作品タイトル不明
プリンセス強襲 ③
「私は、バルトロイ・クローゼリスという。フレイアが紹介した通り、王家直属魔法術師団で、団長の任を拝命している」
「・・・改めまして、フィオレと申します。どうか、お見知りおきを」
「うむ」
バルトロイ様。お師様の上司なんだから、ちゃんとお名前を憶えておかないと。
会釈しつつご挨拶したら、もう一度お師様をしげしげと返り見てから、満足そうに、私に頷いてくださった。
お師様の弟子にしては普通、って安心した感じかな?
「そいつ、そんなでも次期公爵だから、一応は丁重に対応してやれ」
「わたくしの従弟叔父にあたる方ですわ」
「・・・えっ!? ・・・ええっ? ・・・えええ?」
ちょっ、ちょっと、お師様?
バルトロイ様とお姫様とお師様の顔を見比べて、私は混乱の極みに達した。
ハロルド様と同じ侯爵様かと思ったら、お姫様の従弟叔父ってことは、次期、とはいえ、王様のご親戚の公爵様じゃないの!?
爵位とか詳しく無いけど、王位を継がない王族が王家の家臣に下るときの爵位が公爵じゃなかったっけ!?
お師様って子爵だよね!?
公爵様って、普通、雲の上の人なんじゃないの!?
いや、私から見れば、侯爵様でも子爵様でも雲の上の人なんだけれども!
他の騎士様たちも、諦めたように首を振っている。
お師様がこういう人だってことは、みんなの共通認識なんだね?
オーケイ、それだけは理解した。
まだ混乱はしているけどね!
「君は、ああは、ならないでくれよ」
「・・・へっ? あっ、はい」
苦笑したバルトロイ様は、困惑する私の頭をポンと撫でてから、ルナリアへ顔を向けた。
「ルナリア嬢。君も有望な魔法術師の卵だそうだね」
「有望かどうかは分かりませんが、尽力いたします」
「うむ。魔法術師団団長として、大いに期待している」
ルナリアの笑顔がヒクッと引き攣った。
わざわざ魔法術師団の名前を出して言うなんて、お師様の血族だけあって、期待値の最低ラインが高いっぽいね。
プレッシャーを掛けるだけ掛けて、立ち上がったバルトロイ様がお姫様の斜め後ろの立ち位置へと戻る。
お師様が私たちを手招きした。
「フィオレ、ちょっと来い。ルナリアもだ」
「・・・? はい」
ルナリアと目線で頷き合った私たちは、ベンチソファーの後ろを通ってお師様の傍へ行こうとした。
挨拶した立ち位置的にルナリアが先行し、私はルナリアの後に続く。
「ふぁっ!?」
「・・・!?」
ソファーの背もたれ越しに両脇に手を差し込まれて、はっしと捕獲されたルナリアが、ヒョイと持ち上げられてハロルド様にパスされる。
「ほれ、ハロルド」
「お? お、おう」
パスされたルナリアを反射的に受け取ったハロルド様は、困惑顔のままナチュラルにルナリアを膝に置く。
どこにも滞りが無い、見事な連携の流れ作業だった。
「・・・!? !?」
次の瞬間には、目の前に居たルナリアが宙を飛んで行ってフリーズしていた私も捕獲されて、お師様の膝の上へ設置されていた。
ちょっ! ご挨拶を終えて私たちはお役御免かと思ったのに、これ、どういう状況!?
バルトロイ様を始めとした騎士様たちの視線がルナリアと私に集中して、皆さんも呆気に取られて半口を開けていらっしゃる。
「あらあら。これはこれは」
面白そうに目を細めたお姫様が口元に手を当てる。
お姫様の後ろに立っているメイドさんも、微笑まし気に私たちを見ている。
「・・・ううっ」
「お、お父様・・・」
うああ! お姫様に、すんごい笑われてるんですけどお!
バルトロイ様だけでなく、この場に居る他の騎士様たちも、結構、偉い人たちなんじゃないの!?
場違い感が半端なくて、めちゃめちゃ恥ずかしい!
ルナリアは熟れた林檎みたいに真っ赤っ赤になって俯いている。
私も赤面している自覚がある。
お姫様は私たちと同年代の子供なのに何日間も旅をして、お仕事でウォーレス領まで足を運んでくださっているのに、私たちと来たら愛玩動物扱いである。
あまりにも恥ずかしくてお師様の顔を見上げたら、お師様の目がにんまりと笑っている。
わざとだ! これ、絶対に分かっていてやってるよ!
ハロルド様はデレデレだから、平常運転かな。
一頻(ひとしき) り上品に笑ったお姫様が、ハロルド様に視線を移す。
「家族仲が良好なご様子で何よりですね。・・・それよりも、ウォーレス領までの道中で、捨て置きならないお話を耳にしましたが?」
「コーニッツ、並びに、ムーアの件ですな」
デレデレを引き締めたハロルド様が重々しく頷く。
ルナリアを抱っこしたままだから、ぜんぜん重々しく見えないけれどね。
「おい、団長」
ソファーの背もたれに体を預けたままのお師様が脇に置いていた紙の束を手に取って差し出し、手を伸ばしても届く距離じゃ無いよね? と思ったら、ワールターさんがお師様の手からサッと受け取って、バルトロイ様に手渡した。
なんか、無駄に偉い人同士の会談っぽい遣り取りだよね。
実際、偉いんだけど。