軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プリンセス強襲 ⑤

バルトロイ様が私を見る。

「フィオレ嬢。君は、半年以上昔の記憶が無いと言ったな?」

「・・・はい」

「フィオレが持つ一番古い記憶は、骨と皮だけになるまで痩せてムーアの領都を彷徨っているもの、だそうだ」

お師様が膝の上の私を抱き寄せる。

痛ましそうに私へ視線を投げたバルトロイ様が、お師様と目を合わせる。

「お前が奴隷商人の一派を討伐したと報告を上げたのは、その数ヶ月前だったな」

「去年の年の瀬だ。フィオレは、どうやったのか、上手く奴隷商人の手から逃げ出していたようだ」

「9か月前・・・か。魔法道具―――、“ 奴隷環(どれいかん) ”は着けられていなかったのか?」

「そんな物が着けられた者を、このレティアで素通りさせると思うのか?」

目を細めたハロルド様に、バルトロイ様は素直に頭を下げる。

「なるほど、失礼した。レティアの関所を通すために外したか」

「・・・どれいかん、って何?」

肩越しにお師様を見上げると、お師様は嫌悪感を顕わにする。

「奴隷に逃げられないように使う、ロクでもない魔法道具だ」

「・・・着けられると、どうなるの?」

「体内魔力を吸い出されて抵抗できなくなる。あれは、死霊系術式だったか?」

お師様がバルトロイ様に目線を遣ると、バルトロイ様も目を怖くしていた。

「死霊系術式と闇系術式の複合だ。行動阻害だけでなく精神操作効果も有るはずだ」

「・・・うぇぇ・・・」

私、めっちゃヤバかったんじゃない!

精神操作って何!? 何て魔法道具を作るんだよ!

「拘束具が外された隙に逃げたとして、3ヶ月間も街中を逃げ切れるものだろうか?」

「“融和派”の町は治安管理や衛生管理が甘いから、身を隠したりゴミを漁る程度なら困らんぞ。お陰で領主館の中以外では諜報に苦労した 例(ため) しがない。浮浪者も普通に居るしな」

「小さな町なのに、そこまで杜撰なのか」

バルトロイ様だけで無く、ベルーサー様も渋面になっている。

バルトロイ様に視線で問われたベルーサー様が頷いて返す。

「2~3ヶ月程度なら、命を繋ぐだけなら、不可能では無いでしょう。王都でも第3街区の下層民が暮らす区域では珍しく有りません」

「時期は合うようだな。彼女が逃げ出してきた場所はムーアの町で間違いないのか?」

「・・・間違いありません」

バルトロイ様の目が私に帰って来たので、しっかりと頷いて返す。

お師様が背もたれの後ろへと顔を振り向ける。

「ワールター」

「はい。当時、フィオレ様に暴力を振るった男も捕縛して裏を取りましたので」

置物のように気配を消して控えていたワールターさんもバルトロイ様に頷いて返した。

ワールターさんの後を引き取ったお師様がバルトロイ様を見据える。

「そして、私が奴隷商人を捕捉して処断した場所もムーアの領都郊外だ」

「証拠品や証人は?」

「商人が隠し持っていた複数の奴隷環は領の騎士団で保管しているぞ。“他の商品”は道中の村々で拉致された女子供だったから、調書を取って家へ送り届けさせた。当時の調書にも“逃げた商品”のことは聞き取り情報が有ったし、聞き取りを行った兵士も覚えていた」

「状況証拠は確定的だな。コーニッツ子爵とムーア男爵は、何と?」

「ムーアは入荷したエクラーダ人の顔に見覚えが有った様子でな。商人が商品に逃げられたことも知っていた。まとめて締め上げたら、王都の“融和派”を通じて商品が運ばれて来た、と、コーニッツが吐いた」

お姫様が目を瞠る。

「子爵が自白したのですか?」

「大人の時間、ってヤツだ。詳しく聞きたいか?」

お師様、そのフレーズ、気に入ってるよね。

ニヤリと笑うお師様に、お姫様は小さく首を振った。

「聞いてしまうと眠れなくなりそうですね」

「通行証の発行や偽造で、直接的に奴隷商人の王国内の移動に便宜を図って手を貸していたのが、南部国境においてはムーアだ。コーニッツは商品ルートの“繋ぎ役”だな」

「南部においては、ですか?」

「お前がムーアで奴隷商人に手を下せたのも、西部国境周辺で集めた情報から足取りを追って、ムーアで足止めされていた奴隷商人の商隊に追いつけたから、だったな?」

「そうだ」

バルトロイ様とお師様の遣り取りに、お姫様は深々と溜息を吐いた。

南部国境においてはムーアが実行犯だけど、尻尾が掴めていないだけで、西部国境でも同じ犯罪が行われている可能性が高いってことだよね。

日本の企業に当て嵌めて考えれば、コーニッツが営業職で、ムーアが物流管理職。

アウトソーシングで奴隷商人が集荷・配送業務を請け負っていた感じか。

お姫様は後ろを振り返ってメイドさんを見た。

「レーテ。コーニッツ子爵と関係が深い、王都の“融和派”というと?」

「主要な家は、ハートナー侯爵、ベンテッド伯爵、ポートベール子爵、辺りかと」

メガネを掛けた大人しそうなメイドさんの口から、すらすらと名前が出てくる。

レーテさんか。この人、お姫様の知恵袋的な人なのかな?