軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンカウント! ㉒

「罠は待つもの、か。道理だな」

ドネルクさんが頷きながらも溜息を吐く。

片道30キロメートルの徒歩行軍を実行したばかりだし、重たい檻を担いで森へ踏み込む大変さは想像するまでもなく理解できる。

どう考えても現実的じゃないものね。

イマイチ芳しくないドネルクさんの反応も当然だろう。

到底、妙案と言えるものではなくても、お母様はそこで思考を諦めない。

「エサで釣るだけでも、ただ出没するのを待つよりはマシだろう」

「・・・それはそうだね」

私も考えることを諦めちゃダメだな。

コレという案は無くとも次善策ぐらいは提示したい。

私に何が出来る?

どうすれば良い?

昔の勇者さんが付けた名前らしいけど、“鋼毛熊”の名前の通り、硬くて長い毛足の毛皮は剣も弓も槍も通さないんだっけ。

長い毛で覆われた毛皮に横向きから“斬撃を加えても斬れない”というのは物理的にも納得できるよね。

”ケブラー”―――、アラミド繊維製の防刃生地のように切断に対する強い耐性を持つ毛に全身が覆われているのなら、そりゃあ斬れないだろう。

でも、防刃生地って刺突にも強いのかといえば、かなり性能が落ちたはず。

例えば現代地球の兵士が着用している防弾ベストだ。

刺突―――、銃弾が貫通しないまでも、それなりに食い込むから生地の下にセラミックプレートを仕込んで食い込みを防ぐ構造になっていたはず。

「・・・イエーティって、矢や槍が効かないってわけではないんだよね?」

「全く効かない、というわけではないな」

「まあ、よほど上手く当たらないと刺さらんのだがな」

私の確認にドネルクさんとお母様が中途半端に認める。

答えにくいんだろうなぁ。

防弾ベストだって全くの無傷で銃弾を防ぎきれるわけじゃないけど、致命的な負傷を防げるだけで十分って考え方だものね。

有効と無効の境界線をどこに置くかの問題で、スッパリと割り切れているようで割り切れないのが現実だろう。

さらには、こちらの攻撃が有効かどうかとは全く別の問題として、熊という生物は毛皮の下には数百キログラムもの自重を支える骨格と筋肉を持っている。

2足で立ち上がるということは4足動物よりも強靱な後ろ脚を持っていることの証明でも有るし、クッソ重たい自重を支えられるだけの筋肉を纏った前脚を攻撃に用いてくるのだから、その攻撃力は推し量るに余り有る。

なんて厄介な生物だ。

普通の熊でも高い攻撃力と防御力を両立している上に魔獣特有の凶暴性まで持ち合わせているとなると、考えるまでもなく討伐難易度は跳ね上がる。

あれ? 何か引っ掛かるな。

「・・・うーん?」

魔獣・・・? 魔獣かぁ。

私、何に引っ掛かりを覚えたんだろう?

思い込みからの見落としが有るかも知れないよね。

もう一度落ち着いて考えてみよう。

魔獣の特徴と言えば、何?

体内保有魔力量が多くて心臓に魔石を持ってるでしょ?

でも、体内保有魔力量が多いからと言って、これ見よがしな魔法を使ってくるわけじゃないよね。

ああ、いや。バンダースナッチは噛み付いたときに炎の魔法を使ってくるから、魔法を使わないとは言えないのか。

もしかすると、他の魔獣も何らかの魔法を使っていた可能性は無いわけじゃない。

シカ―――、バイコーンだって、一般的には“風のように走る”って認識らしいし。

マルキオお爺様が足下で起こした風に乗って間合いを詰める魔法を見せてくれたことが有ったよね。

何の魔法を使ってきているのか、バンダースナッチほど分かりやすくないだけなのかも。

見た目で分かりにくい魔法と言えば身体強化魔法だし、身体強化魔法は脳筋との親和性が高い。

だったら、野生の本能で行動する魔獣が身体強化魔法を使ったっておかしくない。

そして、魔獣の特徴と言えば何よりも、高い攻撃性と傲慢にも感じる警戒心の薄さだよね。

あっ。警戒心が薄い?

シカもバンダースナッチも、バカみたいにククリ罠に掛かりまくるのって警戒心の薄さが原因だよね?

イエーティも同じように警戒心の薄さを持っているのだとすれば、ワナに掛かりまくってくれるんじゃ?

なら、ブービートラップが有効かも。

私の考えが纏まったのを見透かしたようにお母様の声が掛かる。

「何か思い付いたか?」

「・・・あ。うん。対人ワナはどうかな」

私の提案にドネルクさんが首を傾げた。

「対人用だと? 騎士たちに教えたというアレのことか?」

「・・・はい。その対人用です」

ドネルクさんの問いにコクリと頷いて返す。

そういえば、ドネルクさんはブービートラップを見ていないのか。

王都騎士団の騎士様たちから報告は聞いたみたいだけど、現物を見ないとイメージしにくいだろうね。

私の答えにお母様も首を傾げる。

「対人用というのは、どういう意図でだ?」

「・・・採掘場で使ってるワナって、獲物の動きを封じるのが目的の、いわば、防衛用のワナなんだよ」

「防衛用か。確かにそうだな」

採掘場のワナを何度も見てきたお母様も同意する。

ワナと言ってもククリそのものに攻撃力は無いからね。

「・・・対人用のワナって、獲物を殺傷するのが目的の、いわば、攻撃用のワナってことになるんだよ」

「ふむ?」

ピンと来ていないらしいドネルクさんが首を傾げる。

暗殺未遂事件のときにお母様は“バンブーウィップ”も見てるから、お母様がイメージ出来ないってことはないはずだけど、ドネルクさんには補足が必要かな?