軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンカウント! ㉖

「・・・獣道は―――、無さそうだね」

足跡の周囲を見回せば同じように深く刻まれた足跡はいくつか有るけど、落ち葉に覆われた何もない地面で反復して通った形跡には見えない。

崖上と足跡の位置関係を見比べる。これって着地の跡かな?

障害物になる木々を避けて崖上からピョーンと飛び降りてきたなら、着地点はこの辺りになる気がする。

ドネルクさんも私の視線を追い掛けて崖上と足跡を見比べている。

「獣道が何か関係するのか?」

「・・・単独行動のシカって縄張りを持たない時期が有るんですよ」

「縄張りを持つ時期も有るってことか」

それが? といった感じにドネルクさんは首を傾げた。

「・・・ 雌(メス) は縄張りというほどじゃないですけど、群れを作って一定の範囲内に定住して決まった場所を通りますから獣道が出来上がります。 牡(オス) は雌ほど定住性は強く有りませんけど、繁殖期には雌の群れを囲い込むのに縄張りを持つんです」

「さっき、単独の牡かもと言っていたな」

そそ。私が考えているのは、“獲物がどんな個体か?”だよ。

狙う個体の特徴によって想定される獲物の心理や行動パターンが変わるんだから、ワナの仕掛け方も変わる。

「・・・冬は繁殖期が終わった後のはずですし、居住地域を移動していてもおかしくは有りませんから」

「定住せずに移動中なら獣道は出来ないんだな」

「・・・その通りです。繁殖期ほど好戦的ではないと思いますけど、ワナに掛けにくいので注意が必要かと」

私の推測を聴き取ったドネルクさんが思案顔をする。

得た情報をまとめてるのかな?

「通り道が掴みにくくて待ち伏せしにくい上に気性が荒くて危険、ということで良いか?」

「・・・そういう認識で構いません」

ドネルクさんの総括に肯定を返す。

私の返事にドネルクさんは感心したように頷く。

「大したもんだな。敵の特徴が接触前に把握できるのは、とても助かる」

「・・・可能性ですよ。可能性。確定情報じゃないですから」

“敵を知り己を知れば百戦危うからず”なんて考えているわけじゃないだろうけど、あんまり評価を高めて信じ込まれても困るよ?

こんなの、どこまで行っても予想に過ぎないんだから。

私が言いたいことは伝わったようで、ドネルクさんが面白そうに破顔する。

「分かった分かった。予想が外れたからと嬢ちゃんのせいにはせんよ」

「・・・むー」

ホントに分かってるのかな。

どう見ても採掘場のシカよりも大きな個体で、通り道が特定できないってことはワナに掛かる確率も低いんだよ。

比例して危険度は引き上がるのだから、決して楽観視できる状況じゃないよ?

話が終わったと見て取ったらしいルナリアが崖上を見上げる。

「ねえ、フィオレ。上に上がるの?」

「・・・そうだね。崖上の様子も確かめておいた方がいいだろうね」

どうする? という意志を込めてドネルクさんとお母様の顔を見比べる。

「良いんじゃないか? 調べておく必要は有るだろう」

「やって見ろ」

「・・・分かった」

ドネルクさんがゴーサインの意向を示してお母様からもゴーサインが出た。

ルナリアと一緒になって私も崖上を見上げる。

「ドラゴンフライのときみたいな階段を付ける?」

「・・・うーん。どうしよっか」

ルナリアがイメージしたのは一直線に上り下りする階段で、いわゆる“鉄砲階段”、あるいは“直線階段”と呼ばれる形状のものだろう。

それでも良いんだけど、リスクが高いように思える。

「普通の階段だと拙いの?」

「・・・しっかりした階段だと魔獣から逃げなきゃいけなくなったときに拙いかと思って」

不確定要素が多い状況だから退路は確保しておきたいんだよね。

私が何よりも優先したいのは犠牲者を出さないことだ。

ワナというものは危険な野生動物の行動を阻害して、狩猟の安全性を高めるためのものだと私は信じている。

一方的に攻撃できる状況を作り上げるのがベターで、安全を確保できないなら一時撤退もまた正義だ。

「拙いって、何が?」

「・・・魔獣の追跡から逃げてる状況を想像してみて? その階段を駆け下りたとして、魔獣も付いて来ちゃいそうじゃない?」

宙へ視線を泳がせたルナリアが、回復薬を舐めさせられたような表情になる。

「じゃあ、どうするの?」

「・・・万が一のときは撤退しながら壊せる方が良いかなぁ」

一口に“階段”と言っても色々な形状が有るからね。

人間が上り下りしやすい階段は動物だって上り下りしやすいだろうし、階段の形状で優位性を生み出せないのなら障害物として利用できるものにすれば良くない?

階段というものは簡単に壊れては困る安定したもので有るべきだし、ルナリアは“デザイン性重視で生理的に不安を覚える階段”というものを見たことがないはずだ。

当然のことながら、私の記憶に有る階段をルナリアがイメージ出来るわけもなく、意味が通じずに首を傾げる。

「壊せる階段?」

「・・・そそ。こんな階段なら、どう?」

見せて進ぜよう。

地球のデザイナーが生み出した“不安になる階段”というものを。

崖面に歩み寄って、土魔法で生み出した細長いプレートをズゴッと壁面に突き刺して一体化させる。

これ1枚だと分からないかな? と思ったら、やっぱり分からないっぽいね。

壁面からニュッと水平に飛び出したプレートを見下ろしてルナリアが首を傾げる。