軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プリンセス強襲 ⑧

腕組みで私たちの様子を眺めていたお師様に向き直る。

「・・・お師様。これで良かった?」

「良く気付いたな。だが、半分正解と言ったところか。状況判断は、もっと早くしろ」

「・・・はい」

ぐりぐりは無かったね。

お師様の正誤判定を言葉通りに受け取るなら、私たちのテレサに対する対応はどうでも良くって、見られていることに気付いたのが正解で、状況判断の遅さが誤りだったのだろう。

私たちの心構えが足りていなかったのは間違いない。テレサに対しての警戒も甘かった。

私とお師様を交互に見て、ルナリアが目を丸くする。

「えっ!? もう、授業が始まってたの!?」

「・・・いつ始める、とは言わなかったけど、お師様の目が真面目だった」

「そんなので、よく気付いたわね」

「・・・そんな気がしただけ。でも、危なかった」

私って、日本では人目を避けて目立たないように生きていたから、いくらか人の視線には敏感なんだよね。

「見られてる」とかの視線に敏感なんじゃなくって、「何を考えているんだろう?」って、人の視線の意味を考えちゃうんだよ。

そのくせ、対人スキルは低かった。

私にはスマートな躱し方なんて出来なくて、その結果が、いきなりのタメ口だった。

元・浮浪児が侯爵令嬢とタメ口を利いているのも問題なはずなんだけれど、ルナリアとのときは、お師様の鶴の一声で非常時対応がそのまま平時にも適用されたしね。

お師様という特殊な人で非常識耐性を持っているウォーレス家の人たちもまた特殊なだけで、階級社会の常識からは外れているだろうことなんて、想像するまでもないよ。

「不敬なのでは?」とかビビりながら、普通のモノサシでは最悪の選択をしているのだから世話は無い。

江戸時代のお侍さんみたいな無礼討ちで、いきなり斬り棄てられるまでは許して貰えたとしても、護衛の騎士様に咎められて叱られるぐらいは当然の選択を、私はした。

何たって、テレサはリアルお姫様だもんね。

さっきはお師様が助けてくれたけれど、助けてくれる人が居ない場面での出来事だったら命に関わる誤回答だったと背筋が寒くなる。

授業の正誤だけじゃなく、テレサへの対応は、きっと他にも選択肢が有ったはずだ。

今回は子供同士の話で、テレサの方から求めた結果だからお師様パワーで許されたようだけれど、封建社会の頂点に対して最底辺がタメ口を利くなんて子供でも許されなかったはず。

口を開きかけた騎士様の反応が当然だよ。

私たちとテレサの間でだけは正解でも、環境が許さない。

現代日本がどれほど寛容な文化だったのかを痛切に感じる。

相手の要求と世間体とのバランスを取りながら、どう応えるか。

これって貴族社会での交渉事に通じるものだろうから、日本の社会人レベルの一般教養で乗り切れるかも、なんて甘い考えは棄てるべきだ。

「理解できているようだな」

反省点を噛み締めていたら、ぐりぐりが来た。

「そう難しい顔をするな。下らない話は、追い追い覚えて行けばいい」

「・・・はい」

「下らない話って?」

「・・・どの辺りまでが許されるかの、社会的な礼儀の問題」

「むぅ・・・」

隣からの問いに答えたら、ルナリアにも難しい顔が移った。

貴族の子女として教育を受けてきたルナリアにとっても難しかったらしい今回の一件は、こっちの世界の一般教養を私が知らないにしても、31年も生きてきた女がこの体たらくというのは情けなさ過ぎる。

「困らせてしまいましたね」

「構わんさ。困るのも勉強だ」

「・・・どうするのが正解だったんだろう?」

「簡単なことだ。お前たちが誰よりも強ければ、誰もが黙る」

チカラ・オブ・パワーかい。

実にお師様らしい解決方法だけど真理ではあるのだろう。

お師様がサラッと切り捨てるほど下らなくは無いと思うけど、私は封建社会という世界を初めて体験するのだから、周りの人がどう反応するかにも、もっと気を回さなきゃ。

お師様やルナリアにも、今後はテレサにも迷惑を掛けてしまうことになる。

私のズレた言動が原因で、それを許しているテレサやルナリアが重要な交渉の場で舐められる、なんてことが有っちゃいけない。

でも、正解は一つじゃない。

テレサの護衛の騎士様をお師様が一睨みで黙らせたのは、お師様ほどの実力が有れば周囲も黙らざるを得ない、ってことを自らの行動をもって示してくれたのだろう。

お師様は言動が型破りだけれど、お師様自身が、そうやって力尽くで乗り越えてきたんだね。

お師様は、私に失敗を体験させると同時に、ちゃんと、私がした判断を正解に変える道を教えてくれている。

「戦争は人間同士がするものだ。人間の心の動きを予測しなければ先手を打たれる。戦争を始めるのか、避けるのか、いつ始めて、いつ終えるのか、大義名分は何か、取り巻く環境が許すのか。その主導権を自分が握っていなければ兵や民が死ぬ。主導権を奪えないのなら、最短で次を予測して最悪の事態を避けろ」

「あの・・・、先ほどの、わたくしたちの会話が、なぜ戦争の話に繋がるのですか?」

「戦争という行為そのものが会話方法の一つに過ぎん。優位に立ちたければ、不利に陥るのを避けたければ、よく観察して心の動きを予測するものだ」

「・・・心の動き」

「なるほど・・・。確かに、その通りですわね」

テレサが深く頷く。