軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生態系の覇者 ㉛

「燃やせ燃やせ!」

「フィオレ様が抑えてくださっている間に勝負を付けるぞ!」

オレンジ色の人魂を思わせる火球があちこちからヒョロヒョロと飛び、押し寄せる水のように地を這って幾筋もの炎が奔る!

向かう先は1点!

“2号”が捕まえている巨大な節足動物の下だ!

急造された広場を囲む木々がオレンジ色に照らされて、“2号”ごと炎に包まれる!

「ギッ!? ギチチチチッ!!」

今や異世界の存在となってしまった島国に「飛んで火に入る」という諺が有るように、明るさに誘われた虫が炎に飛び込めば、虫など簡単に焼け死ぬ。

死ぬはずなのだ。

普通の虫であれば。

他方、魔獣という生物は強い。

個として強靱なのだ。

これが虫型の魔獣となれば、どうなるかというと、熱を感じ取ったのか危険を感じ取ったのか、身を捩るように抵抗を強めた蜻蛉の親玉は、まだ穴の中に有る羽根を羽ばたかせた!

「・・・えっ!? うそっ!!」

本能に従ってのことか、それとも理解した上でのことか、半ば鞘に収まった剣と同じ状態の羽根を無理やり羽ばたけばどうなるか!

剣でも半ば鞘に収まったままで無理に捻れば、鞘が壊れるか剣身が曲がるか折れるか!

硬く強い組成物で構築された羽根は軽く強靱でしなやかだとしても限界は有る!

己の最大の武器であり生命線でもある羽根が半ばで破断し粉砕したとしても殺されるよりはマシだと言わんばかりに、超・超巨大蜻蛉は渾身の力で羽ばたいてみせた!

半分ほどに千切れ飛んだとしても長さ10メートル近く有る羽根だ!

表面積が減少して抵抗が減った分も上乗せされた羽ばたきは強く速い!?

濛々と土煙を上げて巻き上げられた風は大気を掻き回し、地表を薙ぎ払う!

「どわああああああっ!!」

「うおっ!? 危ねえ!!」

砂混じりの炎が逆流し、炎を放った包囲陣を襲う!

さしずめ炎の嵐だ!

慌てて跳び下がったり地面に身を投げ出して伏せたりで何とか難は逃れたけど、放った炎は掻き消されてしまった!

「反撃を食らうぞ! 気を付けろ!!」

「視界の外から狙え!! 同士討ちは避けろ!!」

「「「「「は、はいっ!!」」」」」

混乱を抑えるためだろうけど、“王国の武”を象徴するドネルクさんがアドバイスを飛ばしてくれている!

ところが、それを聞いた私は微妙な気分になった!

いやあ。視界の外は難しいんじゃないかなあ。

確か、蜻蛉の複眼って、ほぼ360度見えるんじゃなかったっけ?

カマキリなんかも視界が広いけど、蜻蛉はカマキリ以上って聞いたことが有る気が・・・。

迂闊に口を挟むと「何でそんなこと知ってんだ?」ってなるし、情報を伝えにくいなあ。

かと言って、怪我人が出るのを指を咥えて見ているわけにも行かないし、どう伝えたものかなあ。

ともかく、羽根を何とかしないことには火魔法で焼くのも難しそうだ。

ブウウウウウウウウウウウウン!! と大気そのものが震動するような大きな羽ばたきの音は三半規管を直撃し、平衡感覚を狂わされて私の視界がグラリと揺れる!

ファンを高速回転させる馬鹿デッカい送風機の目の前に立たされた気分だ!

爆音を発する大型スピーカーの前に立たされても空気の震動で平衡感覚を狂わされることは有る!

人間の三半規管はそのぐらい空気の高周波振動に弱い!

意識を揺さぶられれば制御が揺らぐ!

さらには―――

「「「「「グワ―――ッ!!」」」」」

「ふぎゃ―――ッ!!」

ダメ押しとばかりに、一瞬、頭の中が真っ白に塗り潰された!

今、聞こえたのは、みんなの悲鳴!?

ルナリアっぽい悲鳴も聞こえた気がする!

視界も一瞬だけホワイトアウトしたけど、バクバクと鼓動が速くなって手足の力が抜けそうになっただけで視界は戻った!

「何だ!? 今のは!!」

「電撃だ!! 手足が痺れてる!!」

そっか! 電撃か!

やられた! まともに反撃を食らった!

「・・・ちょっ! マジ!?」

奥歯を食い縛って両足を踏ん張る!

両膝から力が抜けそうになってガクガクと震えるけど気合いと根性で堪える!

ダメだ! 意識をハッキリと持て!

魔力制御を手放せば、振り払われるだけじゃなくダンジョンに“2号”を 浸透(ハッキング) される!

“2号”の両腕が緩んだ隙に、ズルリと拘束を逃れた超・超巨大蜻蛉が“2号”の頭上を乗り越えようとする!

両腕の間から蜻蛉の胸部が抜けてしまって“2号”に抱き付き直させる!

何とか捕まえたのは蛇のように長い腹部の付け根あたりだ!

両腕で抱き込むようにしっかりと捕まえ直したけど、羽根が生えている胸部は自由になってしまっている!

慌てて魔力の手も総動員して蜻蛉の腹を捕まえる!

「・・・こ、このままじゃ拙い!!」

まだ頭がクラクラしていて私の魔力制御は怪しい状態だ!

魔力の手の触感が怪しい!

さらに輪を掛けて触感が無く硬い“2号”の両腕では感覚が掴めない!

両腕の間から比較的柔らかい腹部が抜け出してしまう可能性も有る!

どうする!? どうすれば良い!?

蜻蛉は前進して“2号”の頭上を乗り越えようとしている!

どうやって、もう一度頭を抑え直して押さえ込めば良い!?

木か壁にでも蜻蛉の頭を押し付ければ前進は止められる!?

平衡感覚が狂ったままの私の脳裏に閃きが奔る!