作品タイトル不明
プリンセス強襲 ⑦
お師様の下に残された私たちの傍へ、お姫様が応接テーブルの向こう側から周ってきた。
お姫様の後ろに控えていたレーテさんが、付いて行くべきか迷うような素振りで、おろおろと落ち着きを無くしている。
ほんの数歩ほど移動しただけで後ろに付いて回るほどの距離じゃないから、そのまま控えていても良いんじゃないかな。
「ルナリア様とフィオレ様でしたわね」
「はい。殿下」
「・・・様、なんて不要です」
「お二人とも、お互いに、どう呼び合っていらっしゃるの?」
お姫様は、こてん、と首を傾げる。
ん? 何やら、おかしな気配がするよ?
私たち二人に向かって柔らかく笑っているはずなのに、私が 捕捉(ロックオン) されている気がする。
もしや、このお姫様って、 表裏(おもてうら) が有る?
大人しそうに見えるけれど、意外とグイグイ来るタイプなのかもしれない。
警戒しながらも、私たちはお互いの顔を見合わせてから答える。
「フィオレ、です」
「・・・ルナリア、です」
「だったら、わたくしのこともテレサと呼んでくださいな。敬語も無しです」
「・・・ええ?」
「さ、さすがにそれは・・・」
やっぱりか!
しかも敬語無しって、ルナリアは貴族だから許されても、私は不敬罪で捕まらない!?
ど、どうするの、これ? と、お師様を見たら、完全に見守る体勢だった。
揶揄っている目じゃないな。
お師様は、私たちの「何か」を見ている気がする。
さっきの話し合いが終わったとき、お師様は“私たちの授業をする”と言った。
もしかして、お師様の授業は、もう始まっている?
この状況自体は、私たちの合意で、好きにしろって感じだよね。
「あら。お二人とも5歳なのでしょう? わたくしも同い年ですわ」
「・・・えっ! あれで!? ・・・あっ」
しまった!
会話以外のことを考えていたら、つい、地が出てしまった!
慌てて自分の口を押えたけれど、しっかりと聞き取られてしまった言葉は口の中へは戻って来ない。
このお姫様って、弱味を握られるとヤバいタイプの子な気がする。
だって、お師様やハロルド様やバルトロイ様たちと対等に外交問題を議論できる子だよ?
面白そうにお姫様の目が細められる。
「フィオレは、普段、そんな風にお話しするのね」
「・・・ううっ」
くっ! ペースを握られたら勝てる気がしない!
「で、殿下! ど、どうかご容赦を!」
「あら。ルナリアは、わたくしだけ仲間外れにするのかしら?」
「そ、そそそ、そんなことは・・・!」
拙い! ルナリアは腹芸なんて出来ない子だから、私を助けに入るつもりがドツボに自分から飛び込んで行ってる!
このお姫様、なに考えてるの!?
あれ? もう要求は提示されていたね。
私たちにタメ口を利かせるのがお姫様の目的として―――、ああ、分かっちゃった。
ルナリアを折れさせるのは簡単だと判断して、抵抗が強そうな私の方からやっつけに来たんだ。
どう考えても、お姫様の方が、役者が上だね。
下手に取り繕っても、私たちの襤褸が出る未来しか見えない。
お互いの心に、しこりを残すぐらいなら、さっさと降参したほうが良さそうかも。
ぶっちゃけトークが出来る裏表が無い関係の方が楽だしね。
ここまで来てもお師様は口を挟むつもりは無いらしい。
今の、この会話が、すでに授業なのだとしたら、お師様は何を見ようとしている?
落ち着け。
お師様の、というより、ウォーレス家の判断基準は「戦場」だよね。
お師様が見ているのは、お姫様という不測の 事態(イレギュラー) への対応なんじゃない?
一瞬の判断のスピードが生死を分ける戦場でなら、どうするか。
間違っていたら、ごめんなさい!
私は一つ深呼吸した。
「・・・分かった。テレサ、これでいい?」
「ふぃ、フィオレ!?」
いきなりお姫様にタメ口を利いた私に、ルナリアが目を瞠る。
テレサの後ろに控えているレーテさんも、余程、びっくりしたのか目を剥いている。
レーテさんの隣で見ていた騎士様が口を開きかけたけれど、お師様がギロリと睨みつけたら、そのまま口を閉じた。
ごめんなさい、騎士様。
ポンとルナリアの肩に手を置く。
「・・・今の私たちじゃテレサに勝てない。降参しよう」
「ふぇっ!? こ、これ、勝ち負けだったの!?」
「フィオレって、面白いわね」
「・・・いや、それほどでも」
くすくすと笑って済ませるテレサの反応に、ルナリアが驚いている。
私とテレサの遣り取りを見て、一度ぎゅっと目を瞑ったルナリアも覚悟を決めたみたい。
「わ、分かったわ。テレサ、これで良いのよね?」
「ええ。お二人とも、わたくしのお友だちになってね」
今の嬉しそうなテレサの笑顔からは裏を感じない。
このお師様の授業における私の判断が間違いだったとしても、それはそれで良いかな。