軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ⑯

「・・・では、目立たない場所に植樹する、と? 苗床に植え付けるのは、領主館の敷地内であれば人目に触れさせない形は取れると思いますが」

「そうした方が良いでしょう」

おっと。こっちはすんなりと許可が下りたね。

警衛の兵士さんたちも居るから監視の目が行き届くってことかな?

「・・・問題は植樹する農地ですよね」

「人目に付かない場所といえば、ねぇ?」

「採掘場でしょうね。あそこなら領軍の監視も有るから、一般の領民や外部の者は近付きにくいでしょう」

セリーナお婆様が向けた視線にシェリアお婆様が頷いて返す。

ああコレ、イレギュラーが起こった際の緊急避難場所として、事前に採掘場を想定してあったんだな。

以前に比べればあんまり出なくなったとは言え、採掘場へ向かう直線道路は触角ヘビの出没危険地帯だ。

用事のない一般の領民たちが直線道路へ入ってくることはないし、何よりも目立つ。

監視しやすいし、見てはいけないものを見てしまった人を始末するのにも―――、って、農作物はそのうち明らかにするものだし、そこまで機密性の高いものではないはずだけど?

「それしか無いわね。フィオレ。採掘場の敷地内―――、は邪魔になるわね。採掘場の城壁外に植える場所を用意しなさいな」

「・・・あ。はい」

サッサと決められてしまった上に、オマケまで付いて来たか。

お婆様たちが何に警戒しているのかは分からないけど、お婆様たちがそう決めた以上は、やるしかない。

「またいくらかの木を伐る必要が有るでしょうけれど、場所と面積は貴女に任せるわ」

「・・・分かりました」

フィティオスさんとアルケマイオスさんの、風ジェットカッターの訓練も兼ねれば良いかな。

目の届く範囲というなら、採掘場の城壁に沿った辺りに植えた方が管理しやすいだろうし、城壁のキャットウォークへ上がって魔力の手を使えば、伐り出した木材をダイレクトに城壁内に搬入するのも楽チンだ。

農地に開墾するのはどうしようかな。

腐葉土が積もった森の中だから土は肥えているだろうけど、堆肥を足して土壌改良した方が良いだろうか?

「・・・ディディエさん。作り直している堆肥ってどうなってるか分かる?」

「まだ少し発酵に時間が掛かるそうです」

「・・・そっか。ありがと」

発酵促進で精霊魔法でも掛けに行ってみるかな。

精霊にお手伝いして貰って早く芽が出るのなら、堆肥の発酵も早くなるんじゃないだろうか。

発酵を促す微生物は植物じゃないけど、有りな気がする。

最悪、堆肥無しで植えるだけ植えて、後で堆肥を足せば良いかな。

農業のことは分からないけど、結果論が通用するものだと信じよう。

蛇の道は蛇で、農業に造詣が深いダーナさんが提案をくれる。

「苗床を用意しましょうか?」

「・・・そうだね。お願い」

そうじゃん。もう種子が芽を出しているのだから、苗床をすぐに用意して貰わないと。

ディディエさんたちを農業担当に任命して正解だったね。

伐採にばかり意識が行ってたよ。

農地開墾と植樹は農家さんたちにお願いすれば良いか。

採掘場へ出勤するついでに出荷を手伝わせて、農家さんたちにも血を飲ませて強化する手も有るね。

今は農閑期だから農家さんたちは比較的手が空いているはずだし、領民強化計画の停滞を改善する切っ掛けにしたいところだ。

お母様がルナリアと私のヘルムをポンポンと軽く叩く。

「おい。そろそろ着替えてこい」

「「はーい」」

丸洗いタイムだな。

返事をするやいなや私の背中に引っ付いてきたルナリアと合体する。

領主館へ帰ってそのまま甲冑を着せられて、汗をかいたからね。

重かったし暑かったけど、色々と理解を深める機会になった。

「ケイナ様とノーア様も行きましょうか」

「にゃ」

ノーアはすぐに返事をしたけど、ケイナちゃんは困った表情で口籠もる。

「いいえ。私は・・・」

「ケイナ様?」

いつの間にかケイナちゃんのすぐ後ろに立っていたミセラさんが何やら耳打ちした。

「あ。はい。行きます」

即落ち2コマ? いや、3コマかな?

耳元で何かを囁かれたケイナちゃんが前言を撤回して180度態度を変えた。

色白なケイナちゃんの頬がほんのり赤くなっている気がするけど、一体、何をミセラさんに吹き込まれたんだか。

まあ良いや。

何か今日も色々と有ったけど、平和な1日で良かった良かった。

明けて早朝の訓練場。

まだ3の鐘が鳴ったばかりの時間だけど、どこから聞きつけたのか、訓練場には多くの騎士様や兵士さんたちも出てきていて観衆を決め込んでいる。

かく言う私たちも観衆の一部だよ。

遠巻きにしている観衆の真ん中に向かい合って立つのは、ハインズお爺様とテツさんだ。

ハインズお爺様はご自分の長身に近い冗談みたいな長さの両手剣を肩に担いでいて、対峙するテツさんはいつも通りの手ぶらだよ。

あの剣も訓練用だから刃は付いていないそうだけど、西洋剣が力や重さで押し斬るものだというのが本当なら、刃が付いていなくても危険な武器になるのは違いない。

そもそも、ハインズお爺様は魔力を剣に纏わせて斬る剣技“クツキ”の名手だって聞くし、刃が付いているかどうかなんて関係ないはずなんだよね。

お爺様がパワータイプなことは外見を見ただけでも分かるだろうし、すごく不利な条件での模擬戦になるはずなのにテツさんは平然と手首足首を回して準備運動をしている。

その余裕を感じさせるテツさんの態度が観衆がざわめいている原因だね。

鎧下姿のハインズお爺様も腰を捻ったりと軽い準備運動はしていたけど、すぐに準備を終えた。

お爺様は縦にも横にも大きくて身長2メートルを超える巨漢だし、横幅では負けているけどテツさんもお爺様に負けず劣らずの巨漢だから、向かい合って立つだけでも迫力がある。

すごく楽しそうに口元を引き上げているお爺様の隻眼がテツさんに向けられた。