軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コーニッツ・ムーア制圧戦 ⑰

10分間も歩かないうちに、私たちの馬は目抜き通りの大きな四つ角を曲がり、数分ほどで、高い鉄柵に囲まれた豪奢な大邸宅の前へと到着した。

無残に拉げて開け放たれている門扉を抜けると、踏み荒らされた花壇や芝生の上に、数十人の人々が着の身着のままで跪かされている。

虜囚を取り囲むウォーレスの騎士様たちが、固めた右拳を胸に当てる仕草で敬礼した。

厳しい顔で頷きを返したハロルド様を先頭に、私たちの馬は歩を進める。

「ウォーレス卿! これは一体、どういうつもりか!?」

馬上にハロルド様の姿を認めて、一人の男が叫びを上げた。

「狂人どもめ! このような無法が許されると思うな!」

乱れた茶色の髪にちょび髭の、丸々と太った樽のような体形の男だった。

醜く肥え太った、この男が、ムーア男爵らしい。

目を血走らせ青筋を立てる男を、ハロルド様が冷ややかに見下ろす。

「これで“保守派”も終わりだ! 王家へ報告して貴様らを―――、ぶげっ!」

唾を飛ばして喚いていた男が真横へ吹き飛んだ。

蹴り上げた長い脚を下ろしたのは、いつの間にか馬から降りていたお師様だった。

「よう、豚野郎。年の瀬以来か?」

2メートルほども吹き飛んだ男爵の横顔には、靴型がくっきりと付いている。

「がはっ! がふっ! は、白焔の魔女―――、ぐえっ!」

「馴れ馴れしく口を利くな。うっかり首を斬り落としてしまうじゃないか」

弛んだ腹を再び蹴り上げたお師様がサーベルの柄頭を撫でる。

こっ、怖っ!

深緑色の瞳に憎悪を滾らせるお師様は、恐怖に凍り付く男爵を力尽くで黙らせた。

「あなたたち! こんなことをして、お兄様がお許しになりませ―――、ギャアッ!」

「はいはい。その臭い口は閉じていてくださいね?」

ぶくぶくと、ふくよかなドレス姿の女性の尻を、歩み寄ったエゼリアさんが剣で突き刺した。笑顔のままのエゼリアさんも怖いよ!

ひと際、けばけばしい身なりのこのオバサンは、男爵の奥様かな?

なるほど。「お兄様が」ってことは、親戚関係とは聞いていたけど、コーニッツ子爵はムーア男爵の義兄らしいね。

お師様の目が私たちに向く。

「ルナリア。フィオレ」

「・・・は、はいっ」

アンリカさんに片腕で抱えられて馬から降ろしてもらった私は、エゼリアさんに手伝ってもらってハロルド様の馬から降りたルナリアと共に、急いでお師様の傍へと駆け寄った。

ルナリアと並んで、お師様の前でビシッと気を付けする。

言葉を交わしてはいないけれど、私と同じ思いだったらしいルナリアも、私と一緒に直立不動だよ。

だって、めちゃくちゃ怒っていて怖いんだもの。

新兵訓練施設(ブートキャンプ) へ放り込まれた新兵は、今の私たちと同じ心境なのだと思う。

お師様の眼差しが男爵へと戻ったのを見て、私とルナリアは詰めていた息を同時にそっと吐きだした。

「な、何故お前が・・・!?」

ルナリアの顔を見た男爵の顔色が、みるみるうちに青くなる。

暗殺は成功したと思っていたのかな?

ルナリアとマーサさんを含めた7人に対して、1個小隊31人も送ったんだものね。

悠々と馬を降りたハロルド様が男爵を見下ろして立つ。

激高することもなく静かな所作だけど、その目からは激しい怒りが透けて見える。

「ラッドと言う名だったか。暗殺部隊の指揮官は全て吐いたぞ」

「しっ、知らん! そんな奴は知らん!」

ピクリとハロルド様が眉根を寄せた。

へえ? 自分の保身で、危ない橋を渡らせた自分の家来を切り棄てるんだ?

ハロルド様も不快に感じたみたい。

「2年前にコーニッツと共謀して 卿(けい) が行った、マークスの暗殺もな」

ぐっと罵倒を呑み込んだらしいハロルド様が静かに告げる。

「言い掛かりだ! 儂は何も知ら―――、ギャッ!」

「やかましい」

音も無くサーベルを抜いたお師様が、男爵の腿を切っ先で突いていた。

「コーニッツも既に御大が押さえたからな。お前が吐かずとも、すぐにコーニッツが吐く」

「ぐっ・・・!」

盛大に顔を顰めた男爵の前で、お師様がポンと私の頭に手を置いた。

「お前、こいつの顔に見覚えが有るだろう」

「は・・・? 何を―――、え、エクラーダ人!?」

私の顔を見た途端、男爵は小さく目を瞠り、さっと脂ぎった顔を逸らした。

「やはり、見覚えが有ったか」

「し、知らん! 小汚い奴隷など、儂は―――、ぐはっ! ヒィッ!」

「お前、には、全て、吐いて、貰うぞ」

一言、一言を区切りながら、お師様は何度も男爵を足蹴にする。

ああ、そう。やっぱり奴隷売買関係者だったんだね。

私には、怒り狂うお師様を止める術は無いし、止める気もさらさら無い。

「最っ低!」

憎しみを込めて吐き捨てたルナリアの手をそっと握ると、ルナリアもぎゅっと私の手を握り返してきた。

これで確信は確定に至り、“保守派”は“融和派”を 掣肘(せいちゅう) する大義名分を確実にした。