作品タイトル不明
エンカウント! ㉕
広く情報を拾い上げるために、通常の縦隊ではなく現代地球の軍隊のような横隊に散開して巨木の森を進む。
私はルナリアの傍を離れるわけには行かないから、いつも通りルナリアと隣り合った位置取りだ。
事前情報だと隣領のフィッツベルン領から森に入った開拓村の領民たちが、バンダースナッチの群れに襲われたんだよね?
本来、犬系の野生動物―――、オオカミというものは警戒心が強い。
個体としてはそこまで強い種ではないからだ。
体格に勝る熊には勝てないし、イノシシだって大きな個体は強いしスタミナも耐久力も有る。
走破能力や速度ではシカにも劣るのがオオカミという動物で、だからこそ群れの生態を持つ。
警戒心が強いから縄張りを巡回する際にも決まった場所を通る習性が有って、獣道を形成する。
社会性が高くて群れの内部に序列を持つのも犬系の特徴だ。
群れの序列は痕跡を探すこととは関連性がないから横に置いておこう。
先ず探すのは獣道だ。
他の土地から移動してきたばかりの場合には獣道が出来ていない可能性が有るから、落ち葉を踏み荒らした痕跡を探す。
アクティブソナーと魔力の手で索敵しつつ足元へ意識を集中している内に、行く手を障害物に阻まれた。
「・・・あ。崖だね」
「この崖って、採掘場の崖の続きかしら?」
「・・・そうだと思うよ」
現在地点は採掘場から崖に沿って旧ムーア領側へ移動し、崩落跡をかなり超えた辺りのはず。
採掘場付近の崖の高さは20メートルほど有ったけど、崖上の地勢が下がってきているのか高低差が小さくなっている。
10メートルほどの高さしかない崖面を見上げてルナリアが率直な感想を口にする。
「こっち側の崖は低いのね」
「・・・そうだね」
ルナリアに釣られて私も崖上を見上げる。
距離でいえば採掘場から10キロメートル弱のはずだから、気付かないほど緩やかな角度で下ってくれば、崖が10メートル低くなってもおかしくはないよね。
横隊に広がったまま崖は超えられないだろうから、土魔法で階段を作るとか、崖上へ上がる手段を講じる必要が有りそうだな。
すでに有効な手段を手に入れている以上、以前のように崖を迂回する選択肢は無くなったからね。
かつての私のように、崖を上るために木を伐り倒す必要もないんだよ。
とはいえ、狩猟に影響が出るような手段は避けたい。
どうやって上ろうかと崖上を見上げていると、何かを見付けたらしいルナリアが私の二の腕をペシペシと叩いた。
「フィオレ、フィオレ! 蔓が生えてるわ!」
「・・・良いね。今は採らないけど、使えそう」
ワナの材料として探すつもりで居たから、上手く見つかってくれて良かった。
葉の形が同じだから品種も採掘場近くで採れる蔓草と同じかな。
材料の確保という懸念事項が1つ減って胸を撫で下ろしていたら、ネイアさんが声を上げる。
「フィオレ様! 足跡らしきものが!」
おっと。早速痕跡が見つかったか。
地面にしゃがみ込んでいるネイアさんの傍へルナリアと急げば、眉根を寄せているネイアさんの足元に地面の窪みが有った。
「・・・どこ? えっ? これ!?」
「何か大きくない?」
困惑した表情でルナリアが首を傾げる。
ネイアさんやルナリアが戸惑うのも仕方ないよね。
だって、私たちが見慣れているサイズの2倍ぐらいは大きさが有るんだもの。
濁点みたいに2つの蹄が並んだ形状は毎日のように目にしているもので間違いないけど、どう見ても成人男性の手のひらサイズを大きく超えている。
「・・・大きいね。明らかにバイコーンだけど」
「これは・・・。東北部並みか」
私たちが集まっているのを目にして確認しに来たらしいドネルクさんが、深刻な声で唸る。
お母様たちも集まってきている姿を視界に収めつつドネルクさんに確認を取る。
「・・・東北部地域ですか?」
「クローゼリス領辺りだと、このぐらいの大きさだな」
地元民のバルトロイさんが居れば明確な答えが貰えたんだけど、バルトロイさんは特務魔法術師として異変の発生を報せに向かってしまった後だ。
大きさも大きさだけど、もっと気になることが有る。
「・・・ふむ・・・?」
「どうした?」
足跡の周りに集まっている私たちをお母様が覗き込んできた。
1人で悩んでも仕方ないな。
「・・・単独の牡ジカじゃないかと思って」
「若い牡か?」
「・・・そうかも」
お母様の問いに憶測を多分に含んだ肯定で返す。
採掘場のシカしか目にしたことがないルナリアが、私たちのやり取りに首を傾げる。
「バイコーンって群れで行動するものじゃないの?」
「・・・牡のシカって群れから離れて単独行動する習性が有るんだよ」
魔獣がどうなのかは情報が無いけど、行動パターンが野生動物のシカと同じだと仮定すれば、独り立ちした若い牡か、あるいはリーダー争いに敗れて群れから追放された牡の可能性も有る。
よく動画に撮られてネット上に投稿されていたけど、草食動物でも牡は総じて気性が荒い。
地球世界で最大のシカとされていたヘラジカなんかは特に牡の気性が荒くて、近付いた自動車に攻撃を仕掛けることも有るぐらい危険なんだよ。
角で突き上げてヒグマを撃退したりオオカミの群れを蹴り殺したりも普通にする。