軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ⑨

「・・・作法で“開戦の意志有り”と判断されるのは、どの段階なのでしょう?」

「国境を越えたのでなければ、陣形を整えた時点だな」

「攻撃命令を下す直前まで来ると、もう誤解の余地は無くなる」

私の質問にお爺様たちが答えをくれる。

ふむふむ。“敵の攻撃目標が私たちだと明確になった時点”ってことかな?

まあ、敵の領土内だからね。

「魔獣の間引きに来ただけなのに攻撃された!」とか言い訳される恐れが有るってことなんだろう。

一公爵が王権を主張して一方的に領土を割って建国したような連中だし、攻め込む気マンマンで軍隊を出してきたくせに、私たちのせいにして被害者面をしそうでは有る。

慎重すぎる気がしなくはないけど、私は戦争の素人なんだし、ここは先達の判断に従おう。

だからと言って、退く気はないけどね。

「・・・では、その瞬間を狙います」

「フィオレが一番槍を付けるのか?」

私の宣言にハインズお爺様が目を瞠った。

言い訳できない条件が揃えば始めちゃって良いってことでしょ。

妥協ラインとしては間違っていないはず。

それよりも譲れないものが有る。

「・・・最初に削れるだけ削ります。それなら被害を少なく、楽に勝てますよね?」

「そうでは有ろうが、敵の恨みを買うぞ?」

マルキオお爺様が心配そうな目を向けてくる。

家族に気遣って貰えるのは有り難いことだし嬉しいけど、どこの誰とも知らない有象無象にどんな陰口を叩かれようが、私の知ったこっちゃないよ。

散々、野生児だの原始人だの低学歴だの喪女だのと陰口を叩かれる人生を送ったこの私が、敵に逆恨みされたぐらいで気にするとでも?

精々、陰口が1つ2つ増える程度だ。

平和な日本の感覚で言えば、“自分の手で奪う命の数”に思うところが無いわけじゃない。

でもね? ここは日本じゃないんだよ。

宗教に狂った砂漠地帯でもないし、モラルが育っていない発展途上国でもない。

殺るか殺られるかの侵略戦争や民族浄化が当たり前に罷り通る異世界なんだよ。

獲物の命を奪うことに慣れた私にとっては、魔獣も人間もない。

人語を話せる魔獣と何が違うの?

私と私の大切な人たちを脅かすものに掛ける慈悲なんて、私の中には存在しない。

そもそも、ウォーレス家はこちらから攻め入ることを自ら戒めているんだよ。

怨霊だろうが遺族だろうが胸を張って言い放ってやる。

死ぬのが嫌なら攻めて来なければ良い。

身の丈に合わない欲をかいた末の自業自得だよ。

核兵器だってステルス戦闘機だって同じじゃん。

怖れるからこそ抑止力になる。

私自身を抑止力とするなら、命を奪うことを躊躇っちゃいけない。

思いを込めてお爺様たちの心配に答える。

「・・・私はピーシスですし、そんなの今さらでは?」

「その覚悟やヨシ―――、だが、フィオレに敵の反撃が集中したときに、甲冑の重さで身動きが取れぬでは後退も出来ぬな」

「ならば、フィオレは甲冑無しで戦に臨ませるしか無いか」

私の反論にお爺様たちが深刻な表情で顔を見合わせる。

深い溜息と共に苦々しい顔で最終決断を下したのはお父様だった。

「止むを得まい」

おおっ。お許しが出たよ!?

このクッソ重い甲冑を着ずに済むなら少しは戦えそう!

メッチャ殺る気になってきた!

もし肉弾戦になったとしても、敵兵が魔獣よりも強いとは思わないしね。

数は多いけど、敵を薙ぎ倒す方法なら思い付くものも有る。

そんなことよりもルナリアだ。

私が甲冑から逃れられたとしても、ルナリアは難しいんじゃないかな。

だって、ルナリアがウォーレス家当代当主として戦場に立つので有れば、敵軍の最優先目標はルナリアってことになるじゃん。

「魔法術師が真っ先に狙われる」というのは“邪魔だから”で、分かりやすい勝敗の指標として狙われるのは総大将で有る当代当主だろう。

そのルナリアが甲冑を着ていないわけには行かないだろうし、戦争が続く間、ルナリアは暑さと息苦しさに苦しめられることになる。

どうする? どうすれば良い?

いやいやいや。答えなんてとっくに出てるじゃん。

一瞬で敵軍を焼き払ってルナリアを甲冑の重量から解放すれば良いんだよ。

少しの間だけ我慢して貰おう。

ルナリアを熱中症の危機から救うのは私だ。

娘を危険に晒す決断をしたお父様が次の心配事に向き合う。

「しかし、ピーシーズはルナリアに付けるしか有るまい? フィオレの護衛はどうする」

「私が付く。魔法術師として私も“砲撃”に参加するのだから、そうするのが最も効率が良かろう」

お母様の決断に、お父様とマルキオお爺様が頷く。

「ふむ。所詮はカリークのアホどもだしな」

「では、一応の方針は定まったな」

自分の話がほとんど出て来なかったルナリアが驚いた様子で目を丸くする。

「えっ? そうなの?」

「お前は総大将なのだから本陣から動けぬぞ」

「あっ。そっか」

ハインズお爺様にツッコまれたルナリアは秒で陥落した。

目を細めたお母様がルナリアに明確な課題を与える。

「御大のように斬り込んで行きたければ、甲冑ぐらいで音を上げないようにならんとな」

「はーい・・・」

残念そうにルナリアが答えたけど、頑張りすぎないようにコントロールしないとね。

これから成長期を迎えるルナリアに無理をさせすぎると、心身の成長に悪影響が残る可能性が有る。

具体的には身体的な成長不良や心の発達不良になるのかな?

ハインズお爺様がコキコキと凝った肩を鳴らす。