作品タイトル不明
盟約 ⑧
「待て。そうも行くまい」
「魔法術師は最初に狙われる。それは分かっていよう?」
甘かった。お爺様たちから一瞬でダメ出しされた。
でも、そのぐらいではお母様も引かない。
「そうなんだがな。矢も術式も届かん距離で先手を取るのなら、必要ないかと考えてな」
「撃ち漏らしが押し寄せたときに危険ではないか?」
控え目にも聞こえるお母様の反論―――、というか、これは提案なんだろうか。
お父様が懸念を口にする。
撃ち漏らしかぁ。
先手必勝でバンバン魔法を撃って、その攻撃を掻い潜ってくる敵の軍勢がいたら、確かに反撃を食らうのかも知れない。
尤もな懸念では有るんだけど、そんなことが可能なんだろうか?
お母様も私と同じように考えたらしくて肩を竦めて返す。
「“蒼焔”や“白焔”に耐えられる兵が居るのなら、だな」
それだよ。
火力が1段落ちる“紅蓮”でも、真っ赤な炎のキノコ雲が立ち上がるような爆炎なんだよ?
炎の熱に耐えられる人がいたとしても、周囲も人も丸ごと炎に包まれてしまえば呼吸するだけで気管や肺が焼かれるんじゃない?
炎に肺を焼かれたり有毒ガスを吸い込んだりしないないように、消防士さんが空気ボンベを背負って消火活動をしている動画を観たことが有る。
消防士さんたちはそういう意味で背負ってるんじゃないのかも知れないけど、私の理解がそうなんだから、今はそれで良い。
鉄で出来た甲冑で全身を覆っているから、いきなり衣服に引火して火だるまになることはないのだろうけど、鉄というものは熱されれば熱くなる。
コンロの火に掛けられたフライパンみたいに熱くなった甲冑を、着続けていられるものかにも疑問が残る。
私は単発の魔法を想定していたけど、お爺様たちは違った想定をしたようだ。
「ふむ・・・。“準備砲撃”か」
「敵兵の全てを術式で削り取れる自信が有るのだな?」
ああ。そっちも有ったね。
長くなりそうだと判断したのかミセラさんたちが椅子を持って来てくれて、ルナリアと2人、有り難く座らせて貰う。
お母様たちが実戦で戦果を挙げた戦術なのだから、使わない道理はないよね。
単発の想定が連発に格上げされて火力マシマシになってしまった。
そんなの、いよいよ潜り抜けて来られる人なんていないでしょ。
お母様の視線が私へ戻ってくる。
「フィオレ。どの程度の距離までなら敵軍に“蒼焔”を当てられる?」
「・・・見えていれば、5キロメテルぐらいまでなら」
目視だけだと怪しいけど、アクティブソナーで捉えられる範囲内ならイケると思う。
私の答えにハインズお爺様が目を剥いた。
「5キロだと・・・?」
「自信が有るようだが、どうやって当てるつもりだ?」
マルキオお爺様も驚いては居るみたいだけど、技術的な裏付けが欲しいのだろうね。
良いとも。魔法に明るいお爺様なら理解してくれるはず。
「・・・魔力で敵の位置は探知できますから、その反応と目視を合わせれば確実に狙った場所に術式を落とせると思います」
私が提示した方法論は、アクティブソナーによる探知との合わせ技。
現代地球の軍事技術で言い表せば“レーダー射撃”になるのだろう。
あれ? 違うかな?
ただし、正確な計器の数値じゃなく感覚に頼る部分が大きいから補助的な視覚情報も合わせる。
どちらがメインになるのかは判断が難しいけど、魔力反応の知覚情報と視覚情報を合わせれば、当てられる自信は十分に有るよ。
さらに言えば、“蒼焔”は効果範囲が大きいからね。
多少の誤差なんて有って無いようなものなんじゃないかな。
「ほう」
「なるほど。探知か」
「そういう術式の使い方も有るのか」
私の技術論にお父様とお爺様たちが納得顔で頷く。
ヨシ。説得できそう。
「それは“有り”だな。私もやってみるとしよう」
「・・・お母様なら、すぐに感覚を掴めると思うよ」
グリグリの代わりか、私のヘルムをポンポンと軽く叩いたお母様が背後に目を向ける。
「コツを覚えればエゼリアたちにも出来るだろう」
「訓練のし甲斐が有りそうですね」
戦争モードに入ったのか、エゼリアさんたちも好戦的な笑みを浮かべている。
エゼリアさんたちへ目を向けたマルキオお爺様が思案顔になった。
「ふむ・・・。ならば、心配するまでもないか」
「逃げ回る敵を追い回すだけの戦になりそうだな」
ボヤキのようなお父様の予想にハインズお爺様も首を振って応える。
「“準備砲撃”か。攻城戦だけでなく、野戦でも使えるとなれば戦が変わるのう」
「戦など、楽に勝てるに限る」
「それもそうだな」
お母様がバッサリと斬り捨てれば、お父様とハインズお爺様も同意した。
私も全面的に同意するところだよ。
でもさぁ。「楽に勝てるに限る」というなら、敵軍が攻めてくるのを待つ必要なんて無いんじゃないの?
やって良いものか聞いておいた方が良さそうかな。
「・・・楽に勝つなら、敵が集結を終えた瞬間を狙えば一網打尽に出来るのでは?」
「敵が開戦の意思を見せる前にか? それは流石に卑怯者の誹りを受けよう」
驚いた様子のハインズお爺様が首を振る。
なんで? 線引きが分かんないな。
「・・・ええ? 軍隊を集結させた時点で開戦させる意志は明白だと思うのですが」
「その通りなんだが微妙だな。戦争の作法から外れすぎている」
お父様も本当に微妙そうな表情になっている。
平安武者みたいなことを言い出したよ?
古来ゆかしい感じに「やあやあ、我こそは~!」なんて名乗り合うわけでも無いと思うんだけど、私が誤解しているんだろうか?
戦争の作法ねぇ?