軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊種 ㊼

経過がゆっくりだから分かりにくいけど、現実はフィクションみたいに、「問題が起こったけど、こうして、こうしたら、こうなって解決しました~!」なんてお手軽には進まない。

1つ1つの事柄には時間経過が必要で、対策を講じれば別の問題が表面化してまた対策を講じてバランスが取れるまで微調整しないと、どこかに無理が出るのが改革というものだからね。

基礎研究や改善点の洗い出しだって一足跳びには進まないものだし、何をするにも時間が掛かる。

焦っちゃダメだ。

大丈夫。私はちゃんと1歩ずつ前へ進めている。

ダンジョン研究と魔獣狩りは、テツさんたちのスケジュールに合わせて同行させて貰えば効率的だよね。

何より、この2つは移動にも時間が掛かるから、そうそう簡単には進められない。

交通インフラの構築には時間だけじゃなく人手とおカネが必要になるし、 方位針(コンパス) すら持たない私たちが、見通しが利かない森の中で拠点と拠点を繋ぐ道路予定地のロープを真っ直ぐに張るだけでも簡単なことじゃない。

おカネは魔法でケチることは出来ても、伐った木の運搬だって必要な人手を魔法で埋めることは難しい。

ただまあ、交通インフラはレイクスさんたちの自動車開発次第かなぁ。

利益や投資の回収を見込めるなら、無理を押してでも新しい道路を整備する価値は有る。

聞いた感じ、塩湖の場所は死霊系ダンジョンからそう遠くないはずだから、交通網に組み込んでも採算は取れる可能性は有るもの。

そう考えると、やる意味は有りそうなんだよね。

おや? なんか視界が揺れてる気がするな。地震?

「―――オレ! フィオレってば!」

「・・・ハッ! ―――、何? 何か有った?」

耳元で聞こえるルナリアの声に気付いて私の意識が覚醒する。

視界が揺れていたのは地震が起こったわけじゃなく、肩を揺すられていたせいらしい。

ルナリアにガシッと手を取られた。

「下へ下りるわよ!」

「・・・えっ? もう観察しないの?」

訊き返せばルナリアは囲いの底を指さす。

「まだ続けるの?」

「・・・あれ? 光の粒が無い・・・」

ルナリアが指した先を覗き込めば、照らす角度が変わった月光の下で、明らかに人口密度―――、いや。シカ口密度を上げたシカたちが彷徨いている。

どのくらい密度が変わっているかといえば、閑散時と通勤通学ラッシュ時の駅前ぐらいの変化かな。

そして、埃が舞うようにフワフワと宙を漂っていた光の粒が、どこにも見当たらない。

「数が段々減って消えたのよ。もう終わったみたいだし観察を続けても仕方ないでしょ」

「・・・そっか。そうだねぇ」

光の粒が消え去って変化が無くなったなら、今日の分裂増殖は終了したと判断するのも当然だろう。

観察目的が達せられたのなら、屋外に留まる意味もない。

ルナリアとミセラさんたち以外、キャットウォーク上に人影が残っていないのは、そのせいか。

お客様扱いのレイクスさんたちが優先だから、いつ戻ってくるか分からない私が置いて行かれたのも仕方ないね。

「体が冷えただろうから、食堂でお茶を飲んで温まったら少し睡眠を取ろうって。声を掛けても戻って来ないから、みんな先に下りちゃったわよ」

「・・・アッ。ハイ」

ミセラさんたちが護衛に就いているし、いつものことだから問題なし、ってことで放って行かれたんだろう。

面倒見の良いルナリアは、私が思考の淵から戻ってくるまで残っていてくれたんだね。

「ほら! 下りるわよ!」

「・・・うん」

ルナリアに手を引かれて、ミセラさんが光の術式を浮かべてくれた明かりに照らし出された階段を下りる。

食堂へ入ると適当にバラけて席に着いたみんなが、湯気の立つお茶をちびちび飲んで寛いでいた。

私たちの姿を見付けたセリーナお婆様が手招きしている。

「やっと来たわね」

「・・・すみません」

仕方ないな、という表情で苦笑された。

「こっちに座りなさい」

「・・・あ。はい」

シェリアお婆様に勧められて、テーブルを挟んだお婆様たちの向かい側へルナリアと2人で腰を下ろす。

「で? 何を考え込んでいたのかしら」

セリーナお婆様が獲物を見付けた猫のような目を向けてきて、思わず私の背筋が伸びる。

久しぶりだな。この感じ。

隠すようなことではない、というか、また仮説の段階だけどお婆様たちには聞いておいて貰った方が良いね。

「・・・レイクスさんたちとも話していたのですが、採掘場が迷宮化しているのは間違いなさそうだと結論しまして、もしもそれが正しいのだとすれば、渡河地点の迷宮のように干渉が―――、岩塩の採掘が出来なくなるのではないかと危惧しました」

“獰猛くん2号”の制御を奪われてダンジョンの一部になってしまった件は、ちゃんと報告書に書いたからお婆様たちも知っている。

問題意識の共有は、次の行動を―――、問題への対処を取る場合の反応速度に直結するものだからね。

事前に心の準備が出来ていれば、イレギュラーが発生した際にも慌てふためかずに済む。

私の懸念にセリーナお婆様の目が真剣味を帯びて鋭くなった。

「それは問題ね」

「何をもって迷宮化が間違いないと判断したのですか?」

シェリアお婆様に根拠を問われて一瞬迷ったけど、お婆様は言い触らしたり悪用を考えたりする人ではないから情報を共有することにする。