軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プリンセス強襲 ④

「例の件の報告書だな?」

表紙の文字を目で追ったバルトロイ様が、そのままお姫様へ丁寧な手つきで差し出した。

「特務の報告書ですか?」

「はい。近頃、何らかの“禁制品”が王国貴族の間に流通しているとの噂が流れており、王命にてフレイアに調査を命じておりました」

「報告書の内容については、先ほど、私も目を通しております」

短く刈り上げた茶色の髪の騎士様が補足し、お姫様が驚きに目を瞠る。

「王命の・・・。魔法術師団の特務に関する報告書を騎士団に見せるとは、そこまでする必要がある内容なのですね?」

「南部国境の安全を預かる身として、看過できない事態と判断いたしました」

ハロルド様とお姫様が視線を合わせる。

「この報告書がコーニッツ子爵領とムーア男爵領の武力制圧に繋がったと?」

「逆だ。このフィオレが暗殺の危機に遭ったルナリアを守って闘い、事態が明るみに出た。その結果、私が王国防衛のために必要だと判断して、ウォーレス家に協力を要請した」

「まあ・・・」

ポンと頭にお師様の手が置かれた私を、お姫様が目を見開いて見る。

眉間を険しくしたバルトロイ様は、お師様を見る。

「待て、フレイア。暗殺だと? 次期当主失踪の件ではなく?」

「そうだ。2年前の、ウォーレス家次男マークスの失踪についても、フィオレがマークスの遺体を発見してくれたお陰で、すべてが明らかになった」

「お前の任務と、どう繋がる?」

「この、ウォーレス家の小さな恩人が、被害者だからだ」

頭にお師様の手を置かれたままの私をバルトロイ様が見て、思案顔になる。

「純血のエクラーダ王国人・・・。そういうことか」

「純血、ですか?」

首を傾げるお姫様に、バルトロイ様は頷いた。

私は聞き流していたけれど、重要な情報なのか、お姫様はしっかりと食い付いていた。

「光の加減で青みを帯びて見える見事な銀髪に薄紫色の瞳が証拠です。他国民との雑交が進んだ彼の国でも、純血を守っているのは、すでに血統を重視する王族や高位貴族層だけと聞いています。彼女はそれに近しい出自ではないかと」

「―――っ!!」

「・・・えっ? ええっ?」

お師様とハロルド様とワールターさんとバルトロイ様の4人以外の視線が、一斉に私に突き刺さる。

何を言われたのか、一瞬、頭が理解を拒みかけた私も、一瞬後には目を剥いた。

これか! 挨拶したときのバルトロイ様の態度に違和感を覚えたのは!

いち早く復帰したお姫様が、短髪の騎士様を見上げる。

「べルーサー。彼の国は、今、政情不安でしたね?」

この茶髪の騎士様は、べルーサー様ってお名前なんだね。

お姫様に名前を憶えて貰っているぐらいだから、それなりの地位の人なのだろう。

「確か、エクラーダ王国の政情不安は、要人の暗殺だったか、誘拐だったかが発端だと、騎士団でも情報を得ていたはずです」

「不安定化工作の結果的な事件か、事件が起こった結果の政情不安なのか。さて、どちらか。純血を持つ高貴な身分ともなれば、商品の需要が有ったのかも知れぬな」

「その商品の出荷先がカリーク公王国とは。人でなしの奴等らしいことです」

王都から来た面々の憐れみの色を含んだ目が私に集まる。

うへぇ・・・、厄介事の予感。

私の手が、無意識に自分の胸元を掴んでいた。

もしかして、この子、その厄介事に巻き込まれて外国へ売り飛ばされたってこと?

「我が王国の騎士団は、彼の国の騎士団と交流が有ったのでしたね」

「かつては、です。彼の国が神教会の圧力に屈して亜人種族排斥に転ぶまでは、勇王国を始めとした周辺国との小競り合いで共闘することが幾度もございましたので」

「神教会、ですか・・・。面倒ですね」

お姫様が嫌そうに眉根を寄せた。

うわぁ・・・、さらなる厄介事の予感。

また神教会かあ。

昔の日本へ進出してきたキリスト教も、歴史の教科書に名前が出てくるような宣教師がスパイ役と人身売買の仲介役をしていたんだっけ。

戦国時代の真っ最中で戦争慣れしていた日本は逆にキリスト教を追放したお陰で侵略されずに済んだって習った気がする。

現代のイスラム教も教義の根底で異教徒を人間扱いしていなくって、行く先々で現地の人たちと軋轢を起こしまくっていた。

それを言ったらキリスト教の十字軍派遣もイスラム教の異教徒排斥思想と侵略戦争がミックスされた結果だもんね。

神教会からはキリスト教やイスラム教と同じ臭いを感じてならない。

排斥思想を持つ宗教って怖いなあ・・・。

「彼の国の政情不安も神教会の暗躍が疑われます」

ベルーサー様は、とても怖い顔になっている。

「国境管理緩和政策で神教会に王国内へ本格的に入り込まれると、エクラーダのように、さらに面倒な事態が起こりかねません」

「王国騎士団や魔法術師団が如何に精強でも、“敵と通じた者”が手引きすれば、面倒事を阻止できなくなるな」

べルーサー様の懸念の後を引き取ったお師様の指摘に、お姫様も溜息を漏らす。

「“融和派”ですね・・・。あちらの動きも厄介ですね」

神教会って、ルナリアも毛嫌いしていたよね。

宗教なんて歴史的に見ても面倒くさい連中が政治利用するのが相場だけれど、こっちの世界でも、そういうものみたいだね。