軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プリンセス強襲 ⑩

「フィオレ。“ 火(フィア) ”の術式を使ってみろ」

「・・・はい」

今は魔石が手元に無いから、自分の魔力で、立てた指先の上に小さな炎を生み出す。

パチッと火花が散って、炎が灯った。

テレサたちが愕然としている。

「すごいですわ・・・」

「フィオレ。お前、どうやって術式を行使した?」

「・・・火を出す場所を決めて、火打石の火花で火種に火が点いて燃えるまでの過程を想像して、そこに魔力を流し込んだ」

「お前はルナリアから呪文詠唱を見せて貰ったのが初めてだったのだろう? なぜ、その方法に思い至った?」

「・・・ルナリアに、お師様はルナリアとお話ししながらでも魔法を使えるって聞いたから? ・・・呪文って、絶対に必要なものでは無いんじゃないかと思った」

確か、初めて魔法を使ったとき、そう考えたはず。

私の頭をぐりぐりしながら、お師様はテレサへと視線を戻した。

「考察や研究とは、こう在るべきだとは思わんか? 机上の屁理屈なんぞ、いくら捏ねたところで成長も上達もせん」

「ピーシス卿が、アホだと仰った理由が、よく分かりましたわ」

テレサは深々とため息を吐いた。

「ルナリアもフィオレも、屁理屈を知るよりも実践しろ。数えきれんほどに重ねた訓練と経験は、戦場でお前たちを裏切らん」

「・・・はい」

「分かったわ! 叔母様!」

「ルナリア」

元気にお返事するルナリアを、お師様がジロリと見た。

目にも止まらぬ速さで、ルナリアのこめかみを片手でガッシリと掴む。

なんか、こんなプロレス技? 有ったよね。

「あっ! ―――、痛い! 痛いわ、叔母様! 痛たたたたた!」

「授・業・中・は・先・生・と・呼・べ・と、いつも言っているだろう?」

「ごめんなさい! 分かりました! 分かりましたから! ごめんなさい、先生!」

一つ鼻息を落として涙目のルナリアを開放したお師様がテレサを見る。

「殿下は先ず、出来ない、無理だ、こういうものだと決めつける行為は、自分の可能性を狭めるものだと知ることだ。未解明な部分が大半を占める魔力を用いた魔法術式においては、特にな」

「自分の可能性・・・」

テレサの目が見開かれる。

「そうだ。術式ひとつ取っても、“詠唱術式”、“魔法陣術式”、“刻印術式”、“精霊術式”などが存在するのは知っているな? かつて、アカデミーで私が検証した限り、エルフ族の絶滅により失われた“精霊術式”以外においては、術式の発動方法や効果、消費魔力効率などに違いは有っても、魔力を消費して現象を起こす原理自体に差異は無かった。つまりそれは、魔力という謎多き存在は、何物にも縛られず、無限の可能性を秘めている証左だと言えよう」

「何物にも縛られない・・・」

やっぱりか。

魔力が単なる暗黒物質だとして、火にも水にも姿を変えるのなら、万能物質だと考えた。

お師様も、独学でその仮説へと至り、無詠唱行使という形で常識の壁を乗り越えた。

他人から見れば、私も常識の壁を乗り越えたように見えるかもしれないけれど、私の場合は、日本の教育という、こっちの世界とは違う技術体系の下駄を履いていたのだ。

常識、定説、定理というものは、宗教に近いと思う。

それを否定するのに、どれほどの障害が有って、どれほどの誹謗中傷を受けただろうか。

私のように現代日本の基礎知識も持っていないのに、迷信と物理現象の区別も無い世界で、自力で常識の壁を打ち破るなんて、お師様は本当に凄い人なのだと実感する。

「魔力が自由に振る舞う存在なのに、術者自身が偏狭な考えに囚われていて、上達すると思うか?」

「確かに・・・」

この国で最高レベルの教育を受けているであろうテレサが、深く頷いた。

教授している、というよりも、具体的なアドバイスに近いんじゃないかと思う。

今までに教わった先生方を“理屈っぽい”と評するテレサが求めていた授業は、今、この瞬間の教授なのではないだろうか。

「無詠唱行使など魔力使用の一形態に過ぎん。魔力の本質と術式の発動原理を理解しているかどうかで、1人の術師として殿下がどこまで成長できるかが変わると思え」

「肝に銘じます」

満足そうなテレサが居住まいを正したところで、一段落ついたと見たので、ちょっとお邪魔しますよ。

「・・・お師様。“精霊術式”って、何?」

「エルフ族が使用していたと伝わる古い時代の術式だな。500年ほど昔にエルフ族最後の国が滅ぼされ、今から100年以上昔には、この大陸からエルフ族は完全に姿を消していた。エルフ族の絶滅と同時に精霊も姿を消し“精霊術式”は失伝してしまったそうだが、精霊の力を借りて現象を起こす術式だと伝わっていて、現在、私たちが使っている“詠唱術式”や“魔法陣術式”に比べて非常に強力な術式だったと、古い書物に記述が残っている」

「・・・精霊、・・・本当に居るんだ」