作品タイトル不明
エンカウント! ㉓
「・・・さらに言えば、対人用のワナは刺突系のものが多いんだよね」
「ああ。あの罠か」
ドネルクさんではなくお母様が納得を示して頷く。
敵兵を負傷させた“バンブーウィップ”を思い出したんだろう。
具体的にイメージ出来たみたいで何よりだよ。
「・・・効かないわけじゃないなら、弱らせるぐらいの効果は有るのかと思って」
「しかし、あの罠では射程が短くは無いか?」
“バンブーウィップ”は鞭の届く範囲にしか殺傷能力が無いからね。
実物とその効果を目にした経験が有るお母様の懸念も理解できる。
でも、首を傾げるお母様に私は首を振り返す。
私が想定しているのは “アマゾン・ボウ・トラップ”と呼ばれるものや“スピアー・ランチャー”と呼ばれるものだ。
それらはバネの力で矢や槍を飛ばすもので、戦争で用いられたブービートラップには射程が長いものも存在する。
何でアマゾンなのか?
まだネット通販なんて無かった時代のことだし、ジャングルで似たようなワナが使われていたのが由来なんじゃない? 知らんけど。
「・・・弓や鎗を使ったワナも有るんだよ。寄せエサも併用すれば町に近付けないように多少は誘導できるかも」
「魔獣を誘導? そんなことが出来るのか?」
私の答えにドネルクさんが首を傾げる。
「・・・むっ!」
ちょっとぉ。王都の騎士様たち、報告が中途半端じゃない?
仕方ないな。
「・・・ワナというものは、そういうものですよ。ただ、イエーティはまだ狩ったことがないので、どこまで通用するかが正直分かりません。魔獣は警戒心が薄いですから、掛かりまくってくれる可能性は有るんじゃないかと考えてはいますけど」
基礎の考え方が分かっていないと成功率が下がるから、サラッと概念だけ教えておく。
ちゃんと教えるのは実地の方が理解しやすいだろう。
「掛かりまくるということは、数で押すんだな?」
「・・・うん」
崖上のバンダースナッチ対策で実施したことだから、お母様は私が何をしたいのかを分かってくれた。
熊退治で私が提案するものは飽和攻撃だよ。
町の近くにテリトリーなんて作らせて堪るか。
寄せエサでキルゾーンに誘い込んでやる。
蜂の巣になってくれれば私も少しはスッキリするんだけど、そこまでは期待していない。
それとだ。
「・・・マリッドさん。紙とペンは有る?」
「はっ。―――、おい」
マリッドさんの指示で騎士様の1人が便箋とペンとインクが載ったレターセット的なトレイを私の手元へ持ってきてくれる。
ペンを手に取って、町を示す小さめの丸印と、ククリによる緩衝エリアを示す長丸と、キルゾーンを示す丸印を並べて描く。
キルゾーンの真ん中には寄せエサを示すバツ印も描いて、それぞれに注釈で名称を書き添えておく。
描き終えた落書きをズイッとテーブル上へ押し出すと、みんなして落書きを覗き込む。
「設置する罠を範囲で分けるんだな?」
「・・・バンダースナッチも居るんだよね? 森から出さないようにククリも仕掛けまくれば、接近阻止の効果は期待できるかも」
落書きに目を通したお母様の確認に頷いて返す。
こっちの世界には地球で見るような精密な地図は無いからね。
普段から落書きに近い地図を見慣れているだけ有って、落書きレベルの説明図で通じると思ったんだよ。
”数打ちゃ 中(あた) る”方式で仕掛けまくるククリが、地雷原のように緩衝エリアとして機能してくれれば御の字なんだけどなぁ。
仕掛け方のプランは頭の中に有るけど、実際の設置は試行錯誤で仕掛けてみるしかないだろう。
「数押しするなら人手が足りんな。一から領民に教える猶予も有るまい?」
「・・・レティアの町から猟師さんたちと新人さんたち―――、残りのピーシスガードを呼べば何とかなるよ」
猟師さんたちは30人以上居るし、残りのピーシスガードは40人居る。
アスクレーくんの部隊も20人居るんだし、総動員して私たちも頭数に足せば、レティアの領軍を動員しなくても100人掛かりでワナの設置に当たれる。
懸念に対して私が返した答えに、みんなが苦笑する。
何? この反応。
「ああ。その手が有ったな」
「中々に人使いが荒い」
「・・・むー。みんなですれば早く終わるよね?」
私の抗議はサラッと流されてマリッドさんが次の動きに取り掛かる。
「ハロルド様に伝令を送ります」
「そうしてくれ」
マリッドさんは本来の所属がお父様の配下だから報告も兼ねてるんだろうね。
事実上の領主であるお母様の了承を得て、マリッドさん指揮下の騎士様たちが1人退室していった。
「フィオレ。必要な資材を書き出せ」
「・・・分かった」
私が再びペンを取ると同時に食堂に詰めている全員が作戦の準備に動き出した。