作品タイトル不明
精霊種 ㊿
「必要性は分かったけれど、少しお待ちなさいな。ここのところ忙しくしていたから伝えていなかったのだけれど、またカリーク公王国に動きが有ります」
はぁっ!?
何で!? どういうこと!?
「えっ! また!?」
「・・・前回の侵攻から、2ヶ月しか経っていませんよ?」
私よりも早く目を剥いたルナリアが声を上げた。
ルナリアが大きな声を上げたことで食堂にいるみんなの視線を集めたけど、今はそれどころじゃない。
シェリアお婆様が面倒くさそうに首を振る。
「まだ終わっていなかったということでしょうね。前回が3万の兵力を送ってきて蹴散らされましたから、今度はさらに増強してくる恐れが有りますよ」
「・・・これほど短期間に再び挙兵するなんて、兵士だけでなく、国民にも貴族にも負担が大きくは有りませんか?」
本気で頭おかしいんじゃないの?
セリーナお婆様も鬱陶しそうに溜息を吐く。
「当然、大きいわね。それだけ採掘場周辺の領有宣言が気に入らなかったのでしょうし、本気で奪い取りたいのでしょうよ」
「・・・そこへ追い打ちを掛けるように渡河地点周辺の領有宣言ですか。煽っているようにしか思えないでしょうね」
うーん・・・。
もう終わったと思ってたし、常に戦争を想定して準備を整えているウォーレス領以外が、頻繁に軍隊を動かせるとは思っていなかったなぁ。
向こうにとっては、2ヶ月前の敗戦が想定外に早く蹴散らされただけで、元々出すつもりだった兵力を遅れ馳せで出してくるだけなのか。
「そうでしょうね。増援のつもりで準備していた兵力だったのかも知れないけれど、ただでさえ第2陣の出兵準備を進めているところへ煽られれば、向こうも引っ込みが付かないでしょう。逆上して兵力を上乗せしてくる可能性が高いと判断しているわ」
「・・・それで、ずっとお父様もお爺様たちもお忙しそうなのですね」
戦後処理にしては長く掛かってるな、とは思っていたけど、お父様たちはお代わりが来ると想定して次の準備に取り掛かっていたのか。
んん? でもちょっとおかしくない?
それって戦力の逐次投入で、戦力を分散する意味が有ったようには思えないよね。
前回が3万で今度も同程度だとしてもトータル6万だ。
3万と6万では防衛側に掛けられるプレッシャーは雲泥の差だろうし、ウォーレス領側の戦術も変わったはず。
「・・・カリーク公王国は、どうして戦力を分けるような真似をしたのでしょう?」
「時間が無かったのでしょうね。動員した全ての兵力が集結し終わるまで待っていては、採掘場の守りが堅固になってしまうと考えたのだと思いますよ」
「・・・ははぁ。なるほど」
よほど領有宣言が想定外だったのかな?
まあ、森の開拓成功は1000年振りだとかって話も聞いた気がするしね。
しかも、自分たちの先祖が失敗して恥をかいたものを、仇敵に成功されると面子が丸潰れだから焦ったのかも。
準備も整っていないのに強引に攻め込んだ末に返り討ちに遭わされて、歯噛みしているところを嘲笑うように領有宣言のお代わりが来ると。
こっちに煽ったつもりはなくても、向こうは煽られたようにしか見えないだろうね。
さらに3度目のお代わりがすぐに来るんだけど、頭に血が上って脳溢血か何かで丸ごと滅んでくれないかな。
シェリアお婆様が真面目な表情でルナリアと私の顔を見比べる。
「実態がどうあれ、貴女たちは当代ですからね。旗印が戦場へ出ないわけにも行きませんから、覚悟はしておきなさい」
「「はい」」
声を揃えて返事する。
ルナリアが戦場に立つなら、当然、私もルナリアの隣に立つし、どこの誰が相手だろうとルナリアには指1本触れさせない。
ルナリアの立場を聞いたときから心に決めていたことだ。
自分が本格的な戦場へ立つことに、私の心には驚きもなければ動揺もない。
攻めてくる敵に手加減をする気もなければ、敵の命を奪うことにも迷いはない。
やるべきことをやるべきときが来たってだけだ。
いや。「殺るべき」かな?
どっちでも良いや。
私が決意を固め直していると、ルナリアがコテッと首を傾げる。
「ねえ、お婆様。わたしの甲冑って有るの?」
「用意してあるわ。微調整が必要だから領主館へ帰ったら着てみなさいな」
「はい!」
とっくに覚悟が出来ていたのはお母様に憧れを持っていたルナリアも同じで、キラッキラな笑顔で頷いている。
もう、キラッキラだよ。キラッキラ。
ルナリアはご褒美に剣をくれって王様に要求しちゃう子だしね。
喜んでいるルナリアの姿にホッコリしていると、セリーナお婆様の目が私へ向いた。
「フィオレの分も用意してありますから、貴女も合わせてみなさい」
「・・・あ。はい」
へー。セリーナお婆様が―――、いや。セリーナお婆様とシェリアお婆様の2人で用意してくれたものなのか。
セリーナお婆様は、他所から来た私もいつ孫のルナリアと同等に扱ってくれる。
それを言ったらシェリアお婆様もだけど。
本当に有り難いことだね。
私の中身が秘密になっていなければ、両手を合わせて「ありがたや~」と拝んでいるところだよ。
私を見つめているセリーナお婆様が、ルナリアとそっくりな仕草でコテッと首を傾げた。
「反応が薄いわね」
「・・・私は魔法術師ですし、私が甲冑を着ても意味が有るのかな? と」
嬉しくないわけじゃないけど、私の「こう有るべし」という基準はお母様だからね。
お手本で言えばエゼリアさんたちも居るんだけど、やっぱり私にとってのお手本はお母様だ。
「分かっているとは思うけれど、甲冑は生存率を引き上げるためのものよ?」
「・・・もちろん、分かってはいるのですが・・・」
言葉を濁す私をジーッと見ていたシェリアお婆様がポンと手を打った。
「フレイアも甲冑を着ないけれど、あの子は剣の腕も確かだし、特別ですからね?」
「・・・ですよね」
お母様は甲冑ごと両断できるサーベルを愛用しているし、剣を使わせても強い。
私にお母様と同じことが出来るとも思わないし、私は剣や槍の代わりに魔力の手を使うことになるだろう。
魔力制御は認識に―――、というか、視覚に依存するところが多いしなぁ。
そうすると、視界が妨げられる方が問題じゃないかな。
そうは言っても、私には全身甲冑を着た経験なんて無いしなぁ。
一度着てみて、お母様に相談して決めよう。