作品タイトル不明
盟約 ②
「・・・うーん」
「どうしたのですか?」
私が唸っているとケイナちゃんにツッコまれた。
私たちに用意された甲冑は、首から頭部に掛けてを守るパーツが一体になる“アーメット”と呼ばれるタイプの兜になったもので、甲冑としては板金技術が進歩した全身甲冑時代後期のものだと思う。
面頬(ベンテール) と 眉庇(バイザー) を閉じると細いスリットから兜の外を覗くしかないから、視界は最悪と言って良いはずだ。
「・・・ああ、いや。視界が悪そうだなぁって」
「視界がどうした?」
ケイナちゃんに本音をポロリしていると、お母様に聞きつけられてしまった。
「・・・距離感が掴みにくそう?」
「ん? ああ。それは慣れるしかないな」
正直な感想を吐露すると、一瞬考えたお母様が「諦メロン」的な答えをくれた。
ここでも「考えるな。感じろ」的な脳筋理論だよ。
私も魔法を教えるときに全く同じことを言ってるからお母様を責められたものじゃないんだけど、視界が狭くて距離感が掴みづらいのは魔法術師にとって致命的じゃないのかな?
だって、銃弾だって魔法だって、敵にぶつける弾に質量が有る以上は重力を無視して一直線に飛んだりはしないんだからね。
山なりの弾道軌道で飛ぶんだから、距離感が掴めないと照準が合わなくて命中率が下がるに決まってる。
命中しなければ“数打ちゃ中る”で、弾数で補うか、諦めて肉弾戦に挑むしかなくなる。
ワナに嵌めてから安全に料理するスタイルの私が命中率を投げ棄てて肉弾戦を選ぶの?
自分の長所をスポイルして相手の土俵で戦うのは、私の戦略思想に合わないなぁ。
どうしたものかと悩んでいたら、仲良し姉妹のエゼリアさんがお母様に同調する。
「そうですね。顔に傷が付くよりはマシじゃないですか?」
「そうそう。多少の傷は回復薬で治るとはいえ、気分的にねぇ」
ディーナさんもエゼリアさんに同意する。
いや。それはおかしいでしょ。
どうにも論点がズレていて私の懸念が伝わっていない気がする。
「・・・死ぬよりも傷が付く方がマシじゃない?」
「そう言われれば、それもそうですね?」
おっ! さすがデキる女!
前言を撤回してエゼリアさんが理解を示してくれた。
しかし、女が10人以上も揃っていれば、そのままでは終わったりはしない。
反旗を掲げて抵抗を示したのは、お姉さんを戦死で失った経験が有るノイエラさんだ。
「え~? 綺麗な顔じゃないと見せらんないって、死んだときも棺の蓋を閉じちゃってて家族とお別れも出来ないんですよ?」
「あ~。あるある」
「それはさすがに切ないわよね」
「イリーナのときも、最後に顔を見てお別れを言えたのは良かったと思ったもの」
姉貴分の1人だったアンリカさんまで一緒になって、“顔だけは守れ派”を支持してしまった。
交通事故でも遺体の損壊が酷いと家族にも遺体を見せないって聞くものね。
あれって、家族のトラウマになるからって理由じゃなかったかな。
「・・・そういうものなんだ」
確かに家族と最後のお別れも出来ないのは、送り出す側でも送り出される側でも切ないの分かる。
私はまだ、そういう場面を経験していないけど、心情は理解できる。
理解はできるけど私の悩みは何の解決も見ていないよね?
お気楽な感じにディーナさんがヘラッと笑う。
「まあ、怪我をせず、死ななきゃ良いんですよ」
「“殺られる前に殺る”のが鉄則ですしね」
今度はエゼリアさんがウンウンとディーナさんに同調する。
この仲良し姉妹どもめ。
「・・・そうできれば良いけど、私が慣れるまで敵は待ってくれないんじゃ?」
「「「「「そこは気合いで」」」」」
ああ、ハイ。グダグダ言わずに、やれと。
慣れるまで兜を被って過ごすかなぁ。
往年のスケバンな刑事さんみたいになりそうだけど、仕方ないか。
見かねたらしいお母様がヒラヒラと手を振る。
「良いから着てみろ。話が前へ進まん」
「・・・はーい」
返事を返しつつルナリアはどうしているのかと見てみれば、ミセラさんの手で下着姿に剥かれて、分厚いキルティング生地のスウェットみたいな上下を着せられている。
あれが 鎧下(ギャンベゾン) だよね。
アンリカさんが指されたときに、血でボトボトに濡れていた服だ。
甲冑というものは、お母様のサーベルみたいに特殊な斬撃でもなければ、そうそう斬られたりしない。
私の風ジェットカッターでだって、スッパリとは斬れないものだ。
斬れなくても打撃として衝撃は加わるから、受けた衝撃を逃がすクッションのようなもので怪我を防ぐ必要が有る。
それが“着るお布団”の鎧下なんだよ。
あれって中綿入りで暑いそうなんだよね。
薄手だとはいえお布団を着て命懸けの全身運動をするんだから、暑くないわけがない。
汗を吸うから、夏場は特に、ものすごく臭うらしいよ。
中綿が入ったお布団なんて簡単に水洗いできないし、汗で濡れてもなかなか乾かないのは目に見えている。
雑菌だらけになるんだろうから、そりゃあ臭うだろう。
そして、そのニオイの元と一緒に狭っ苦しい甲冑の中へ梱包されちゃうわけだ。