軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊種 ㊾

「・・・採掘場と渡河地点、ついでに“嘆きの祠”とも街道で繋ぎたいと考えていまして」

「渡河地点までは、すでに街道を付けたのだったわね」

おや? 構想をぶつけてみれば、お婆様たちの反応は言下に却下するものじゃなかった。

許可を貰える可能性が有るなら、話すだけ話してみるかな。

エサを投げ入れらた池の鯉みたいに慌てて食い付くとまた却下されるかも知れないから、結論を急がず、慎重に現状認識の摺り合わせから始めてみよう。

「・・・はい。想定していたのが騎馬の使用で、防衛拠点までの往復が出来れば良いと考えていましたから、通常の街道に較べて道幅が半分ほどしか無いのですけど、道を付けるだけは付けて来ました」

「ウォーレス領内の街道は軍事目的だから街道の規格が他所とは違うのよ?」

街道の規格か。

セリーナお婆様の指摘に記憶を探る。

日本でも道路に規格が有ったし、電車の軌道にだって規格が有ったよね。

お母様たちが王都へ向けて出陣したときにも、場所によって道幅が違うから、道幅が狭い区間では、輜重部隊まで含めた隊列が50キロメートルぐらいまで伸びることが有るって聞いたっけ。

領地内の街道整備は各領主の責任で行う公共事業で、公共事業を行うにもおカネが要る。

空からおカネが降ってきたり地面から生えてきたりはしないのだから、投資に対する事業の採算性は無視できないものだし、街道を整備しただけで投資したおカネを回収できるわけでもない。

用がなければ街道を通る商人もいないからね。

そんな事業には、おカネを掛けないんだろう。

利益を出せる産業を持たない領地は街道整備に回せるおカネも無いし、近隣の領地も同じように儲かる産業を持っていないのなら、地域的に道幅が狭いのも頷ける。

「・・・そう言えば、王都までの道中も道幅の狭い街道は多かったかも知れません」

「道幅などは、追々広げていけば構わないのですよ」

「そもそも、必要のない場所に街道を引く意味も有りませんからね」

シェリアお婆様もセリーナお婆様も別々のことを言っているようで、言っていることの本質は同じだ。

投資の必要性と回収の見込み。

それが分かっていながらダンジョン間に街道を引く理由を述べよ、と?

早くも勝負所だね。

「・・・エルフ族が塩を採取している塩湖が“嘆きの祠”から近いんじゃないかと」

「貴女、“嘆きの祠”やその塩湖まで取り込む気?」

呆れた表情でセリーナお婆様が首を傾げた。

私の念頭に3度目の領有宣言が有ることを見抜かれているね。

でも、私は資源だけを見ているわけじゃない。

「・・・通信の魔法道具に死霊系の魔石が必要なのですよ。魔法道具の量産にあの迷宮は必須です。もしかすると、ヒト族との距離を取りたがるエルフ族が居るかも知れませんし」

「ふむ? エルフ族の集落がウォーレス領内なら保護下に置きやすい、ということかしら」

ヨシ。さすがセリーナお婆様。

私の言いたいことを分かってくれた。

資源確保も重要だけど、技術の囲い込みも重要だからね。

エルフ族の存在が他領に知られれば、ちょっかいを出しに行く貴族は絶対に現れる。

私だって囲い込みは考えているけど、根底の考え方に違いが有る。

エルフ族を一発逆転の奇貨としたいだけなのか、保護した上で副次的に技術の恩恵が受けられれば良いなと考える程度かだ。

エルフ族が技術の提供をしなかったとしても、始祖レティア卿がエルフ族と結んでいた友好関係を忘れていないウォーレス家は、エルフ族との関係を重視する。

その1点において、他の貴族とウォーレス家には決定的な違いが有る。

だから心情的な部分を刺激する。

「・・・私たちの同胞には、どこの誰にも手出しさせません」

「そうね! わたしたちが守るわ!」

すでにケイナちゃんを友だち認定しているルナリアの支援も受けて、私も目力に固い意志を籠める。

とはいえ、心情に訴えるだけでお婆様たちを説得できるなんて甘くは考えていないよ。

「国内貴族に対する牽制も確かに必要ね。渡河地点と“嘆きの祠”を繋ぐ意図は何なのかしら」

全てを見通そうとするような目をセリーナお婆様が向けてくる。

ほらね。

セリーナお婆様は必要性の一部を認めてくれたけど、心情面だけでは、お婆様たちの協力を得るにはまだ説得力が足りていない。

実利と運用面の実現性が伴わないと、お婆様たちは頷いてくれない。

でも、もう一押しだ。

「・・・複数の砦を築いての防衛網と同じです。相互に駆けつけられる街道が有れば、各迷宮に置く防衛戦力が少なくても防衛網は成立します。防衛圏内に塩湖とエルフ族の集落が入るかなんて誤差の範囲でしょう」

網の目のような複数の防衛拠点で相互防衛態勢を築くのは、現代地球の技術で言えば“メッシュWi-fi”のようなものだ。

必要に応じて防衛拠点同士が助け合うことで必要な防衛戦力を捻出する。

各拠点に置く戦力は少なくても構わない。

応援戦力は敵の背後から襲い掛かる形になるし、攪乱効果も期待できるんじゃないかな。

現状は騎馬部隊でのシステム構築が前提だけど、レイクスさんたちが自動車を開発してくれれば機動力が今まで以上に引き上がるから、対応速度で敵の予想を上回ることで防衛力や守備範囲はさらに倍率ドンだよ。

「実効性は有るでしょう。ただ、街道の整備には時間も人手も必要になります。フィオレ。貴女、自分がやれば良いと考えているのではないでしょうね?」

「・・・決してそういうわけでは・・・」

手厳しいなぁ。

シェリアお婆様の指摘に私の勢いが鈍る。

否定はしたけど、心のどこかに「自分がやれば」という考えが全くないとは言い切れない。

日本社会でも、企業の実務担当者や零細企業の社長さんが「自分がやれば」で穴埋めできると考えてしまうことで、一部の人に負担が掛かったり休めなくなったりすることは多いと聞いていた。

営業先の小さな会社の社長さんが「社長が一番のハードワーク」と言っていて、私は「へー。そうなんだ?」としか思っていなかったし、私のようなダメ社員は、そこまでの自己犠牲精神を持ち合わせて居なかったけどね。

正直、今の私の現状は、それに近いんじゃないかと思う部分は有る。

私がやりたくてやっていることだから、負担が掛かったとしても私自身に不満はないんだけど、お婆様の目から見ても、私が「自分がやれば」と考えているように見えているんじゃないかな。

仕方なさそうに小さく溜息を吐いたセリーナお婆様が、ここで爆弾を投下してきた。