作品タイトル不明
精霊種 ㊻
「そうなんだって。テツ」
「何で俺に言うんだよ」
レイクスさんの視線を受け止めたテツさんが首を傾げる。
これは「行きたい」って要求かな?
「興味あるなぁ、と思って」
「分かった分かった。すでに依頼は受け付けたとドネルクが言ってたし、王都へ戻れば俺たちに依頼が回って来るだろうよ」
やっぱり、そうだったか。
テツさんも要求に気付いたみたいでパタパタと手のひらを振る。
「迷宮がどういうものなのか、複数の迷宮を調べれば、この採掘場の見通しも立つんじゃないかな」
「そりゃまあ、サンプル数が多い方が仮説も立てやすいだろうよ」
それ、大事。レイクスさんはよく分かってくれている。
シカの出荷・回収量はウォーレス領とピーシス領の台所事情を直撃するからね。
いや。本当に分かってくれてる? レイクスさんが首を傾げている。
「さんぷる?」
「見本って意味だ」
「みほん?」
「え~っと・・・。他に何て説明すりゃ良いんだ?」
何で私に救援を求める目を向けてくるの? まあ、良いけど。
「・・・標本ですよ」
「ああ。そうなんだね」
外国人との言語コミュニケーションの壁は、お互いに単語や意味を覚えていけば、そのうち解消されるものだから、頑張って貰おう。
そんなことよりもだ。
「・・・この採掘場はウォーレス領の重要な財源なんです。政治的な交渉の強力な手札でも有ります。採掘場の迷宮化が本格的に進んで渡河地点の迷宮みたいに干渉できなくなると、岩塩の採掘が出来なくなって、もの凄く大きな悪影響になりますから、他の迷宮との違いや対処方法は研究しておきたいです」
私の懸念を言葉にすれば、テツさんもレイクスさんも頷いてくれた。
「そりゃあ大問題だな」
「確かに大変だ。僕も解明に協力するよ」
「・・・お願いします」
何としても乗り越えなきゃいけないハードルの存在を知ってしまったからには、私も本気で取り掛からなきゃいけなくなった。
お塩の採掘が出来なくなったら本格的に困る。
今後の計画にメチャクチャ影響するからね。
お塩が取れなくなってもお肉は獲れ続けるのだろうし最低限の安心感は有る。
塩湖の情報もレイクスさんたちから貰ったしね。
だからと言って、看過できる問題じゃない。
採掘場がどれほどウォーレス領にとって重要なものになっているかを再確認してしまった限りは、何としてもダンジョン化の対処法だけは見つけ出さなきゃ。
私も死霊系のダンジョンや渡河地点のダンジョンへ通わなきゃダメだな。
かと言って、何日もレティアの町から離れて活動するのは他の計画に支障が出ちゃう。
フラフラと出掛けてばかりだと心証も良くないだろう。
またお行儀が悪いお隣さんが攻めて来たりすればレティアの町から離れられなくなるしね。
家族の理解と協力を得られなきゃ、逆に出来ることの幅を狭めることになっちゃう。
「・・・むむ」
でも、今すぐに解決策が出て来るようなものじゃないよね。
私の体が2つも3つも有れば何の問題もないだろうけど、私はプラナリアじゃないし私自身が分裂するのは違うだろう。
私という意識が1つのものだから効率的に思考できているので有って、私の意識が別々の複数体に分裂してしまっては私を並べて私会議を開かなきゃいけなくなっちゃう。
いやいや、そうじゃない。
どうでも良い仮定の話じゃなく、もっと現実的に考えなきゃ。
日本に居た頃は打ち合わせて1日に何ヶ所も回ることが日常的に有ったし、距離的、時間的な問題なんて、それほど感じることはなかった。
電話やメールの存在は大きかったし、20キロメートルや30キロメートルの距離なんて、移動するのに1時間も掛からなかったもの。
そう考えると、本当に日本って便利な社会だったんだな。
交通インフラの問題は大きいよね。
死霊系のダンジョンも渡河地点のダンジョンも、物理的な距離では数十キロメートル圏内でしょ。
日本の感覚だと、3ヶ所の観測を毎日巡回して比較・検証することだって可能な距離だよ。
それぞれを直線道路で繋げば多少の移動時間短縮はできるよね?
でも、直線道路で採掘場と渡河地点のダンジョンを直線道路で繋ぐ案は、そんな余裕はないって却下されちゃったし。別の方法を考えるにも、問題点の整理から始めないとダメだな。
今後、私が進めなきゃいけないタスクは、学校建設と農地開拓と農作物研究と魔法道具研究と遠征軍創設?
ここにダンジョン研究が加わるのか。
東部から北部の森へ遠征して強い魔獣も狩りたいしなあ。
間諜ネットワークの構築も必要だよね。
そっちは放っておいてもミセラさんたちが構築してるっぽいし、意向だけ伝えれば大丈夫な気がする。
お塩とお肉の産業化は順調だし、輸送ギルドはお婆様たちがすでに進めてくれている。
学校建設は用地確保が終わりつつ有るし、建物を建ててしまえばエルザさんに丸投げでイケるはず。
農地開拓は農家さんたちが頑張ってくれているし、農作物研究は農地が広がってからが本番だ。
ディディエさんたちに任せようと考えているし、この方向で進めよう。
魔法道具研究はレイクスさんたちが手伝ってくれるから経過観察だね。
遠征軍は領民強化計画ともリンクしているし、ピーシスガード創設のノウハウから援用できる部分が多々有る。
おや? こうして並べてみると、意外と上手く進んでる?