作品タイトル不明
プリンセス強襲 ⑥
お姫様が不満そうに眉根を寄せる。
「宰相ご自身には繋がらないのですね」
「直接の血縁など、強い繋がりは無かったはずです」
宰相さんって言ったら、確か、“融和派”のボスだよね。
やっぱり、お上品そうなお姫様でも敵対派閥のトップは嫌いなのか。
「先ほどの王宮貴族と西部国境地域の領地貴族との繋がりは、どの程度かしら?」
「“融和派”の領地とはそれぞれに縁戚関係です」
「だ、そうですわ」
国境地帯の“融和派”は、みんな「黒」ってことだろうか。
お姫様の視線がハロルド様へと移る。
「 件(くだん) の商隊を足止めしていたのがウォーレス領なのですね?」
「南部国境を越えてカリーク公王国へ渡るには、ここレティアの町を通過するしか有りません。事前にフレイアから要請を受けていたので、書類の不備を指摘してムーア領へ戻るように差し向けました」
「ウォーレス領のように国境管理が機能していれば、阻止できるのですね」
「如何にも。我ら、国境を守る諸家は王国の盾。壊れて役に立たない鈍らの盾ならば取り替えねばなりません」
ふっとハロルド様が微笑む。
しかし、ハロルド様の目は、爛々とした戦意の光に満ちていた。
王国守護にその身を捧げる王都の騎士様たちが大きく頷く。
「“融和派”を糾弾するとして、どうする? コーニッツとムーアの身柄を王都へ送るにしても、ウォーレス家は護衛兵力を出せるのか?」
べルーサー様に、ハロルド様が不敵な笑みを向けた。
「騎馬1万騎程度なら、5日も有れば出せるぞ。もちろん、輜重は別での、実数1万騎だ」
「1万騎だと!? 国境の守りはどうする!」
「前侯爵も前子爵も健在だ。レティアの守りは、1万騎を出したぐらいでは揺るがんよ」
確かに。お触れを出した翌日には5000騎が、ポンと集まるものなあ。
「ウォーレス家というのは空恐ろしいな」
「王国の国境を守るのなら、この程度は出来て当然だろう?」
「そんなわけ有るか」
首を振るべルーサー様のボヤキに、ハロルド様は肩を竦めて見せた。
べルーサー様って、ハロルド様と仲がいいっぽいね。
お友だちかな?
「コーニッツ・ムーア領も全ての残党を根絶やしにするほうが確実に浄化できるんだがな。国王陛下のご判断を待たずに根絶やしは、さすがに拙かろう」
「お前が冷静な男で助かったよ。前当主殿が相手だったら、私では説得できる気がせん」
「父上たちを説得したのは主にフレイアだ。ウォーレスの女は、賢く、強いからな」
「なるほど」
「ふん」
ハロルド様とべルーサー様から向けられた視線に、お師様は鼻を鳴らして応えた。
でも、機嫌は悪く無さそうだよね。
ハロルド様が、お姫様へと向き直る。
「さらに言えば、殿下から、コーニッツ・ムーア両家の残党に、“挙兵は王国への反逆と 見做(みな) す”、と布告していただければ、背後を突かれる憂いも無くなるでしょう」
「どこからも支援が無ければ―――、では無いか?」
バルトロイ様が憂いを顕わにする。
「構わんだろう。奴らが挙兵したところで、まとめて蹴散らせばいいだけだ。残党ごときに王国すべてを敵に回す覚悟など無いだろうが、暴発してくれれば御大たちが喜んで掃討しに行くだろうよ」
お師様、悪い顔してるよ・・・。
バルトロイ様の懸念にハロルド様は首を振る。
「暴発が有っても無くても、国境地域の安定に関与することは殿下の手柄になろう。反乱を収めた旗頭となれば、尚更のことだ」
「確かにな。ならば、殿下のお手を煩わせるのも己むなしか」
お師様はお姫様と視線を合わせる。
「頼んで良いか?」
「お安い御用、ですね。布告書でしょうか? いつ書きましょうか」
柔和に微笑んでいるけれど、お師様の視線を受け止めたお姫様の目にも好戦的な光がある気がする。
お師様たちの話をしっかりと理解した上で対等に話しているから、賢い子だなあ、って、思ってはいたけれど、もしかして、このお姫様、結構、強かなタイプ?
バルトロイ様が、お姫様を手で制した。
「殿下。しばし、お待ちを。フレイアの報告書の裏を取るため、我らにて、念のためコーニッツ・ムーアの両人を尋問せねばなりません」
「任せます」
バルトロイ様の申し出に、お姫様が鷹揚に頷く。
お師様がバルトロイ様に挑発的な目を向ける。
「手伝ってやろうか?」
「ダメだ。いくら、お前が特務でも、当事者でもあるウォーレス卿やピーシス卿が我々の尋問に同席しては、公平性に欠ける」
微妙に嫌そうな表情をしたバルトロイ様は、すぐに表情を消して首を振った。
ニヤリと笑ったお師様がルナリアの頭にも手を伸ばして、私とダブルでぐりぐりする。
「ヒマになったな。では、ルナリアとフィオレの授業でもしておくとするか」
「あら。ピーシス卿の授業でしたら、わたくしも受けてみたいですわ」
「レティアに居る間だけなら構わんとも」
お話は、これで終わりかな? 膝から私を下ろしたお師様が腰を上げる。
「では、私は派兵の手配を進めておくとしよう」
名残惜しそうにルナリアを膝から降ろしたハロルド様も腰を上げた。
「クローゼリス卿、尋問の間に報告書を筆写させたい。騎士団長閣下へ早馬で届ける」
「承知した」
お師様が書いたという報告書は、お姫様の手からバルトロイ様へ、バルトロイ様の手からべルーサー様へ、べルーサー様の手から別の若い騎士様の手へと渡った。
ページ数が多いからか、報告書の複製を命じられた騎士様は二人で作業するらしい。
ワールターさんの案内で連れ立って執務室を出て行くバルトロイ様とべルーサー様は、今から大人の時間かな?