軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盟約 ④

続いてマーシュさんが持ち出してきたのは、 上腕当て(リア-ブレス) と 肘当て(コーター) と 腕当て(バンブレス) の3つが連なった腕パーツだ。

筒状になった上腕部と前腕部は、グリーブやブレストプレートのように2つ割りになった間に腕を差し込んで金具で止めると、腕がズッポリと装甲に包まれる。

この腕パーツもクイスと同じように、ギャンベゾンの肩部分へズリ落ちてこないように革紐で縛り付けて吊す格好になる。

右腕、左腕、と吊されて、両肩が重くなったところへ、さらに重ねて 肩当て(ポールドロン) が乗せられる。

このポールドロンはアレだよ。

世紀末だとトゲトゲが付いた肩パッドに当たるパーツだね。

宇宙世紀な人型巨大ロボットだと、肩に付いたカギ括弧型の盾になるのかな。

世紀末や宇宙世紀と差違が有るのは、右肩用のポールドロンの前面側に 脇盾(ベザゲフ) と呼ばれる小さい円盤状のプレートがブラ下がっていることだろう。

この装飾かと思うようなベザゲフは、右腕で剣を振り上げたときに脇の下をブスッとヤラレないように守るためのものらしいよ。

てことは、ベザゲフがブラ下がっている側を見れば、その人が右利きか左利きか分かるんじゃないの?

右肩、左肩、と乗せられた肩パーツからマーシュさんが手を離す度に、ズシッ、ズシッと重量が増える。

なにコレ、メッチャ重い!!

私の限界点を超えつつ有るのか、今までとは一線を画した重量が両肩に掛かった感じがして、フラフラと上体が揺らぐに止まらず足元もフラつく。

全軍の先頭に立って敵陣へ斬り込んでいく戦闘スタイルのお爺様たちなんて、この腕パーツや脇の隙間に鎖帷子まで装備して敵の刃を防いでるって言うんだよ!?

それって、どれだけ重たいんだよ!

「・・・うごごごごご」

「ぐぎぎぎ・・・」

「特に頑丈に作られているポールドロンは重いですからね。頑張ってください」

が、頑張ってる! もう頑張ってるから!

マジカル担当の私だけでなく、ミセラさんの手でポールドロンを乗せられたフィジカル担当のルナリアまでもが、急増した重量に歯を食いしばって耐えている。

日本の大鎧や当世具足でも 大袖(おおそで) ―――、 肩鎧(かたよろい) は頑丈に作られていたんだっけ?

日本の場合は鎧武者が盾を持つことはなかったから、飛んでくる矢を肩鎧で受け止められるぐらいに頑丈だったとか。

盾を使うことが有る西洋甲冑でも、肩に攻撃を食らいやすいことは想像できなくもないね。

頭上へ振り上げた剣で叩きつけるように斬り付けられるのだし、一番上部の頭と両肩の被弾率が高くなるのは道理に適っている。

ゆえに、これらのパーツは分厚く頑丈に作られる。

安全に配慮したからといってズッシリとのし掛かる両肩の重さがマシになることはない。

むしろ、配慮すればするほど重量は増えるのだろう。

これもまた、重量と安全のトレードオフだ。

両足をプルプルさせながら耐えている私たちを眺めて、お母様が目を笑わせている。

「まだまだ鍛え方が足りんな」

「まあ、まだ6歳ですし」

「ナンナでも甲冑を着たのは8歳ですからね」

「毎日着ていれば、そのうち平気になりますよ」

いやいやいや! こんなのを毎日着ていたら、過負荷で成長が止まっちゃうから!

エゼリアさんたちも、それ、フォローになってる!?

ミセラさんとマーシュさんの鬼畜の所業はまだ終わらない!

「あとは首甲と兜だけですから、もう一息ですよ」

「「は、はーい・・・」」

ひっくり返らないように両足を踏ん張って耐えているルナリアと私の下へ、美容師さんが練習台に使うカットドールみたいな甲冑の首から上を、「最後」と言いつつミセラさんたちが持ってくる。

これ、全身甲冑時代後期の“アーメット”ってタイプだっけ?

一分の隙もなく 首甲(ゴージット) と一体化した 兜(ヘルム) は顎下を狙われても平気なものらしい。

それ以前の時代は、肩から首をタートルネックになった首用の鎖帷子で守るタイプだったものが、板金技術の発達で鱗が重なる爬虫類のお腹みたいな板金パーツで、広い可動域を維持したまま首を守るように変わったんだって。

鎖帷子って網の目以上の刃は通さないけど、鎧通しみたいな細く尖った武器で刺されると、ほんの1センチメートルでも刃が通っちゃう。

首の皮1枚下には頸動脈が通っているから、その深さ1センチメートルの浅い傷が致命傷になっちゃうんだよ。

自分でも両手が届く右鎖骨の辺りに接続部が有るゴージットを、首輪みたいに装着する形だね。

剣道の“胴”みたいなブレストプレートの上からゴージットを乗せて、接続部の金具を留められる。

いよいよヘルムを被せられるわけだけど、ヘルムの 鉢(スカル) 部分にはモヒカンみたいな形にトサカ形状のコウムが付いていて、コウムの頭頂部から少し後ろの辺りに指1本がスポッと通るほどの穴が空いてるんだよ。

何が驚くって、この穴が何のためのものかと思えば、私たちのように髪が長い人は、コウムの穴から髪を引っ張り出すんだって。

ちなみに、リーゼントヘアのヤンキーな人たちか愛用している 櫛(コーム) が、このコウムの語源になっている。

ヘルムとゴージットが一体化するなら髪が邪魔だろうとは思っていたけど、こういう構造だったんだね。

高めのポニーテールぐらいの位置で実際に髪を引っ張り出されてみれば、確かにスカルの落ち着きが良い。

エゼリアさんみたいに髪を編み込んで纏めている場合も、コウムの中へ収まる形に髪を纏めるんだって。

クワガタムシの顎みたいに開いていた 頬当て(ビーバー) を前合わせに閉じて金具で留めると、ゴージットの上部とヘルムの裾が噛み合って本当に合体した。

「「ほほーう」」

これがアーメットか。

指先で触って確認してみるけど、上を向いても横を向いても首に刃物が通るような隙間がない。

すごいね。めちゃめちゃ上手く出来た構造だよ。

なお、私たちがあちこちを向いて首の具合を確かめている間、すぐにバランスを崩してパタンと倒れそうになるからミセラさんとマーシュさんが肩を支えていてくれた。

さっき、ミセラさんたちはアーメットが「最後」と言っていたけど、本当の最後は 手甲(ガントレット) だね。

水仕事用のゴム手袋みたいな長さで手首から指先までを守るガントレットは、手のひらと指の腹の部分だけが装甲のない革手袋になっている。

両手にガントレットを装着したところで、 面頬(ベンテール) と 眉庇(バイザー) をガシャコンと下げられた。

「はい。完成です」

「おお~!」

「・・・うーん・・・」

ルナリアは喜んで体の動きを確かめ始めたけど、私は唸ってしまう。

「おかしなところや痛いところが有りましたか?」

「・・・いや。そういうわけじゃないんだけけど」

視界が狭い!

閉塞感がすごい!

ビニール袋を被って呼吸しているみたいで息苦しい!