作品タイトル不明
盟約 ⑬
「すっごい綺麗な青色ね!」
「そうだろう。この色を出す染料は南方産だからな。取り寄せるのに苦労したんだぞ。奥方殿とお袋殿が」
お母様の自慢にズコッとコケそうになった。
苦労したのはお婆様たちか。
南方産ね。
南隣のカリーク公王国も、その西側に有る勇王国も敵で、陰に陽に遣り合っている真っ最中だもの。
敵国産の染料を入手するのは、そりゃあ難しかっただろう。
「・・・ほーう。―――あれ? 」
宝石のラピスラズリそのものの、抜けるような青空を思わせる色の布地に目を落として感心していると、裏地に金糸の刺繍が入っていることに気付いた。
花弁を開いた花のような図柄で小さな刺繍が裏地一面に施されている。
いや。コレって花?
花・・・なのかな?
デフォルメされたよく分かんない図柄だな。
訊いた方が早いか。
「・・・この刺繍の図柄って?」
「松の実だ」
「・・・あっ・・・!」
実じゃなく、松ぼっくり!?
知らない人が見れば、松ぼっくりが松の実だと思っても仕方ないよね。
松ぼっくりは葉っぱみたいなもので実じゃないんだけど、そんなこと言ったら私の言う“松の実”も種子であって実じゃないんだし引き分けかな。
そこはまあ良い。
松ぼっくりだと思って見れば、確かに傘を開いた松ぼっくりに見える。
「出兵が控えていたせいで意匠を考える時間が無くてな。上手く図柄に落とし込めと指定して後は任せたんだが、なかなか良い出来に仕上がったじゃないか」
「・・・ありがとう! お母様!」
お礼を伝えると柔らかく目を細めたお母様にヘルムをポンポンと叩かれる。
私にとって松の実は私の命を繋いでくれた特別なもので、それを、私を示す図柄として選んでくれたことが、すごく嬉しい。
私の手元を覗き込んできたルナリアが首を傾げた。
「フィオレのは、わたしのとは刺繍が違うのね」
「ピーシス家の紋章でも良かったんだが、ルナリアよりも前へ出るフィオレが紋章まで背負うと、狙ってくれと言わんばかりになるからな。フィオレを象徴する図柄だけにした」
「そっか。狙われるのね」
納得顔のルナリアが私の手元へ視線を戻してくる。
「ふーん・・・」
「・・・象徴かぁ」
お母様がこういうものや紋章を身に付けているのって見たことないな。
私と同じことを考えていたらしいルナリアが、疑問をそのまま口に出す。
「お母様にも有るの?」
「有るぞ。私は炎の図柄だ。特務を引き受けてからはペリースが有ったから、ずっと使っていなかったがな」
「「おお~」」
確かに、それっぽい!
なるほど。象徴か。
松ぼっくりが私っぽいのかどうかは私には分からないけど、お母様から見ると私っぽいと思ったのだろうね。
私としては、半年の間、私を守ってくれた松の大木と一緒に居られるようで、図柄だけでも安心感が有る。
あれ?守ってくれた?
あ。そうか。これってお守り代わりでも有るのか。
私の命を繋いでくれ、って願掛けだよね?
お母様の想いが伝わってきたように思えて胸の中が温かくなる。
「あ」
ハタと気付いたようにルナリアが動かしにくい体を捻って背中の後ろへと伸ばす。
自分のマントを脇の下から引っ張り出してきた。
「でもコレ、目立つんじゃない?」
「将の健在は、戦場のどこからでも一目で見えねばならぬからな」
ルナリアの疑問に答えたのはハインズお爺様だ。
将の健在? 一目で見える?
将ってことは、騎士様たちや兵士さんたちから見えるようにってことだよね?
ふむ・・・。
「・・・兵の士気に関わる?」
「そうだ。強き将の背中を見れば兵は奮い立つものだ」
私が導き出した仮説に答えをくれたのはマルキオお爺様だった。
お父様も溜息雑じりに頷く。
「その分、敵兵を呼び寄せるものでも有るんだがな。兵の目に留まる必要は有るんだが、加減が難しい」
「「へぇ~」」
ルナリアと私の声が被る。
目立てば良いってものでもないらしい。
それはそうだよね。敵味方が入り乱れて戦うのであろう戦場で、味方から将の健在が見えやすいってことは、将の首を狙う敵からも見えやすいってことになる。
味方が注目している前で将が討ち取られちゃったりすると、味方の士気が駄々下がりになるのは請け合いじゃない?
お父様を諫める形で私の心配を根底から否定したのはハインズお爺様だ。
「有象無象など薙ぎ倒してこその将だぞ」
「そうだな」
ですよねー。
お父様も素直に同意した。
お爺様たちの真剣な目が私たちに向けられて、自然と私たちの背筋が伸びる。
何だろう?
大事な話なのだろうことはピリッと引き締まった雰囲気で分かる。