作品タイトル不明
盟約 ⑪
「凄えな。俺の国の政治家や官僚に聞かせてやりてえ」
言いたいことは分かるけど、日本の政治家や官僚だって、全部が全部、悪い人じゃないでしょうに。
もちろん、全部が全部、良い人だとも思わないけどね。
誤解が有るようだから後で修正しておかないとなぁ。
ウォーレス血統の考え方は特殊な方で、“保守派”の貴族でも自分の贅沢におカネを掛けているらしいし。
新領地の西隣に有るサボット領やマンメルソン領だって、両方とも“保守派”の伯爵領だけど、娘さんに贅沢をさせてお花畑な御令嬢に育てていると聞いている。
その娘さんたちを嫌っているルナリアの情報だから、もしかすると多少は偏っているかも知れないけど、根が明るくて真っ直ぐなルナリアが根拠もなく他人を貶めるとも思わない。
ただまあ、贅沢かどうかは主観の問題でも有るし、領民たちが幸せに暮らせているなら領主が多少の贅沢をしても許される部分は有るのだろうしね。
お父様がテツさんに目を向け直す。
「ニホンという国は強国だと聞いたが?」
「弱くはねえんだろうが、いつの情報だろうな?」
お父様の評価にテツさんが首を傾げる。
だよねぇ・・・。
こっちの世界で有名な勇者さんは戦国時代のお侍さんで、王国ではもう1人、明治時代ぐらいの軍人さんも知られている。
確か、上嶋さんだったかな。
王城の地下で軍人手帳を保管している、あの人のことだ。
当時の戦国大名や日本軍には政治的な制約が無かったし、生き残りを賭けて、全力であの手この手を尽くしていた。
でも、現代の自衛隊だって最先端技術と最新鋭装備品でガチガチに固めているのだから、決して弱いわけではないはずだ。
「というと?」
「80年ぐらい前だったか、戦争に負けて、人も街も文化も、何もかもが焼けて国がなくなりそうになったんだ」
ほら、やっぱり。
テツさんの迂遠な答えにお父様が首を傾げている。
それじゃあ伝わらないんじゃない?
テツさんが言い淀んだのは、敗戦後の日本が“専守防衛”の自縄自縛で雁字搦めに縛り付けていられるからだろうね。
「80年前というと、1代前の勇者が召喚される少し前だな」
「勇王とかいう奴の前か。そいつの話は聞いたことがねえな」
私も!
テツさんが言うように、勇王の前の勇者さんに付いては何も聞いたことがない。
渋い表情のお父様だけでなく、お母様も不機嫌そうな表情で頷く。
「召喚周期から言うと、70年近く前の話だからな。何とかいう国の女性だったらしいが、召喚から数年ほどで自害したと聞いている」
「短命だった勇者の情報は、なかなか漏れて来なくてな」
うへぇ・・・。自殺かぁ。
世を儚んで? それとも自分の尊厳を守るために?
女性なのだったら、後者の可能性がかなり高いよね。
千年単位で延々と拉致を繰り返して恥じない連中なんだから、拉致被害女性の尊厳を奪って言うことを聞かせようとしたんじゃないかと勘繰られても仕方ないでしょ。
嫌そうに顔を顰めたテツさんが首を傾げる。
「へぇ。レイクスたちの爺さんからは、2人の勇者に会ったことが有るが両方とも日本人だったと聞いたんだが、他の国の人間もいたんだな」
ほほーう。レイクスさんたちのお爺様って、元・王様だよね?
500年前の勇者さんと会ったことが有るっていうのは理解できる。
だけど、もう1人の勇者さんって120年ぐらい前の人なのに、その人とも会ったことが有るってことは、森の中に有るエルフ族の集落を訪れたんだろうか?
そんな偶然、有る?
500年前の勇者―――、クツキさんも、120年前の上嶋さんも、いつ亡くなったのかの情報が無いんだよ。
すごく強かったらしい日本人の勇者さんって―――、というか、勇者さんたちは全般的に謎が多いよね。
私がエンカウントのタイミングについて推考している間にも話題は進む。
「いくらかニホン人の比率が高いようだが、結果論じゃないか? 選んで召喚できるものでも無さそうだぞ」
「全体として見れば、他の国から召喚された者の方が多いのかも知れんな。ニホン人が目立つのは、“勇者クツキ”が有名すぎる面は有るだろう」
ふぅん。日本人の比率だけが高いわけじゃないんだ?
確かに英語やフランス語も入って来ているし、植物の植生も地球のものと極めて近いものが結構有るしね。
恐らく、現代日本と言語も常識も変わっていないだろう30年ほど前に拉致されて来た勇王が広めたものではないはずだ。
統一国家以前から、人間と一緒に拉致されて来たものが、私が思っているよりも多いのかも。
「そうなのか? クツキねぇ。名字を漢字で書くと沓木? 朽木か?」
テツさんも新たに得た情報を咀嚼するようにしている。
これは補足が必要かな?
「・・・勇者さんの名前が付いてる剣術の技が有るんだよ」
「ほほう?」
感心の声を上げたテツさんに、ハインズお爺様が猛獣のような笑みを向ける。
「放出した魔力を剣に纏わせる技でな。普通に斬るよりもよく斬れる」
「魔法剣ってヤツか」
あ~。そうかも。
“クツキ”って剣術の技はハインズお爺様の得意技らしいんだけど、剣は普通に鋳鉄を叩いて鍛えた西洋剣だからね。
その剣に魔力を纏わせる―――、たぶん、魔力を浸透させて魔法的な刃を纏わせている状態だと思うんだよ。
感覚的には身体強化魔法の延長線上に有る技術らしいんだけど、魔法的には魔力の手と同じで放出系の1種になるはず。
テツさんが漏らした感想に、お母様まで好戦的にニヤリと口角を引き上げた。
「試してみるか?」
「フレイアさんよ。アンタ、何かと理由を付けて俺を斬ろうとしてねえか?」
テツさんが訝しげな目をお母様に向ける。
「気のせいだ。イエーティの爪でも引き裂かれないほど硬い防御に興味が無いわけではないがな」
「やっぱり試そうとしてんじゃねえか」
平然と返すお母様にテツさんが呆れ顔で言い返す。
テツさんってツッコミ体質?
お母様のユーモアセンスも物騒すぎて本当に笑って良いものなのかが悩ましい。
ユーモアだよね?