軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンカウント! ㉑

私たちだけじゃなく、エゼリアさんたちとピーシーズとミセラさんたちも入室すれば、そこそこ広い食堂も人で一杯になる。

立場が上の人から順に座れるだけ椅子に座って、椅子の数が足りない人たちは背もたれ越しにテーブルへ向いて立つ。

テーブルクロスも敷かれていない長大な食卓テーブルの上に、マリッドさんが大きな羊皮紙を広げる。

略図、といっても良い感じの絵が描かれた羊皮紙は、この町を中心にした周辺地域の地図だった。

予定になかった魔獣討伐の作戦会議だけど、誰1人として動揺を見せない。

「状況の再確認からだ」

「はっ。第一報が入ったのは昨日の夕刻です」

お母様の指示に短く答えたマリッドさんが地図の1点を指し示して、テーブルを囲む全員の目が地図に集まる。

ニキビ断面図のような森の形状を記した地図の上の方、採掘場から見ると崖上をさらに奥へ入って西側へ寄った辺りかな。

「随分と疲弊したフィッツベルン領の開拓民が数人、旧ムーアの町に駆け込んできました」

開拓民かぁ。

なんで森に? って気はするけど、ディディエさんたちの実家が有った村みたいなところの住民だろうね。

マリッドさんの状況説明にお母様とドネルクさんが怪訝な顔をする。

「フィッツベルン領だと?」

「開拓民が森へ踏み込んだのか」

「例の流行りですよ。ウォーレス領の領有宣言で領主が開拓を推奨しているという」

質問をぶつけられたマリッドさんが肩を竦める。

ええ・・・。そんなトレンドが有るの?

ウォーレス領が天然素材を使ったククリ罠で状況を変えることが出来たのは、弱い魔獣しか出ない南部の森だからじゃないかな。

マリッドさんの返事を聞いて、北部地域出身のドネルクさんが呆れ顔で首を振る。

「やれやれだな。そんなに簡単に開拓できるものなら苦労せんのだが」

「それで、その開拓民が?」

回復薬を味見させられたような表情でお母様が首を傾げる。

「バンダースナッチに追われて逃げてきたようです」

「よく逃げ切れたな」

眉間に皺を寄せたドネルクさんも首を傾げる。

バンダースナッチね。

私もドネルクさんに同意だよ。

ウォーレス領でお肉扱いしているバンダースナッチも、ワナで身動き出来ないように拘束しているから安全に狩れているだけで、私だって自由になる状況でバンダースナッチと対峙しようとは考えない。

本来の棲息域はファーレンガルド領の辺りから北側なんだっけ?

フィッツベルン領から採掘場までの距離も、奥へ踏み込んで行く方角が違いだけでウォーレス領と距離自体は変わらないんだよ。

むしろ、フィッツベルン領はファーレンガルド領の南隣なんだから、南下してきたバンダースナッチの通り道になっている危険地帯と考える方が普通でしょ。

「何人も仲間を食われて必死に逃げている内に、バンダースナッチがピタリと脚を止めたそうですが」

「抵抗したわけでもないのに、バンダースナッチが途中で追うのを止めたと?」

マリッドさんに質問を返しながら、お母様が私へ視線を向けてくる。

どういう状況なのかの予想を言えって?

ふむ・・・。

1人、また1人と仕留めてきた獲物の群れを、優勢なバンダースナッチの群れが諦める状況?

弱肉強食の世界に生きている野生動物というものは、滅多なことで自分よりも強い敵には挑まない。

第三者の―――、自分たちよりも強い魔獣の存在を警戒したとしか考えられないよね。

「・・・熊の縄張りに気付いたんじゃないかな。どう?」

「バンダースナッチの追跡から逃れて少し離れた辺りで爪痕を見付けたそうです」

私の予想にマリッドさんが頷く。

最初に聞いた情報に繋がったね。

だったら、状況確認はここまでかな。

私と同じ結論に至ったらしいお母様が具体的な方法論に踏み込んでくる。

「本当にイエーティだった場合、罠で対応できるものか?」

「・・・うーん。熊は力が強いし2足で立つからククリでは無理かも」

ククリというものは張力で拘束して獲物の抵抗と逃亡を妨害するものだから、素材の強度を超える力が掛かったり張力を緩められると無効化されてしまう。

犬だってシカだって2足で立ち上がるじゃん! と考えるのは浅はかだよ。

2足で直立して戦闘力が低下しない4足動物なんて、熊以外だと猿かカンガルーぐらいじゃないかな。

少なくとも、私はそのぐらいしかパッと思い付かない。

「その場合、どうするんだ?」

「・・・箱ワナ―――、金属製の頑丈な檻を仕掛けて寄せエサで釣る、かな」

昔は動物の顎を模した“トラバサミ”もよく使われてたらしいけど、人里の近くに仕掛けて人身事故が多発したことで日本では使用が禁止されていた。

さらに言えば、蝶番を使った構造のトラバサミは、全方位から締め付けるククリと違って一方向の動きになるせいか、獲物が暴れると意外にワナから抜けちゃうらしいんだよ。

もちろん、獲物は脚に大怪我を負うわけだけど、確実に命を奪えるわけじゃないから手負いになる。

当然のことながら、手負いの野生動物は凶暴になるから2次被害が起こる可能性も有る。

トラバサミを作るには強力なバネが必要になるから、技術面を考えても箱ワナの方が再現性が高いだろう。

ただし、箱ワナが現実的なのかと言えば、私の答えはNOだ。

私の答えを聞いたお母様が思案顔で首を傾げる。

「金属製の檻か。準備に時間が掛かりそうだな」

「・・・上手く見付けられるのなら魔法で狩る方が早いと思う。ワナって仕掛けておいて獲物が掛かるのを待つものだし」

もう1点、箱ワナには指摘しておくべき問題点がある。

金属製の箱ワナは強度を持たせて頑丈に作れば分厚い鉄板や太い鉄棒を材料に使うことになるわけで、下手をすれば数百キログラムも重量が有る鉄の箱を人力で運び込むことになり兼ねない。

そんなクッソ重たいものを誰が森の奥まで運ぶの?