軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンカウント! ㉔

「フィオレ様。私たちは―――」

食堂から廊下へ出たところでメリーナさんが声を掛けてきた。

最後まで言い切る前に手で制して遮ったんだけど、メリーナさんの傍にはアイシアちゃんとナンナちゃんだけでなくエターナさんとエイラさんの姿も有る。

みなまで言うな。

言いたいことは分かってるよ。

「・・・メリーナさんたちは王都での任務が有るでしょ。エターナさんたちも、エクラーダ系の領民には何の危険もないと王都に分かって貰うのは重要な仕事なんだよ?」

「「はい・・・」」

途中で遮っちゃったけど、「ピーシス領に危険が迫って大変なときに自分たちは王都へ向かうなんて」と言いたかったんだろう。

気持ちは分かるよ。

私だって同じ立場なら日延べできないかと交渉するだろうし。

でも、テレサの護衛部隊派遣はピーシス家と王家の―――、いや。ウォーレス家と王家の約束事なんだよ。

エターナさんたちのことも王様とのアポイント済みだし、王様とのアポイント済みってことはカレリーヌ様とのアポイント済みってことになるんだろう。

王国への恭順と帰属を示して信用を勝ち取り、不安と疑念の種を未来に残さないためには必要な王都行きだ。

とはいえ、みんなが心配してくれていることは嬉しいよ。

嬉しいからこそ不安の払拭に努める。

「・・・まあ、場所や環境は多少違うけど森での狩猟には違い無いんだし、こっちのことは心配ないよ」

私は熊なんぞに負ける気は無いし犠牲者なんて1人も出させない。

発見次第、熊なんて不要な生物はこの世から抹殺してくれる。

バンダースナッチに至っては、採掘場での回収作業と違うのは本当に場所だけだ。

不承不承といった感じだけど、みんな気持ちに迷いが有るだけで理性では理解してくれている。

スッキリと「行ってらっしゃい」と送り出せないところが私も心苦しいけど、世の中、割り切れるものばかりじゃない。

長い社会人生活の中では、こんな状況も珍しくは無いだろう。

「嬢ちゃん」

「・・・何か有りましたか?」

聞き覚えの有る声が掛かって振り返れば、思った通りドネルクさんだ。

「何ってことは無いんだがな。俺の従者に陛下宛の報告書と領有宣言の建白書を持たせて先に王都へ戻らせることになる」

「・・・交代部隊に護衛をさせれば良いですか?」

先回りして訊いてみれば、正解だったようだ。

「話が早くて助かる。ファーレンガルド夫人に陛下へ手渡して貰おうと考えているんだが、ウォーレス家の王都邸で落ち合わさせるつもりでな」

「・・・従者の方々を王都邸までご案内すれば良いんですね?」

ふむふむ。状況の説明が有って手元に文書が有るのなら、ミリア叔母様なら上手くやってくれるだろうし、王様と宰相さんなら手元に文書が届けば上手く使って立ち回るだろう。

「ああ。王都邸に入ってからの手配はフレイアが指示を出してくれる手筈になっている」

お母様が手筈を整えるというのはミリア叔母様とヘイナーさんたちへの指示だよね。

なんだかんだでミリア叔母様とお母様はお互いに絶対の信頼関係が有るし、ヘイナーさんとの連携もミリア叔母様なら問題なくできる。

チラリと2人の表情を見れば、理性が個人の気持ちを上回ったかな?

王国生まれのメリーナさんはもちろん、旧エクラーダ王国で騎士の任に就いていたエターナさんから見ても、王国の騎士団長を務めていたドネルクさんといえば雲の上の人だ。

そのドネルクさんから直々に頼まれたと有っては使命感が高まらないわけがない。

ドネルクさんに目を戻して頷く。

「・・・了解しました。―――、メリーナさん。エターナさん。聞いての通りだよ。ウォーレス領と王国の未来に関わる重要任務になるけど任せて良いかな?」

「「はっ」」

2人だけでなくアイシアちゃんたち3人も同時に敬礼で応えてくれた。

ドネルクさんの威光に乗っかる形にはなるけど、迷いなく任務に赴いて貰えるならその方が良い。

「・・・じゃあ、従者さんたちの準備が整い次第、王都へ向けて出発してね」

「「了解しました」」

引き締まった表情で答えたみんなが交代部隊を率いて出発したのは、15分ほど後のことだった。

1つの案件が進捗すれば次の案件に取り掛かることが出来る。

応援を要請する伝令がレティアに着いて、レティアを出発した応援部隊がこちらに到着するのは午後も遅めの時間になるんじゃないかな。

そして、今はまだ4の鐘がもうすぐ鳴ろうという時間。

やれることが有るなら無為に応援を待っているわけがない。

魔獣の気配と痕跡を探りに私たちは偵察へ出ることにした。

「では任せたぞ」

「はっ。お気を付けて」

馬たちを森の入口に残して、見張りの兵士さんの見送りを受ける。

高低差が有るわけでもない水平距離で数十キロメートル程度では、植生に大きな差違が見られるわけでもない。

やっぱりレティア周辺の森の景色と変わらないね。

熊だって狼だって主張する縄張りは案外広い。

性差や個体による誤差有るけど、10キロメートル四方にも及ぶことが有るんだよ。

縄張りの形状は地形に追従するから四角形でも円形でもないけどね。

直線距離で10キロメートルともなれば、今の私に探知できる距離を大きく超えてしまう。

マーキングの痕跡を見付けたからといって、その場所が縄張りの端っこなのか中心なのかも分からない。

慎重に周囲の景色へ注意を払いつつ、魔獣の痕跡を探して森へ踏み込んで行く。