軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ⑫

「試させてくれるか?」

「冗談じゃねえ―――、いや。魔法剣か・・・」

ニヤニヤと笑っているお母様のお願いを拒否しかけたテツさんが、一転して思案顔になった。

何でそこで迷うかなぁ。

“好奇心ネコを殺す”って言葉、知らない?

「・・・止めた方が良いと思うよ?」

「そうです。もしものことが有ったらどうするんですか」

ほらぁ。ケイナちゃんにも冷ややかな目を向けられちゃってるじゃん。

「分かった分かった。悪かった」

ケイナちゃんに弱いらしいテツさんが即時無条件降伏をキメた。

お母様の悪ノリを眺めていたハインズお爺様が、珍しく身を乗り出してくる。

「ならば、普通の手合わせならどうだ? 儂も勇者本人と剣を交えた経験は無くてな」

「あー・・・。普通の模擬戦ってヤツなら?」

「ヨシ。明朝にでも戦ろう」

ハインズお爺様が男臭く笑い、いつもなら領主執務室へお爺様たちを連行して行ってしまうセリーナお婆様は、器用に片眉を上げただけで何も言わなかった。

「断れそうな雰囲気じゃねえな」

「無理はしないでくださいね」

「ああ、うん。そういうわけじゃねえんだがな?」

押し込まれて模擬戦を受けざるを得なくなったテツさんが、心配そうなケイナちゃんが向けてきた視線に口元をモニョらせて答えにくそうにする。

ふぅん? 別に模擬戦が嫌ってわけじゃないのかな。

じゃあ、何で? と思ったら、ハインズお爺様が答えをくれた。

「心配するな。模擬戦は模擬戦に過ぎぬでな。勝とうが負けようが恨みも侮りもせぬ」

「まあ、お手柔らかに?」

恨みっこ無し、とハインズお爺様に宣言されて、テツさんもニヤリと笑って返している。

そういうことか。

雰囲気を悪くしたくないからハッキリしない態度だったんだね。

つまり、テツさんは“勝てる”と踏んでいるわけだ。

うーん・・・。

熊と殴り合う人だしなぁ。

自信過剰ってことはないよね。

お爺様を応援したいところだけど、まだお友だちになったばかりのケイナちゃんと対立したくないな。

ルナリアは間違いなくお爺様を応援するだろうから、私は中立を貫くべきだろうか。

私の頭の中が模擬戦応援の立ち位置で埋め尽くされているところへ、シェリアお婆様の声が耳に届いた。

「フレイア。アレを渡してあげなさい」

「ん? おう。アレか」

お婆様の指示でお母様が誰かを探すように視線を走らせると、ミセラさんとマーシュさんが何かを載せた大きなトレイを持って来た。

何だろ? アレ。

派手な色の布っぽいけど。

ミセラさんたちの姿を確かめたセリーナお婆様から声が掛かる。

「ルナリア。フィオレ。ちょっと立ってみなさいな」

「ふぇ?」

「・・・あ。はい」

油断していたルナリアの口から間の抜けた声が漏れて、それを誤魔化すためにルナリアの声に被せて私が返事をする。

椅子にジッと座っているだけでも真っ直ぐにしていないと重さでフラフラするのに、再び立てと言われるとは思って居なかった。

明日はきっと、あちこちが筋肉痛だろうと予想しながら、よっこらせと立ち上がる。

ミセラさんがお母様の前へトレイを差し出す。

「こちらを」

「おう。―――ルナリア。後ろを向け」

「んん? はい」

良く分かって居なさそうな返事をしつつも、素直にルナリアが回れ右をする。

お母様がトレイの上から取り上げた布をバサリと広げた。

紫が雑じったように暗めで深い色合いの赤はワインレッドと呼べば良いのだろうか。

上質そうな布の中心から少しだけ上方へ寄った辺りに、デカデカと金糸で刺繍が施されている。

コレってマントかな?

お母様の手が大きな布の両肩に付いた飾り紐を、それぞれポールドロンの固定具に結わえ付けている。

襟みたいな返しが付いた形のマントだけど、あんな位置に装着するものなんだ?

紋章入りのマントを背負ったルナリアは、鮮やかな金色の髪も映えてファンタジー系のゲームキャラクターのようにも見える。

「・・・おお。カッコイイ」

「ふむ。悪くないな」

お父様たちが目を細めて、自分の背中が見えないルナリア1人だけが、よく分からない顔で首を傾げている。

「なに? 外套?」

「クロークだな。鮮やかな赤は王家の色だから、少しばかり趣を変えざるを得なかったが、このぐらいの色ならお前も気に入るだろう」

マントの裾を後ろ手に掴まえることに成功したルナリアは、目の前へ手繰り寄せたマントの布地に目を落として、パァッと表情を輝かせている。

「おー! 大人っぽくて良い色!」

「・・・すごいよ。背中に金糸でウォーレス家の紋章が刺繍してある」

「へぇー! どんなの? 見たいけど見えないわ!」

自分の背中を見ようと体を捻っても見えないものは見えないだろうね。

右へ左へ体を捻ろうとする度に、バランスが怪しくなってルナリアの体がフラフラと揺れている。

「後でゆっくり見れば良かろう」

「私たちからのお祝いよ」

「ありがとう! お婆様たち!」

ハインズお爺様とセリーナお婆様に向けて、太陽みたいに輝く笑顔でルナリアがお礼を告げる。

ウンウンと頷いて満足している私にもお母様の声が掛かった。

「フィオレ。お前も後ろを向け」

「・・・はい」

マーシュさんが差し出しているトレイに載っていたのは私のマントってことか。

日本語だと瑠璃色って呼ぶんだったか、ラピスラズリのように鮮やかな青色に見えたけど、こっちの世界では初めて見る色だね。

どこだかの宮殿に施されたモザイク装飾の青色が、こんな色じゃなかったかな。

ルナリアが歓声を上げる。