作品タイトル不明
プリンセス強襲 ⑰
手っ取り早く体力を付けるなら、「アレ」が一番なんじゃないかな。
栄養価が高くて、痩せ細った私の体を丈夫に戻した実績と信頼がある「アレ」が欲しい。
今は大変な事件が起こっている真っ最中だし、叱られるかな?
「・・・お師様」
「何だ?」
「・・・森へ行きたい」
テレサを撫でまわしていた、お師様の手が止まる。
ルナリアが血相を変えた。
「ちょっと! フィオレ!?」
「何をしに行くつもりだ?」
「・・・猟」
ルナリアの肩の力が抜ける。
「そ、そうなのね! 訓練が嫌になって森へ帰っちゃうわけじゃないのね!?」
「・・・ルナリア、大袈裟じゃない?」
「だって、急に消えちゃいそうなんだもの」
「・・・消えそうって」
苦笑が漏れた。私は、そんなふうに思われていたのか。
一宿一飯の恩義、じゃないけれど、大事に扱ってもらっているのに、恩知らずな真似はしないよ。
お師様の左手が、がっしりとルナリアの頭を鷲掴みにする。
「ルナリア。少し黙っていろ」
「あっ! い、痛いわ! 痛たたたたっ!」
じろりと睨まれて、私の背筋が伸びる。
「今が戦時下だと分かっていて言っているのか?」
「・・・分かってる。だからこそ、少しでも早く体力を付けたい」
叱られるかな、とは思っていたけれど、静かに睨み据えられると、怒鳴りつけられるよりも怖いかも。
でも、引けない。
じっとお師様の目を見つめ返す。
私の目に確たる意思を感じ取ったのか、お師様の目が少し和らいだ。
「説明しろ。話が見えん」
「・・・血が欲しい。早く体力を付けるなら、アレが一番だと思うから」
騎士様たちがざわつく。
「あの・・・。ピーシス卿、この子は吸血種ではないのですよね?」
「普通のヒト族だ。話が進まんから、お前たちも黙っていろ」
お師様に睨まれた騎士様たちが首を竦める。
吸血種? 吸血鬼みたいなやつのことかな?
ドラゴンが居る世界なら、吸血鬼が居てもおかしくはないのかな。
ややこしくて、ごめんね。
騎士様たちを黙らせたお師様が、呆れた様子で私を見る。
「血だと? どういうことだ?」
「・・・栄養価が高いから。私が半年間でいくらか体が丈夫になったのは、血のお陰」
確か、森での生活を話した時に、ちゃんと話したよね?
ぱちぱちと何度か瞬きしたお師様も、記憶に思い当たったみたい。
僅かに眉根を寄せて首を傾げる。
「メシをしっかり食えば良いんじゃないのか?」
「・・・ん・・・そうなんだけど。・・・少し違うかも?」
ごはんをしっかりと食べても普通に成長して体力は付くんだろうけれど、血を飲んで体が丈夫になった気がするアレは、ちょっと違う感じだと思うんだよね。
どうやって、あの違いを説明すればいいものか。私の首もお師様と同じ方向へ傾ぐ。
「なんだ。お前自身もよく分かっていないのか?」
「・・・どう説明すればいいかが、よく分からない」
なに言ってんだろコイツ? って思うよね。
どうしたものかと思案していたら、いつの間にか現れていたエゼリアさんが挙手した。
「フレイア様。発言、よろしいでしょうか」
「構わん」
「フィオレ様が猟へ行きたいと仰るのであれば、私たちが随伴いたします」
「お任せください!」
こちらも、いつの間にか現れていたディーナさんが、グッと握りしめた拳を示す。
不審者はぶん殴るって意思表明かな?
エゼリアさんたちって足音がしないから、神出鬼没なんだよね。
「お前たちはルナリアと殿下の護衛も有るだろうが」
「フィオレが行くなら、わたしも行くわ!」
「お二人が行くなら、わたくしも行きたいですわ」
即座に手を挙げたルナリアに、目が笑っているテレサが同調する。
ルナリアたちを見て溜息を吐いたお師様が、エゼリアさんたちをジト目で睨む。
「お前たち。何が目的だ?」
「フィオレ様が、なかなかにエグい罠を使っていらっしゃったと聞きまして」
「そうそう! 教わりたいです!」
にっこりと笑うエゼリアさんに、楽しむ気マンマンに見えるディーナさんが同意する。
「ああ。あれか」
「騎士や兵士の間で噂になってるんですよ。女子供でも敵兵を倒せるって」
「それほどに優れた技術であれば、誰かが教わって領内で広めるべきではないかと」
「これから本格的な戦争が始まろうとしているのに、今でなくとも良かろう?」
女子供に広めることは否定しないんだ・・・。
「何を仰いますか。戦時だからです」
エゼリアさんが首を振る。
「御当主様は1万騎と輜重を出されるとか? 携行食の増産が必要になりますね。“融和派”の横槍で戦が長引く可能性もゼロではありませんから、備えておくべきだと考えます」
「むう・・・」
エゼリアさんの指摘にお師様が顔を顰める。
思い出した! みたいな、わざとらしい笑顔で、ポンと手を叩く。
「あっ。今回の派兵で、フレイア様お一人で全部買い取られた干し肉も無くなるのでは? 随分とお気に召していらっしゃったご様子ですが」
「うっ」
「美味しい携行食が回って来なくなった騎士たちが恨み言を言っていましたけど、どうします?」
「ぐっ」
ニコニコと笑いながら追撃に追撃を重ねられ、お師様が両手を挙げる。
「分かった、分かった」
驚いたことに、お師様の方が折れた。
エゼリアさんたちスゴイ! って、感心しちゃった。
首を振ったお師様が、テレサを見る。
「殿下も、行くつもりなら、先ずはべルーサー殿と相談しろ」
「承知しましたわ」
テレサから返った返事に頷いて、お師様が私を見る。
「どの程度の時間と範囲を考えているか、計画を纏めて報告に来い。騎士団が護衛部隊を編成するための情報が必要だ」
「・・・分かった」
お師様の了解が得られたら私一人で行っても良いかと考えていたけれど、ルナリアだけじゃなくテレサまで付いてくるなら、大所帯になりそうだよね。
エゼリアさんたちに、ぺこりと頭を下げる。
「・・・お手数をお掛けします」
「なに言ってるんですか。水臭い」
「罠に興味が有るのも本当ですからね」
すごいなあ。ハインズ様たちを丸め込むお師様も凄いけれど、お師様を平然と丸め込むエゼリアさんたちも凄い。
ウォーレスの女性は本当に強い。
「フレイア様。訓練は終了ですか?」
「ああ。三人とも疲労しているからな。休息も取らねば体の成長に障る」
「では、失礼して」
「ちょっ! あなたたち!」
「湯あみしましょうね。髪まで汗だくの土塗れではありませんか」
「あらあら」
お師様の返事を聞くが早いか、ルナリアと私はディーナさんの小脇に抱えられ、テレサはエゼリアさんの小脇に抱えられた。
「・・・うーん。毎回、こんな感じかあ」
バスルームへと持ち込まれた私たちは頭の天辺から爪先まで洗浄され、ルナリアの部屋のベッドへと放り込まれたら、余程疲れていたのか、すぐに眠りへ落ちてしまった。