構えを取った瞬間、観衆がピタリと静まった。

「ぬううおおおおおおおおっ!!」

バットみたいに横凪で振るのかと思っていたら、お爺様は咆哮と共に頭上へ振り上げた剣を、大きな歩幅の踏み込みと同時に、ブオン! と風切り音を唸らせて振り下ろす。

テツさんの頭、あるいは肩を狙ったのかも知れない剣は、剣先が地面にめり込むと思われた寸前、ピタリと止まった。

力任せにグイッと引き上げられた剣から、岩でもぶつけたようにゴツンと硬い音が鳴った。

「ほう」

横に寝かせて盾にした長剣の腹にテツさんの右拳が止められている。

一瞬のことだったけど、「斬られた!?」と思ったテツさんはワンステップで剣の射程から下がり、再び踏み込んだんだと思う。

踏み込みと同時に打ち込んだテツさんの打撃を、筋力で強引に剣を引き下げたお爺様が防いだのだろう。

お爺様の両肩と両腕にグググと力が入ってテツさんの右腕を弾き上げたと思えば、今度はお爺様が跳び下がってテツさんの左拳が空振りした。

「は、ハインズ様が下がらされた、だと・・・?」

観衆の間から大きな響めきが上がる。

私にはお爺様がどうして後退したのかも分からないけど、「下がらされた」らしい。

追撃を受けそうになったから下がった、とか、そんな感じ?

「単に振るだけでは当たらぬか」

「そっちこそ、よくそんなクソ長えもん振れるな」

呆れを含んだテツさんの声にハインズお爺様がニヤリと笑い返す。

「鍛えておれば、どうとでもなるものだぞ?」

「筋力だけで、それかよ」

さっきと同じで左45度に体を向け、肩幅よりも少しだけ広めに開いた両足の膝を柔らかくしてテツさんが身構える。

今度は両手を胸の高さまで上げているけど、拳は緩く丸めているだけで固めていない。

対するお爺様は先ほどと同じく左足を前へ踏み出しているけど、グッと腰を落として剣先をテツさんに向け、胸の高さで剣を水平に構えている。

「もう1度だ。行くぞ」

「いつでも」

お爺様の体内保有魔力が膨れ上がったのを感じ取る。

あの剣、剣先までお爺様の魔力が通っているように感じるね。

あれが“クツキ”っていう剣技かな?

今度は身体強化魔法も使っての攻撃か。

じゃあ、さっきのはテツさんの力量を試したのだろう。

身体強化魔法を使うと1歩で10メートルぐらいポンポン跳ぶし、5メートルの距離なんて無いのと同じだからね。

お爺様の姿がブレたと思ったらテツさんの目の前に居て、斬り込みを避けたのかテツさんが真後ろへ下がろうとしたところへ、テツさんの背後から左足の膝裏を狙ったお爺様の斬り下げが襲う。

「うおっ!? っと!!」

慌てた声を上げたテツさんが左足を大きく挙げて、お爺様の剣が掠める。

空振りした剣を再び強引に止めたお爺様は、クルリと剣を持ち換えて左薙ぎ払いに行く。

上げた左足を引いたテツさんはお爺様に正対する格好になっていて、薙ぎ払いを避けられる体勢では無いように見えた。

お爺様の剣を覆っている魔力は非常に強いもので、“斬る”イメージが乗っているのなら本当に“斬れる”と感じさせるものだ。

「斬られる!」と思った瞬間、テツさんは避けるのではなく踏み留まった。

「うおおおおおおおっ!!」

「何!?」

パ――――――ンッ!! という破砕音と同時にお爺様が空振りした。

テツさんは右膝を高く上げて、膝の上に右肘を突いている。

お爺様の両手が握っているものは3分の1ほどにまで短くなった長剣の柄だった。

「なんだ!? どうなった!?」

観衆の間から声が上がってもテツさんは止まらない。

ドシンッ!! と地響きを立ててテツさんが挙げていた右足を踏み込み、振り抜いた左拳がお爺様の顔面を襲う。

お爺様はお爺様で短くなった剣をパッと手放して、右手でテツさんの左パンチをガードすると同時に左手で掴み掛かっている。

伸ばされたお爺様の左腕の袖口を掴み取ったテツさんは、お爺様の左腕を押し留めたり受け止めるのではなく頭上へ逸らした。

爺様がガードに使った右手の袖口も掴み取っていて、同時にお爺様の懐へと体を潜り込ませている。

「ぬおおおおおおおっ!?」

左腕を上方へ逸らされたことで前へ出ているお爺様の体が泳いで宙に浮く。

テツさんの背中の上でグルンと回転したお爺様の巨体が訓練場の地面に叩きつけられた。

ズン! と土煙を上げて、お爺様が抑え込まれた。

「「「「「おおおおおお――――――っ!!」」」」」

観衆から悲鳴とも思われる大きな響めきが上がった。

あ。これ、テレビのオリンピック中継か何かで見たこと有る。

何て言ったかな? “袖釣り込み腰”?

柔道の投げ技だよ。