軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コーニッツ・ムーア制圧戦 ⑱

このデブ、馬鹿なんじゃない? 分かり易すぎるよ。

貴族って腹芸で優雅に本心を隠すものだと想像していたのだけれど、そうでもない?

「ブヒッ!」

ハロルド様に鼻っ柱を蹴られた男爵が盛大に鼻血を噴き出しながら卒倒し、冷ややかに男爵を見下ろすハロルド様は、冷淡に告げた。

「連行しろ」

「はっ!」

捕縛用の縄を手にした騎士様たちが、一斉に動き始めた。

「さあ、帰るぞ」

「はっ」

ルナリアと私の頭をぐりぐりしたお師様に、エゼリアさんたちは敬礼で応えた。

電撃的に攻め込んだウォーレス領軍は、嵐のように荒れ狂い、悪夢のように姿を消す。

全軍に下された撤退命令に従い、ウォーレス軍は速やかにムーアの町を後にした。

黙々と、粛々と、撤収するウォーレス軍に対して、ムーア兵の攻撃は無かった。

来た時と違って、ルナリアはハロルド様の馬上へと攫われ、私はお師様の馬の鞍の上に乗せられている。

凛々しく前を見据える白皙を、肩越しに見上げる。

「・・・お師様」

「なんだ?」

「・・・せっかく攻め落とした敵の本拠地を、あっさりと手放しても良いの?」

「構わん。残党どもが挙兵したところで蹴散らせばいい。むしろ、挙兵してくれた方が後腐れなく処理できる」

「・・・支配者が居なくなって住民が盗賊になったり、無法地帯にならない?」

「それは王家が考えることだな。まだ押し付けられてもいないのにウォーレス家が面倒を見てやる理由は無い。むしろ、盗賊になってくれれば遠慮なく狩れるじゃないか」

「・・・王様から責められない?」

「今回の我らの目的はコーニッツ・ムーア両家の主要人物の身柄を押さえることで、私怨だけで挙兵したわけではないぞ?」

他国と結んでリテルダニア王国に害を及ぼそうとする“融和派”の企みを挫く、って大義名分だったね。

「・・・なるほど。大人の時間」

「大人の? ああ、尋問のことか」

ドSの女王様であるらしいお師様は、朗らかに笑った。

「王国に仇なす悪党を捕らえて奴らの悪事を吐かせるのは、私の権限の内だからな」

「・・・お師様の権限?」

そういえば、ワールターさんとの話でも、ちらっと言っていた気がする。

「特務魔法術師は、領主貴族の権限を越えて悪党の殲滅や尋問が許される」

「・・・おお・・・」

特別捜査官だと思っていたら、特別高等警察・・・、いや、ゲシュタポ的な何かだった!

コーニッツ子爵家一族、ムーア男爵家一族の主要人物はレティアの街へと身柄を移され、コーニッツ領内、ムーア領内に残った繋累が挙兵したとしても、圧倒的な戦力を誇るウォーレス領軍はすでに自領へと引き揚げていて、盗賊化したとしても万全の防衛体制に移行したウォーレス領軍に領地境界で迎え討たれる。

あくまでもウォーレス家に領地的野心は無く、豊富な戦闘経験を持ち十分な備えを怠らないウォーレス侯爵家の強兵が、烏合の衆に敗れることなど無いってことね。

王様たちは頭を抱えるかもしれないけれど、お師様が「大人の時間」で犯人たちに自白させてしまえば、王様たちのために真面目に働いているウォーレス家が責められることは無い。

お師様が必要と判断して権限を行使した以上、この件においてウォーレス家は安泰。

ウォーレス家は確かに強いけれど、一番強いのはお師様なんじゃないだろうか。

「覚えておけ。ウォーレスは王国の盾だが同時に王国の剣でもある。中でも、ピーシスはウォーレスの剣だ。ピーシスを名乗る者は、誰よりも強く、王国にとって正しく在り続けなければならん」

真っ直ぐに前を見据える迷いの無い眼差しに、お師様の覚悟と矜持を見た気がした。

「・・・誰よりも、強く、正しく」

「“白焔”を継ぐということは、お前も、そう在らねばならんということだ」

「・・・は、はい」

ん? 雰囲気的に返事しちゃったけれど、特務魔法術師って役職も私が継げってことじゃないよね・・・?

大人の時間も私がやるの? ええ・・・?

任命されていると言っていたはずだから、王様から私が認められない限りは無いよね?

衝撃を受けている私にお構いなく、ポックリ、ポックリと蹄を鳴らして騎馬列は進む。

こうして、一方的な蹂躙劇、コーニッツ・ムーア制圧戦は、わずか数時間で終了し、畳んだ毛布を乗せた鞍に設置された私のお尻は、休む間もなく虐められることになった。

片道、四十数キロメートルの道のりを2時間と少しで駆け抜けた往路と違って、復路は常足だからマシだとは言え、馬が歩く限りは私のお尻にじりじりと蓄積ダメージは入る。

「・・・痛い」

「わたしも・・・」

がんばった馬を休ませる休憩時間に、お師様に爆笑されながら私がお尻を押さえて唸っていたら、ルナリアもお尻を押さえて唸りながらやってきた。

帰ったら、すぐに乗馬の練習を始めようね、と、ルナリアと私は誓い合った。