作品タイトル不明
エンカウント! ㉗
「これが階段なの?」
「・・・こうするんだよ」
プレートの厚みは10センチメートルほど。
上面の幅は30センチメートルもないぐらいで、壁面から1メートルほど飛び出している。
新たに生み出したプレートを、20センチメートルほど高い位置に30センチメートルずらしてズゴッとやる。
また新たに生み出したプレートを同じ間隔でずらしてズゴッとやる。
これで3段。
踏み板だけが壁面から生えた形状の“フロート階段”だよ。
踏み板の隙間から覘き見える階下の景色が生理的な不安感を煽る地球人類の叡智に、ルナリアが目を丸くする。
「おお~。階段になったわ!」
「・・・まあ良いや。これで行っちゃおう」
この階段がもたらす不安感に気付いてくれないルナリアも、10メートルの高さまで階段を上がれば分かってくれるだろう。
1段1段、ズゴッとやりながら、私も1段ずつ段を上る。
どんどん踏み板を繋げて10段ほど上がったところで、お母様とドネルクさんも階段を上がり始める。
みんな興味深そうに足元の踏み板を見下ろしている。
「ほう? これなら、いざというとき簡単に壊せるな」
「うーむ。足元が頼りない感じで不安になるが、確かに撤退時の足止めにもなるか」
あんまりドンガドンガと踏ん付けて強度を確かめないでくれるかな?
脳筋は力加減を知らないからなぁ。
それなりに硬く固めてあるから簡単にはポッキリと逝かないと思うけど、ポッキリと逝ったときには階段の隙間から落っこちるよ?
真っ当に生理的な不安感を覚えてくれるドネルクさんの感性が普通なことに安心感を覚えてしまう。
「・・・階段の隙間から地面が見えて不安にならない?」
「いつも50メテルの高さに連れて行かれたりするのよ? 10メテルもない高さで不安にはならないわよ」
高所恐怖症の気が有ったはずのルナリアに訊いてみれば、平然と答えを返してきた。
「・・・ああ。そっか。そうだよね」
くっ! 私のせいでルナリアが絶叫系に動じない子になってしまった!
ほんの数ヶ月前までは崖下を覘いてプルプル震えたり、上空7メートルの空中散歩で涙目になったりしてたのに!
おおよそ50段。生命の不思議と人間の順応性に戦いている内に10メートルの崖を上りきってしまう。
「・・・うええ」
「なにコレ!?」
到着した崖上で私たちが目にしたものは、崖ギリギリまで地面を埋め尽くす獣の足跡だった。
私たちの声を聞きつけたドネルクさんとお母様たちが階段を駆け上がってくる。
「どうした!?」
「何が有った!」
「これ見て! すごい数の足跡が!」
追い付いてきたお母様たちに、ルナリアが崖上の地面を指し示す。
階段の最上段付近で私たちが止まっているから、みんなが階段状で糞詰まりになった状態だけど、お母様たちは背が高いからちゃんと崖上の様子を見ることが出来る。
「こいつは・・・バンダースナッチだな?」
「・・・10頭近く居るんじゃないかな」
崖上ギリギリの地面を埋め尽くす足跡の多さに表情を厳しくしているお母様に、足跡の大小などの特徴から個体数をザッと数えた結果を伝える。
恐らくだけど、シカを追ってきて崖を下りられず、かと言って諦めきれずにウロウロしたんだろうね。
だいたいの数は把握したからもう良いや。
崖上へと踏み出して場所を空ければ、地面の足跡を見回しつつお母様たちも続々と崖上へと踏み出してくる。
「・・・ククリの設置場所はこの辺り一帯で良いと思う」
「ここまで明らかに通り道が分かっていれば仕掛け甲斐が有るな」
私の判断にドネルクさんが頷いて納得を返して来る。
これだけ執着も顕わに崖下へ下りる場所を探してウロウロしてるのだから、崖に沿った辺りに仕掛ければバンダースナッチは掛かるだろう。
少し見回せば足跡が続いている方向は見付けることが出来た。
崖から見て直角方向から来たみたいだね。
群れの規模は8頭か9頭。
落ち葉を踏み荒らした跡が綺麗に1列に並んで森の奥へと続いている。
どっちの方角から来ているかさえ分かれば、この場の痕跡に用は無い。
「・・・もう数え終わったから、気にせず足跡を踏ん付けて良いよ」
「そいつは助かる」
足の踏み場が無さそうに爪先立ちでそろりそろりと歩いていたみんなが、ホッとした様子で普通に歩き始める。
みんなの様子にクスリと笑いが込み上げる。
爪先立ちでも痕跡を踏ん付けていることには違いないんだから、割り切って普通に歩けば良かったのにね。
これも調査の邪魔をしないようにと気遣ってくれた結果の行動なんだろう。
「痕跡の発見者が証言していたのは、もう少し奥の辺りだったな?」
「はっ。このまま崖から離れる方向へ向かった辺りかと」
ドネルクさんからの確認にマリッドさんが足跡の続いている方角を指す。
「フィオレ。魔獣の反応は?」
「・・・地上も樹上も4キロメートル圏内には無いよ」
お母様からの確認に迷いなく即答する。
アクティブソナーと魔力の手の索敵レーダーはずっと続けてたからね。
「ヨシ。次はイエーティの痕跡を探すぞ」
「・・・行こう」
目線を上げた私が先頭に立って、木の幹を確認しながら足跡を追っていく。
ここから先は熊のマーキングを探すのがメインだ。
私たちにとっては初めて踏み込むエリアだけど、敵の襲撃さえ早期発見できるなら怖れる必要はない。
1本1本、巨木の幹を確認しながら歩くのは、それはそれで手間なんだけど、幸いなことに1キロメートルちょっと歩いただけで目的のものを発見した。