作品タイトル不明
プリンセス強襲 ⑨
「心の動きなんて分かるの?」
「殿下は分かっているようだぞ。だから、お前たちは殿下に遣り込められた」
「あぅぅ・・・」
「胡散臭い貴族とたくさん会っていれば、何となく分かるようになりますわ」
眉尻を下げるルナリアに、テレサが小さく肩を竦める。
あまりの言い草にルナリアと私は目を丸くして、口出しを禁じられていたレーテさんや騎士様たちも思い当たることが有るのか虚ろな目になっていた。
「王都の貴族は特に曲者ばかりだからな」
「仰る通りですわ。本当に嫌になります」
何気にテレサって毒舌っぽいね?
柔らかい笑みは絶やしていないけれど、表情と話している内容にギャップがある。
声を聞き取れない距離で誰かがテレサを観察していても、プリンセススマイルに騙されて毒を吐いていても気付かないんじゃないかな。
恐らく、テレサは、そうしないと自分の身を守れない環境で暮らしているのだろう。
この表情と感情を切り離して悟らせない技術が、テレサの処世術なんだろうね。
そう考えると、テレサが同い年の私たちにタメ口を強要した気持ちも分かる気がする。
テレサのように生きざるを得ないのが貴族社会で、周りは信用できない大人たちばかり。
テレサとの知己を得て、お友だち認定された以上、ルナリアも私も無関係ではいられない。
お師様は、今、私たちの「敵」に打ち勝つ方法を教えようとしてくれている。
「相手のクセ、目や口の動き、側近の反応、兵の様子、民の様子。様々な場所に心の動きは表れる。敵が何を考えているか、何をしようとしているか、求めるものは何か、利で転ばせられるか、脅しで抑え込めるか、殴るならどこから殴るか。 他人(ひと) を導く立場の者は、それを瞬時に読み取って、即座に決断することを求められる」
「・・・分かった。意識する」
「分かったわ」
「わたくしにも当て嵌まりますわね」
私とルナリアが頷くと、テレサも一緒に頷いていた。
「そうだ。殿下も戦う戦場の形が違うだけだ。覚えておけ」
ぐりぐりと撫でられたテレサは嬉しそうにしているけれど、騎士様は目を剥いていた。
レーテさんに至っては、どこか達観した遠い目をしている。
「ピーシス卿の授業を受けられるなんて、ウォーレス領まで来た甲斐が有りましたわ」
「ついでだ。ついで」
ひらひらと手首を振るお師様を、恨みがましくテレサが見る。
「ピーシス卿には、講義をお願いしても、毎回、お断りされてしまうのですもの」
「私は忙しい。王都で講義が聞きたいのなら、アカデミーの暇な連中にでも頼め」
「あの方たち、理屈っぽいのですよね」
「当然だろう。アイツらは屁理屈を捏ねるのが仕事だからな」
「身も蓋もありませんわね」
「戦場へ出たことも無い術式研究者なんぞ、そんなものだ」
お師様の言い草に、テレサが苦笑する。
「・・・お師様。アカデミーって、何?」
「正式名称は“魔法術式学術研究院”だったか。頭の固い 落書き師(アホ) の集まりだ」
「・・・アホ?」
「おう。術式理論だの、詠唱文言の効率化だの、意味の無い屁理屈ばかりを机に向かって落書きしている。あれこそを、机上の空論と言うんだ」
「あれでも、王国の国立研究機関なのですけれども・・・」
お師様が両手を広げて大袈裟な仕草で肩を竦める。
「無詠唱での術式行使など不可能、だとか、未だに大真面目で言っているアホの集会を、アホ以外の何と呼べばいい?」
「・・・現にお師様は無詠唱で魔法を使ってる」
「以前、私が無詠唱行使を目の前で見せてやったら、何かの手品だと青筋を貼り付けて無様に喚いていたな」
「・・・それはアホだね」
納得した。
学者さんなら、現実のものは現実のものとして受け入れて、研究に活かすべきだよ。
「だろう? フィオレ。術式の行使に一番大切なものは何だった?」
「・・・想像力」
ぐりぐり。
「殿下も覚えておくと良い。術式の発動に呪文は必要ない」
「ええっ!? 呪文を暗記する必要が無いのですか!?」
そこまで驚くんだ?
世間的な常識との乖離が、ものすごく大きい気がする。
「ルナリアとフィオレは無詠唱行使を、もう身に付けているぞ」
「そうなのですか!? わたくしと同い年なのに!?」
目を剥いていたテレサと騎士様たちとレーテさんが、バッと私たちを見る。
「ルナリアには、一応、呪文を覚えさせたが、フィオレは呪文を教わってすらいないな」
お師様の視線に頷いて返す。
一応、いくつか教えて貰ったけれど、もう忘れたよ。
「・・・ルナリアに何度か見せてもらったことが有るだけ」
「殿下は、私の無詠唱行使を見たことが有ると思うが、どういうものだと考えていた?」
「心の中で詠唱しているものだとばかり・・・」
困惑顔のテレサがお師様を見る。
「アカデミーの術式理論を聞いていれば、そう考えるのも当然だろうな」
「普通! それって普通のことですよね!?」
テレサの後ろで騎士様たちも激しく頷いている。