軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プリンセス強襲 ⑯

あ・・・。いい匂い。

「お疲れさん。よく頑張ったな」

「・・・はあっ・・・はあっ・・・お、・・・おし・・・さま・・・?」

「今日が最初の基礎訓練とはいえ、お前、体力無いなあ」

汗だくの頭をぐりぐりと撫でられているうちに、景色が輪郭を取り戻し始める。

この匂い、お師様の匂いか。

「・・・はっ・・・はっ・・・はっ・・・ごめ・・・んな・・・さい・・・」

「叱っているわけじゃない。殿下とルナリアも、へばっているしな」

お師様に肩を抱かれて支えられながら、促されて見ると、テレサは地べたに座り込んで項垂れていて、ルナリアは大の字になってダウンしている。

「・・・あれ? 二人とも、どうしたの・・・?」

私を引き離して走って行く後ろ姿は、まだまだ体力が有りそうな雰囲気に見えたんだけれど、疲労困憊の私と同じぐらい疲れているように見える。

「あっちは魔力枯渇による疲労だな。走る作業に気を取られて魔力の消費効率が悪くなると、ああなる」

「・・・消費効率」

脇に手を差し込まれてヒョイと持ち上げられた私は、テレサたちの傍へと移設された。

脱力して、びろーんと長く伸びた猫のようになった私は、無抵抗で持ち運ばれている。

荷物のような扱いだけれど、疲れすぎていて今日は驚く気力も残っていない。

「子供のうちは、まだ体内の魔力保有量が少ない。体が成長すれば魔力保有量も多少は勝手に増えるから、そのうち小さな術式行使ぐらいで魔力枯渇に陥ることは無くなるだろうが、だからこそ、魔力保有量が少ないうちに、より消費量が少ない効率的な魔力の使い方を体で覚えておくんだ」

項垂れていたテレサが、のっそりと疲れた顔を上げる。

「走りながら魔法術式を使うことには、どんな意味が?」

「高難易度の術式は、例外なく複合術式だからだ。高度な術式や大きな術式を行使できるようになりたければ、複数のことを同時に出来るようになれ」

テレサの表情が理解の色を帯びる。

高度な、は、分かる気がするけれど、大きな術式も?

蛍の群れのような光の粒が舞う光景が、再び私の脳裏に思い出された。

ばらばらだったパズルの 欠片(ピース) が繋がって絵柄が見え始めたように、話が繋がった。

「・・・あっ。消費効率」

私の口をついて出た言葉に、お師様が小さく首を傾げる。

「何がだ?」

「・・・お師様が光魔法を使ったときに、小さな光をたくさん出した理由。なんでかな?って思ってた」

現代日本の照明器具が小さな白色LEDを寄せ合わせているのは、確か、一つの大きなLEDを光らせるよりも、小さなLEDをいくつも寄せ合わせたほうが、発光効率が良いからじゃなかったかな。

目を丸くしたお師様が、ニッと笑う。

「よく気付いたな。広い場所を明るく照らすには、あの方が魔力の消費効率が良いんだ」

わしゃわしゃと頭を搔き混ぜられた。これ、ぐりぐりの上位版かな?

「魔法術式で大きな効果を得るには、一つの大きな術式に多くの魔力を注ぎ込むのではなく、複数の小さな術式を同時に行使した方が、少ない魔力で、より大きな効果を得られる場合が有る。大きな術式の場合も、違う効果の術式を併用しないと、術式そのものを維持できない場合が多々ある」

「・・・だから、複数の魔法を同時に使えるようにならないといけない?」

「その通りだ。今は難しくとも、出来る事を少しずつ増やしていけ」

「・・・分かった。がんばる」

いくらか魔力枯渇から復活して体を起こしたルナリアも納得した顔をしているけれど、ルナリアは今までもお師様から教わっていただろうに。

もしかして、お師様から言われるがままに、ひたすら頑張るだけで、一つひとつの意味を考えていなかったのかな?

お師様も訊かなきゃ、いちいち細かい説明をしないみたいだし、ルナリアは脳筋一族の末裔だから、有り得そうだよね。

「私も、頑張りますわ」

「わたしも頑張るわ!」

「おう。日々の鍛錬を怠るな」

テレサもやる気みたいだし、ルナリアと纏めてお師様は二人を撫で繰り回している。

最初は不敬だと、テレサを撫でるお師様に眦を吊り上げていた騎士様たちも諦め顔だ。

お師様って騎士様たちからは怖がられているみたいだけれど、ほんと、子供好きだよね。

敵に対しては苛烈だけれど、何事に対しても徹底的なだけで、とても暖かい人だ。

私みたいな怪しい子供でさえ大事に扱って貰っている自覚が有るし、お師様には恥をかかせたくない。

テレサやルナリアが直面している体内の魔力保有量というハードルは、体の成長とともに時間が解決するらしいけれど、じゃあ、私が直面している基礎体力のハードルは?

体が成長すれば私が抱えている問題も、きっと解決するのだろうけれど、消費魔力を抑える訓練は今すぐにでも始められる。

体力が無い私は、二人から遅れて置いて行かれない?

私に求められている水準はお師様レベルにまで成長することだろうから、このまま悠長に体の成長を待っていては、お師様の期待を裏切ってしまうんじゃないだろうか。

嫌だ。それは、絶対に嫌だ。

私に居場所をくれた、この暖かい人たちの期待を裏切りたくない。

何もせずに待っているなんて出来ないよ。

問題は体力の無さなんだよね?

今の私に出来ること・・・。

考えるまでも無く、私の中では答えが出ているんだけどね。