軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊魔法というもの ⑯

「・・・取り込まれなければ吸い上げられる危険は無いってことかな? 力尽くで奪われる可能性は―――、テツさんなら考える必要は無いか」

この人、メチャクチャ強いし。

悪ガキっぽい笑みを浮かべたテツさんは小さく肩を竦めただけだった。

「・・・叔父様。テツさんたちが提示した条件は?」

「敵対するな、と。対価は技術の提供だ」

「・・・敵対、ね」

奪い取りに来るなと?

テツさんたちはエルフ族の魔法技術とドワーフ族の鍛冶技術を持っている。

その2つの技術が揃えば何が出来るかは、お母様のサーベルが証明している。

さらにはテツさん自身が持つ現代日本人の知識だ。

地球の技術まで搭載した”遺物”―――、正真正銘の魔法道具を生み出せる技術は、王様だって欲しいに決まってる。

ただまあ、「技術の提供」と言っても、根幹技術をテツさんたちが握っていることに意味が有るのだから、それはテツさんたちの生命線になる。

一方的な庇護―――、取り込みを拒否するのは当然だよね。

これで情報は出そろったかな?

ああ。もう1点、訊いておきたいな。

「・・・テツさん。何か急いでない?」

「―――っ!!」

およ? 図星かな?

今の今まで揺るがなかったテツさんが息を呑んだ。

揺らいだのは、ほんの1~2秒間のことで、すぐさま立て直したテツさんが静かな目で私を見る。

「何で、そう思うんだ?」

「・・・やり方が強引だからだよ。国王陛下やドネルク叔父様を敵に回し兼ねない交渉の仕方にも違和感が有る」

目を閉じて観念したように溜息を吐いたテツさんが、覚悟を決めた目で私を見据える。

「その内、俺が居なくなるから、だな」

「・・・居なくなる?」

テツさんが答えた横でケイナちゃんが目を伏せた。

レイクスさんもだ。

それでも、揺るがない決意を感じさせる目でテツさんは言葉を繋げる。

「俺は日本へ帰る。一刻も早く帰らなきゃならねえんだ」

テツさんの告白に、今度は私たちが息を呑む。

ドネルクさんも目を瞠っているから、エルフ族の面々しか聞いていなかったんだろうね。

テツさんはエルフ族の代理人として動いてた、ってことかな?

テツさんとエルフ族の間で協力関係が成立する何らかの利害の一致が有ったんだろうね。

エルフ族側はテツさんを単なる代理人とは思っていないみたいだけど。

好きな人に「居なくなる」と断言されたケイナちゃんの気持ちは想像するまでも無い。

かなり仲が良さそうなレイクスさんも友人が居なくなるのは辛いだろう。

熊の首をへし折った、強引としか表現できないテツさんの戦い方を思い出す。

ドネルクさんやお母様に対する交渉態度の強引さにも、戦い方と同様のものを感じてならない。

何となく、テツさんの行動や考え方の一貫性が見えちゃった。

これって、”焦り”・・・、なんだろうな。

「・・・事情を聞かせて貰っても?」

ここが交渉の核心部分だろう。

痛みを堪えるように目を閉じたテツさんが再び瞼を開く。

それでもテツさんは、辛そうにしているケイナちゃんたちを見ない。

ケイナちゃんたちも言葉を発しない。

同意の上なんだね・・・。

テツさんとエルフ族が協力関係に有る理由が見えた気がする。

テツさんが静かに口を開いた。

「日本に一人娘を残してきてるんだよ」

「・・・娘さんを?」

なるほど。子供の扱いが上手いと思っていたら、娘さんかぁ。

テツさんは30代の半ばに見える。

だとすれば、娘さんは最大でも10歳を少し越えたぐらいの歳だろう。

もしかすると、ケイナちゃんぐらいの歳なのかな。

「俺がこっちの世界に来たのは2ヶ月半ほど前のことだ。娘を小学校へ迎えに行った帰り道にな。黒トカゲ―――、黒龍王とか抜かすドラゴンが顔を出しやがってよ。娘を食われ掛けたんだ」

テーブルの上に載せているテツさんの手が拳を握り、怒りの大きさを示すようにギチチッと硬そうな音を立てる。

「黒龍王だと!?」

「ほう。黒龍王はチキュウ世界へ行く手段を持っているのか」

「・・・おおっ! ドラゴンが日本に!?」

おっと。いけない。

ドネルクさんとお母様がそれぞれの反応を返したけど、私だけ喜んでるみたいに見えちゃう。

怒らせちゃうかと心配したけど、私の反応にテツさんは苦笑しただけだった。

肩の力を抜くように溜息を吐いてテツさんは続ける。

「頭だけだったぞ? 今でも後悔してるんだが、手紙を郵便ポストへ放り込むのに娘の傍を離れちまってよ。娘の悲鳴で振り返ったら地面にデケエ穴が空いてて、黒トカゲが顔を出していやがった」

話の腰を折るからか、「小学校」や「郵便ポスト」という聞き慣れないだろう単語にも、お母様もドネルクさんも反応しない。

眉根を寄せたお母様が首を傾げる。

「娘は?」

「黒トカゲが顎を開いていて娘が食われる寸前でな。手近に有った電光看板―――、人間1人ほど大きさがある看板を黒トカゲの目ん玉に投げ付けたんだ。そうしたら痛そうに鳴いて頭を引っ込めやがったんだが、腰を抜かしていた娘が穴に落っこちちまってな」

テツさんが肩を竦める。

ああ~。そのときの状況が想像できちゃった。

娘さんの危機にこの人がボーッと眺めているとは思わないし、娘さんを助けようと穴へ飛び込んだんだろう。