作品タイトル不明
プリンセス強襲 ②
「お連れしました」
「御苦労」
領主執務室の扉を開けたエゼリアさんが優雅に一礼して道を譲り、手のひらで指して入室を促されたルナリアと私は、扉の両脇を固める見覚えが無い騎士様たちの間を抜けて室内へと足を踏み入れた。
ハロルド様とお師様がベンチソファーに掛けていて、ワールターさんはハロルド様たちの斜め後ろに控えている。
向かい側のベンチソファーの周囲には、5人の騎士様たちと、ウォーレス家のメイドさんとは違うデザインのメイド服を着たメガネの女性1人が立っている。
「ウォーレス家、三女、ルナリアにございます」
「・・・フィオレと申します」
お人形みたいに可愛らしいルナリアのカーテシーに続いて、私も、ここ数日で徹底して叩き込まれたカーテシーを披露して見せた。
馬に乗せられたときの筋肉痛か打撲かで鈍い痛みが続くお尻と腿を叱咤して体で覚えただけに、付け焼刃にしては上手く出来たと思う。
教官を務めてくれたエゼリアさんも小さく頷いているから、及第点は取れたらしい。
言葉遣いや受け答えは日本の社会人レベルの礼儀作法で通用しそうだけど、日常の積み重ねが物を言う自然な所作は、なまなかで身に付くものではない。
日本式のお辞儀は私の正体の身バレに繋がりかねないから封印を厳命されて、異世界式の挨拶から叩き込まれることになったんだよ。
たかが挨拶だけれど、背筋を伸ばしたまま右足を半歩引いて、左脚だけに体重を掛けて軽く体を沈ませると同時に、フレアスカートを少しだけ持ち上げて見せるのだ。
これが、なかなかに、下半身と腰と背中の筋肉に負担が掛かって練習は辛かった。
こっちの世界でも地球と同じように、「大人になると女性は踵が高い靴を履くことになるから難易度が跳ね上がる前に体で覚え込め」とメイドさんチームに鍛えられたよ。
お師様はブーツじゃん! と思わなくは無いけど、お師様は別枠なんだろうなあ。
「あらまあ」
グラスにビー玉を転がし入れたような可愛らしい声が返ったので、大人ばかりが居るものだと思っていた私たちは驚いた。
お師様たちの向かい側のベンチソファーには、小さな女の子が一人だけ腰掛けている。
「第三王女、アリストテレジア殿下だ」
お師様の紹介に、王女殿下は私たちに向かって小さく手を振った。
これがリアルお姫様かあ。
私たちと同じぐらいの歳かな?
ウォーレス領で見慣れた色よりも幾分か薄い色の金髪に、ルナリアやお師様よりも深い濃緑色の瞳の大人しそうな顔立ちの子で、ニコニコと柔和に笑っている。
リテルダニア王国だっけ。
ウォーレス家の血統だけでなく、この国の人の髪と目の色は、金髪に緑から青系の目が基本みたいだね。
正真正銘のお姫様だけ有って、この子も将来はものすごい美人になると思うよ。
活発さが前面に出ているルナリアに対して、ふんわりと物腰が柔らかいタイプのお姫様。
ソファーの傍でお姫様を守るように立っていた、一人だけ黒いマントを着けている軍服っぽい出で立ちの男性が歩み寄ってきて、私の前に片膝をついて目線を合わせる。
この人も男前だけれど、ハロルド様と比べて、かなり線が細いね。
緩くウェーブが掛かった背中まで有る栗毛をお師様みたいに首の後ろで一纏めにした、お師様と同年代ぐらいの男性で、理知的な光を湛えた暗い青色の瞳が私を観察する。
「・・・・・」
堂々としていないと、って思うけれど、男の人に見つめられた経験なんて無かったし、じっと目を覗き込まれて、すごく居心地が悪い。何か、思うところがあるんだろうか?
「ふむ。君はエクラーダ人か?」
「・・・よく分かりません。私には、半年以上前の記憶が有りませんから」
「そうなのか? しかし、その銀髪は地毛の色だろう? 少し変わった色合いのようだが」
これ、みんな言うよね。
この人も、純粋な銀髪じゃないことを言ってるのかな?
「・・・髪を洗っても血の色が落ちなくなっただけです。元々は、少し青みがかった色でした」
「血の色・・・、とは?」
ぱちぱちと瞬きが増えたね。脳が理解を拒絶しかけたのかな?
「・・・ワナで捕ったシカを 殺(シメ) たときの返り血です」
「君は自分で鹿を捕るのか?」
「・・・はい。ワナ猟は得意なので」
「ほう」
ううう・・・、落ち着かない。
探るような目だったのが、興味深々の好奇心に変わってきている気がする。
「フィオレ。そいつは魔法術師団の団長だ」
「・・・えっ? あ、はい」
そいつ、って、お師様、言い方!
めちゃめちゃ偉い人だよね!? ていうか、団長って、お師様の上司なんだよね!?
ちらりと横目でお師様に視線を投げた団長閣下は、私に視線を戻した。